2024年05月11日
その時肩に担がれた三津の姿を見た
その時肩に担がれた三津の姿を見た。だらりと下げられた頭は見えたが顔は見えなかった。
それから部屋に転がされ,手足を縛られてるのを見た。
『これ本当に土方の女?子供やない?』
畳に転がってる三津は小柄で細くてどう見ても子供に見えた。
『そう言う趣味?人って分からんな。』
その時の感想はそんなもの。それから部屋に戻ろうとしたら騒ぎの様子を見に久坂も出て来て呼び止められた。
「あの部屋何が居るの?」 https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/2774971.html http://mathewanderson.blogg.se/2024/may/entry.html https://mathewanderson.asukablog.net/Entry/4/
三津の放り込まれた部屋を藩士達が代わる代わる覗きに来る。その度に連れてきた奴らが得意気な顔をする。
「土方の女攫ってきたって。どう見ても子供なんやけど。間違って連れてきたんじゃない?」
「子供?」
久坂は眉間にしわを寄せて部屋を覗きに行った。入江もその背後からもう一度中を見た。三津はまだ気を失ってるままだった。
「子供だな……。土方ってそう言う趣味?」
「私と同じ事言っとる。間違いなら親元に帰してやりたいけどこんな事しといて帰せないよね?」
「無理だな。殺すか遊郭に売るか。」
「可哀想。まだ小さいのに。」
「ねぇ何の騒ぎ?」
そこへ外から帰って来た吉田がふらりと現れた。
「土方の女捕まえたんだって。」
入江が見てみと中を指差すと,
「は!?」
吉田は群がる藩士達を押し退けて部屋へ踏み込んで三津の顔を確認した。「捕まえたの誰?」
『ん?怒っとる?』
入江からは吉田の背中しか見えてない。だが声色が完全にキレている。
それに気付かず攫ってきた馬鹿共がまた得意気に自分達だと語りだす。
「そう。君ら後で痛い目見るよ。これをどうするか判断するのは桂さんだ。桂さんが戻るまで絶対に手出しするな。いいか。じゃないと斬るよ。」
吉田はその場に居る全員を牽制した。
「怒り狂ってんなぁ……。」
「ねっ。珍しい。関係ない娘連れて来たからかねぇ?」
それから久坂は触らぬ神に祟りなしと部屋に逃げた。入江も戻ろうと思ったが吉田の態度がどうしても気になった。
『そんなに怒る事?あの娘の命ぐらい稔麿にはどうって事ないやろ。』
気になった入江はその後の吉田の様子をこっそり観察した。
一度部屋に戻った吉田は何度も三津の居る部屋を見回りに来る。そっと中を覗いては戸を閉めて前の廊下を行ったり来たり。
『何がしたいの?そんなに気になる?』
吉田の行動が不可解で今までに見たことの無い姿に入江まで動揺し始めていた時,久坂が吉田を呼びに来た。吉田は名残惜しそうに久坂の自室へついて行く。
『私には内緒の話し?仲間外れなんて冷たいなぁ。』
入江は忍び足で部屋に近付いて二人の会話を盗み聞き。
「あの子,桂さんの判断で家に帰すことは可能だと思う?お前の言い方気になったんだけど。」
『そうそう,私も気になった。』
「あれね土方の女ではないよ。ただの壬生狼の女中。んで桂さんとも面識あんの。覚えてない?桂さんの腕の手当てした子の話。」
「えっあの子なの?」
『えっそこに繋がってんの?』
「そう,あれがそう。だから勝手に処分出来ないよ。でもこんな手荒な真似した以上外に出すのもねぇ……。
だから早急に桂さんに戻るように……。」
「おいっ!女起きたってよっ!」
廊下の奥から響いたその声に久坂の部屋の戸が勢い良く開いた。
その中から吉田が飛び出して来た。入江は壁にへばりついた状態でその姿を見送った。
それから部屋に転がされ,手足を縛られてるのを見た。
『これ本当に土方の女?子供やない?』
畳に転がってる三津は小柄で細くてどう見ても子供に見えた。
『そう言う趣味?人って分からんな。』
その時の感想はそんなもの。それから部屋に戻ろうとしたら騒ぎの様子を見に久坂も出て来て呼び止められた。
「あの部屋何が居るの?」 https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/2774971.html http://mathewanderson.blogg.se/2024/may/entry.html https://mathewanderson.asukablog.net/Entry/4/
三津の放り込まれた部屋を藩士達が代わる代わる覗きに来る。その度に連れてきた奴らが得意気な顔をする。
「土方の女攫ってきたって。どう見ても子供なんやけど。間違って連れてきたんじゃない?」
「子供?」
久坂は眉間にしわを寄せて部屋を覗きに行った。入江もその背後からもう一度中を見た。三津はまだ気を失ってるままだった。
「子供だな……。土方ってそう言う趣味?」
「私と同じ事言っとる。間違いなら親元に帰してやりたいけどこんな事しといて帰せないよね?」
「無理だな。殺すか遊郭に売るか。」
「可哀想。まだ小さいのに。」
「ねぇ何の騒ぎ?」
そこへ外から帰って来た吉田がふらりと現れた。
「土方の女捕まえたんだって。」
入江が見てみと中を指差すと,
「は!?」
吉田は群がる藩士達を押し退けて部屋へ踏み込んで三津の顔を確認した。「捕まえたの誰?」
『ん?怒っとる?』
入江からは吉田の背中しか見えてない。だが声色が完全にキレている。
それに気付かず攫ってきた馬鹿共がまた得意気に自分達だと語りだす。
「そう。君ら後で痛い目見るよ。これをどうするか判断するのは桂さんだ。桂さんが戻るまで絶対に手出しするな。いいか。じゃないと斬るよ。」
吉田はその場に居る全員を牽制した。
「怒り狂ってんなぁ……。」
「ねっ。珍しい。関係ない娘連れて来たからかねぇ?」
それから久坂は触らぬ神に祟りなしと部屋に逃げた。入江も戻ろうと思ったが吉田の態度がどうしても気になった。
『そんなに怒る事?あの娘の命ぐらい稔麿にはどうって事ないやろ。』
気になった入江はその後の吉田の様子をこっそり観察した。
一度部屋に戻った吉田は何度も三津の居る部屋を見回りに来る。そっと中を覗いては戸を閉めて前の廊下を行ったり来たり。
『何がしたいの?そんなに気になる?』
吉田の行動が不可解で今までに見たことの無い姿に入江まで動揺し始めていた時,久坂が吉田を呼びに来た。吉田は名残惜しそうに久坂の自室へついて行く。
『私には内緒の話し?仲間外れなんて冷たいなぁ。』
入江は忍び足で部屋に近付いて二人の会話を盗み聞き。
「あの子,桂さんの判断で家に帰すことは可能だと思う?お前の言い方気になったんだけど。」
『そうそう,私も気になった。』
「あれね土方の女ではないよ。ただの壬生狼の女中。んで桂さんとも面識あんの。覚えてない?桂さんの腕の手当てした子の話。」
「えっあの子なの?」
『えっそこに繋がってんの?』
「そう,あれがそう。だから勝手に処分出来ないよ。でもこんな手荒な真似した以上外に出すのもねぇ……。
だから早急に桂さんに戻るように……。」
「おいっ!女起きたってよっ!」
廊下の奥から響いたその声に久坂の部屋の戸が勢い良く開いた。
その中から吉田が飛び出して来た。入江は壁にへばりついた状態でその姿を見送った。
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2024年05月10日
入江は掴んでいた腕を乱雑に投げ捨てた
入江は掴んでいた腕を乱雑に投げ捨てた。それから空いた手は胸ぐらを掴みにいった。気遣いなんか無用だと判断した。
「寄り添おうとする松子の気持ちを無下にしちょるんやぞ。あんたの勝手に精一杯応えようとしよるのに。」
「違う……。私達夫婦が夫婦としてある為には必要な事だ。
だが口数が少な過ぎた事は謝る。明日は今日より喋る。」
「ちゃんと松子の目も見ちゃり。口数減らすだけやなくて顔すら見とらんやろが。
それとも何?松子とは見つめ合えんが私とは見つめ合えるって言うのは……つまりそう言う事?」
目の前の入江がにやりと笑い桂は危険を察知した。入江は胸ぐらを掴んだままぐいぐい間合いを詰めようとしてくる。
「馬鹿言うな!そんな訳あるか!」
入江の両手首を掴んで距離を取ろうと押し返す。
「照れんでもいいやないですか。一度口付けした仲やないですか。」 https://paul.3rin.net/Entry/5/ https://johnn.animech.net/Entry/5/ https://johnn.anime-cosplay.com/Entry/5/
「あれは事故だ!いや事件だ!襲撃事件だっ!」
「あら,強引なのはお好みやなかったんですね。じゃあ襲う側がいいですか?」
こうなると完全に入江の悪巧みにどっぷり嵌ってしまう。入江は距離を詰めるのをやめて体の力も抜いてふらっと後ろに体重を預けた。
「げっ!」
桂は背中から倒れ込む入江に引っ張られ,押し倒す体勢になってしまった。
いくら入江が受け身を取っても男二人が倒れ込めば派手な音がする。
「何事ですか!?」
その音に三津は慌てて戸を開き,入江を押し倒す桂を見て戸を閉めた。閉じられた戸の向こう側からは“お邪魔しました”と声が聞こえた。
「違う!松子誤解だっ!」
桂は慌てて体を起こして部屋の中へ駆け込んだ。その必死さに入江は腹を抱えて廊下を転げた。一応他の客も居る。迷惑にならないように笑い声は上げなかった。
「松子話を聞いてくれ!」
「それ完全に浮気男が言う台詞ですね。」
「浮気なんかしてないっ!あれは男だぞ!?あり得ん!!私は松子一筋だ!!」
頼む信じてくれと三津の両肩を掴んで顔を寄せた。間近で見る眼力は相変わらずだなと思いながら三津は落ち着きましょ?と桂を宥めた。
「松子一筋なんはみんな知っちょる。本当に落ち着いて?」
入江は笑いで滲んだ涙を拭いながら部屋の中に戻った。
「小太郎さん何したの?あんまり主人いじめないで?」
「すまん,でも手押し相撲で力任せに押してきたら一旦退くのが普通やろ?やけん力抜いたらこの人が倒れてきたそっちゃ。」
「こんな時刻に宿の廊下で手押し相撲が普通じゃない。」
ずっと喉を鳴らして笑う入江に三津は真顔で返した。宿を追い出されるような事はしてくれるなよと。
「さぁて私も体拭いて来よっと。その間に傷心の旦那慰めちゃり。」
にやにや笑う入江は荷物から手拭いを取り出して,三津の頭の上で手をぽんぽんと二度弾ませてから部屋を出た。
『ホンマに小太郎さんの本心も未だに読めんわ……。』
私もまだまだ振り回されてるなと三津は小さく息を吐いた。
そして桂に目をやると分かりやすく動揺していた。
「ホンマに何してたんです?」
「何もしてない……。今日の私の態度を諌められただけで……。」
「それで取っ組み合いの喧嘩にでもなりかけたんですか?」
それなら納得いくなと三津は腑に落ちた顔をした。こちらに心配かけまいと入江がいつものように戯けて誤魔化したんだと思えば納得できる。
桂からしても三津がそれでこれ以上掘り下げないでくれるならそう言う事にしておきたい。全力で頷いてそう言う事にした。
『あとはわざと準一郎さんを動揺させて私との仲を取り持とうとしたんやろな。』
あからさまに避けられた自分を不憫に思ったのかもと考えた。
『小太郎さん優しいからなぁ……。』
三津はさっき入江が手拭いを濡らしに行く前にかけてくれた言葉と,仕草を思い返して小さく溜息をついた。
“外に出とくけぇ着替えり”
初めて肌を合わせた翌朝,そう言って気遣ってくれたのを鮮明に思い出せて一気に顔は熱を帯びた。
急に顔を赤らめたのを不思議に思った桂はその頬に手を伸ばした。
「寄り添おうとする松子の気持ちを無下にしちょるんやぞ。あんたの勝手に精一杯応えようとしよるのに。」
「違う……。私達夫婦が夫婦としてある為には必要な事だ。
だが口数が少な過ぎた事は謝る。明日は今日より喋る。」
「ちゃんと松子の目も見ちゃり。口数減らすだけやなくて顔すら見とらんやろが。
それとも何?松子とは見つめ合えんが私とは見つめ合えるって言うのは……つまりそう言う事?」
目の前の入江がにやりと笑い桂は危険を察知した。入江は胸ぐらを掴んだままぐいぐい間合いを詰めようとしてくる。
「馬鹿言うな!そんな訳あるか!」
入江の両手首を掴んで距離を取ろうと押し返す。
「照れんでもいいやないですか。一度口付けした仲やないですか。」 https://paul.3rin.net/Entry/5/ https://johnn.animech.net/Entry/5/ https://johnn.anime-cosplay.com/Entry/5/
「あれは事故だ!いや事件だ!襲撃事件だっ!」
「あら,強引なのはお好みやなかったんですね。じゃあ襲う側がいいですか?」
こうなると完全に入江の悪巧みにどっぷり嵌ってしまう。入江は距離を詰めるのをやめて体の力も抜いてふらっと後ろに体重を預けた。
「げっ!」
桂は背中から倒れ込む入江に引っ張られ,押し倒す体勢になってしまった。
いくら入江が受け身を取っても男二人が倒れ込めば派手な音がする。
「何事ですか!?」
その音に三津は慌てて戸を開き,入江を押し倒す桂を見て戸を閉めた。閉じられた戸の向こう側からは“お邪魔しました”と声が聞こえた。
「違う!松子誤解だっ!」
桂は慌てて体を起こして部屋の中へ駆け込んだ。その必死さに入江は腹を抱えて廊下を転げた。一応他の客も居る。迷惑にならないように笑い声は上げなかった。
「松子話を聞いてくれ!」
「それ完全に浮気男が言う台詞ですね。」
「浮気なんかしてないっ!あれは男だぞ!?あり得ん!!私は松子一筋だ!!」
頼む信じてくれと三津の両肩を掴んで顔を寄せた。間近で見る眼力は相変わらずだなと思いながら三津は落ち着きましょ?と桂を宥めた。
「松子一筋なんはみんな知っちょる。本当に落ち着いて?」
入江は笑いで滲んだ涙を拭いながら部屋の中に戻った。
「小太郎さん何したの?あんまり主人いじめないで?」
「すまん,でも手押し相撲で力任せに押してきたら一旦退くのが普通やろ?やけん力抜いたらこの人が倒れてきたそっちゃ。」
「こんな時刻に宿の廊下で手押し相撲が普通じゃない。」
ずっと喉を鳴らして笑う入江に三津は真顔で返した。宿を追い出されるような事はしてくれるなよと。
「さぁて私も体拭いて来よっと。その間に傷心の旦那慰めちゃり。」
にやにや笑う入江は荷物から手拭いを取り出して,三津の頭の上で手をぽんぽんと二度弾ませてから部屋を出た。
『ホンマに小太郎さんの本心も未だに読めんわ……。』
私もまだまだ振り回されてるなと三津は小さく息を吐いた。
そして桂に目をやると分かりやすく動揺していた。
「ホンマに何してたんです?」
「何もしてない……。今日の私の態度を諌められただけで……。」
「それで取っ組み合いの喧嘩にでもなりかけたんですか?」
それなら納得いくなと三津は腑に落ちた顔をした。こちらに心配かけまいと入江がいつものように戯けて誤魔化したんだと思えば納得できる。
桂からしても三津がそれでこれ以上掘り下げないでくれるならそう言う事にしておきたい。全力で頷いてそう言う事にした。
『あとはわざと準一郎さんを動揺させて私との仲を取り持とうとしたんやろな。』
あからさまに避けられた自分を不憫に思ったのかもと考えた。
『小太郎さん優しいからなぁ……。』
三津はさっき入江が手拭いを濡らしに行く前にかけてくれた言葉と,仕草を思い返して小さく溜息をついた。
“外に出とくけぇ着替えり”
初めて肌を合わせた翌朝,そう言って気遣ってくれたのを鮮明に思い出せて一気に顔は熱を帯びた。
急に顔を赤らめたのを不思議に思った桂はその頬に手を伸ばした。
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2024年05月10日
三津に冷ややかな目で見られた桂はま
三津に冷ややかな目で見られた桂はまた泣きそうになった。
「すまない,もう寝ようか。また延々同じ事を話しそうだ。」
桂はぎこちない笑顔でおやすみと告げて目を閉じた。
『明日からは余計な事を言わんように口数減らすか……。
小太郎は松子が歩み寄ってると言ってくれたが,もう松子は小太郎に全てを任せてしまおう……。
きっとその方が上手くいく。』
追いかけても駄目,待っていても何も変わらない。ならば一度身を引いてしまった方がいいのかも知れない。
「明日も順調に歩けるといいですね。おやすみなさい。」
三津の声と共に頬に柔らかい感触があった。
『今私は頬に口付けされたのか?松子との距離を考えようと思っていた所で!?
目を開けたいっ!どう言うつもりか聞きたいっ!期待してしまうぞっ!!』
目を閉じたまま一人で悶々としていたが,待てよとすぐに冷静になった。
『今までこれで散々失敗してきた。ここで調子に乗ってはいかん。https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/2782116.html http://carinacyrill.blogg.se/2024/may/entry.html https://carina.asukablog.net/Entry/6/
松子は気を遣ってしただけだ……。そうすれば私が立ち直ると思っただけで,小太郎に抱くような感情は私には一切ないんだ……。』
桂は自分で自分に言い聞かせ,今までの振る舞いを思い返した。
『また好きになってもらえるように努めるなど言ったが,好きな相手と引き裂いて勝手に婚姻を結ぶような男を好きになるなんて有り得んだろ……。
愛されたいだなんておこがましい……。
私の勝手で傷付けたんだ。この際,形だけの夫婦で充分過ぎるだろ……。』
桂は決めた。もう三津の心を取り戻そうとするのはやめる。
『こうやって触れ合うのも極力避けよう……。だから今だけ……。』
京に着くまでは長旅だ。その間に起こる事態には不可抗力も含まれる。それ以外は余計な動きも考えもしないと決めた。
あちらに着けば今まで以上に慌ただしい日々になると思う。その中でたまに顔を合わせるぐらいがちょうどいい。
『出逢った頃と同じ生活に戻るだけでいい。松子にとってあの距離が一番心地良かったはず。
前に言ってたもんな……。近くにいるより離れて互いを思い遣ってる方が上手くいくと……。』
今度こそ三津の幸せを考えるんだと心に誓った。
翌朝,朝餉を食べてまた歩き出した三人は静かな物だった。
「無駄な体力は使いたくない。口数も減らすが君達は気にせず後ろを付いてきてくれ。」
朝餉の後,桂がそう言った。二人は分かったと言うしかない。
三津は歩調に配慮しながらも黙々と歩く桂の背中を追いかけつつ,すっと入江の方へと近付いた。
「昨日何があったんです?」こそっと小声で話しかけた。
「んー。私が思っちょる事を正直に話しただけ。」
「うん,それは分かってる。その内容が問題。」
三津がそこを詳しく聞こうとした所で桂の足がぴたりと止まった。三津は慌てて入江を距離を取り,桂と入江の中間ぐらいの位置で止まった。
「すまん,用を足してくる。」
それだけ告げて雑木林に姿を消した。姿が見えなくなってから三津はまた入江の傍に寄った。
「で?話の内容とは?勝手に人の何を幸せと議論したの?」
「えー議論っていうか,ちょっとキツめに私の本心を伝えたそ。
それで分かりやすく落ち込んでしょぼしょぼの木戸さんを,松子が可愛いと思って仲睦まじく過ごせばいいかと思ったんやけど。
逆に二人は何があったそ?」
『明確な意図があって強めに言った訳ね……。』
確かに入江の思惑通り気落ちした桂は弱々しくて包んであげたくはなったが,向こうがそこまで素直に甘えて来なかった。
「何もなかったと言うか,同じ話を延々繰り返しそうやからってあっちがすぐ寝ました。で,起きたらあれです。」
「すまない,もう寝ようか。また延々同じ事を話しそうだ。」
桂はぎこちない笑顔でおやすみと告げて目を閉じた。
『明日からは余計な事を言わんように口数減らすか……。
小太郎は松子が歩み寄ってると言ってくれたが,もう松子は小太郎に全てを任せてしまおう……。
きっとその方が上手くいく。』
追いかけても駄目,待っていても何も変わらない。ならば一度身を引いてしまった方がいいのかも知れない。
「明日も順調に歩けるといいですね。おやすみなさい。」
三津の声と共に頬に柔らかい感触があった。
『今私は頬に口付けされたのか?松子との距離を考えようと思っていた所で!?
目を開けたいっ!どう言うつもりか聞きたいっ!期待してしまうぞっ!!』
目を閉じたまま一人で悶々としていたが,待てよとすぐに冷静になった。
『今までこれで散々失敗してきた。ここで調子に乗ってはいかん。https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/2782116.html http://carinacyrill.blogg.se/2024/may/entry.html https://carina.asukablog.net/Entry/6/
松子は気を遣ってしただけだ……。そうすれば私が立ち直ると思っただけで,小太郎に抱くような感情は私には一切ないんだ……。』
桂は自分で自分に言い聞かせ,今までの振る舞いを思い返した。
『また好きになってもらえるように努めるなど言ったが,好きな相手と引き裂いて勝手に婚姻を結ぶような男を好きになるなんて有り得んだろ……。
愛されたいだなんておこがましい……。
私の勝手で傷付けたんだ。この際,形だけの夫婦で充分過ぎるだろ……。』
桂は決めた。もう三津の心を取り戻そうとするのはやめる。
『こうやって触れ合うのも極力避けよう……。だから今だけ……。』
京に着くまでは長旅だ。その間に起こる事態には不可抗力も含まれる。それ以外は余計な動きも考えもしないと決めた。
あちらに着けば今まで以上に慌ただしい日々になると思う。その中でたまに顔を合わせるぐらいがちょうどいい。
『出逢った頃と同じ生活に戻るだけでいい。松子にとってあの距離が一番心地良かったはず。
前に言ってたもんな……。近くにいるより離れて互いを思い遣ってる方が上手くいくと……。』
今度こそ三津の幸せを考えるんだと心に誓った。
翌朝,朝餉を食べてまた歩き出した三人は静かな物だった。
「無駄な体力は使いたくない。口数も減らすが君達は気にせず後ろを付いてきてくれ。」
朝餉の後,桂がそう言った。二人は分かったと言うしかない。
三津は歩調に配慮しながらも黙々と歩く桂の背中を追いかけつつ,すっと入江の方へと近付いた。
「昨日何があったんです?」こそっと小声で話しかけた。
「んー。私が思っちょる事を正直に話しただけ。」
「うん,それは分かってる。その内容が問題。」
三津がそこを詳しく聞こうとした所で桂の足がぴたりと止まった。三津は慌てて入江を距離を取り,桂と入江の中間ぐらいの位置で止まった。
「すまん,用を足してくる。」
それだけ告げて雑木林に姿を消した。姿が見えなくなってから三津はまた入江の傍に寄った。
「で?話の内容とは?勝手に人の何を幸せと議論したの?」
「えー議論っていうか,ちょっとキツめに私の本心を伝えたそ。
それで分かりやすく落ち込んでしょぼしょぼの木戸さんを,松子が可愛いと思って仲睦まじく過ごせばいいかと思ったんやけど。
逆に二人は何があったそ?」
『明確な意図があって強めに言った訳ね……。』
確かに入江の思惑通り気落ちした桂は弱々しくて包んであげたくはなったが,向こうがそこまで素直に甘えて来なかった。
「何もなかったと言うか,同じ話を延々繰り返しそうやからってあっちがすぐ寝ました。で,起きたらあれです。」
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2024年05月09日
「要するに今日は私と話がしたい訳だな?」
「要するに今日は私と話がしたい訳だな?」
だから三津はすぐ様部屋を出たのだと理解した。それだけ二人は意思の疎通が出来ているとも理解して何だか複雑だ。
ようやく分かってもらえたかと入江はにっと笑みを浮かべて本題に入った。
「今日有朋が三津に縋ったんです。」
「あぁさっきの話はそれか。それで?」
「私が思っとるよりアイツは繊細でした。晋作がおらんくなったら潰れそうで。」
「そうか……。乗り越えるには時間を要するか。三津は何と?」
「有朋ぐらい救える自信はあると。」
それを聞いて桂は吹き出した。やっぱり山縣に対する扱いはそんな感じかと笑った。
「有朋もそれにまんまと乗せられちょったんで。でも私の前でも泣くぐらいに情緒は不安定でした。私も晋作は年を越せるんか不安で。」
「そんなに状態は良くないのか。」
入江は無言で頷いた。
様子を見に行く事が出来てない桂は唇を噛みしめた。仲間の為に時間を作れてない自分が腹立たしい。
「晋作の気力を信じよう。あれはあれでしぶといだろ?」
そう言って笑ってみせるのが桂の精一杯だった。入江は確かにと笑みを浮かべた。でもそれは一瞬ですぐに翳りを見せた。
桂は何も言葉をかけてやれなかった。近くで様子を見ている入江の方が高杉の状態を把握している。よく分かっていない自分が言葉をかけた所で何の慰みにもならないと分かっている。
『最期の時は……看取ってやりたいな……。』 https://ameblo.jp/freelance12/entry-12850835805.html https://www.liveinternet.ru/users/freelance12/post505038180// https://plaza.rakuten.co.jp/aisha1579/diary/202405040000/
桂は仰向けになり小さく息を吐いた。
「私も……覚悟はしちょりますがその瞬間を迎えた時……私と有朋……三津にどれだけの負担をかけるでしょうか……。」
その言葉に天井を見上げていた桂は顔だけ入江に向けた。
入江の顔も桂の方を向いており,その顔は弱々しく笑っていた。
「そうだな……。君達を受け止めて疲れた彼女を包むのが私の役目だろう?」
「……不安です。」
「失礼な奴だな。」
お前にそんな役が担えるのか?と言ってるような目で見られて桂は不快感を顕にした。
「私で力不足なら君らで補い合えばいいだろ。」
どうせ最初からそのつもりだろと桂は不貞腐れた。その姿に入江は目を丸くしてからくくっと喉を鳴らした。
その表情が歳の割に幼く見えて可笑しかった。
「みっ,三津とアヤメさんが木戸さんが可愛いと言う意味が今分かりました。確かに拗ねた姿は可愛いですね。」
「心外だ。」
「やっぱり一度だけいいですか?」
「は?何の話……。」
一瞬だった。完全に油断していた。
『私達は真面目な話をしてたはずだ。そうだ晋作についてのとても大事な話だ。なのに何故今私は九一に口づけられている?
あぁ,夢か。私は疲れてるんだな……。そうだ,これは夢だ……。』
桂はそのまま意識を飛ばした。
「木戸さん?おーい木戸さーん。……おやすみなさーい。」
まだ話したい事はあったが話し相手が意識を失ってしまったならば仕方ない。入江は何食わぬ顔で就寝した。
翌朝,入江がすっきり目を覚まして横を見ると桂は姿を消していた。
「ふふっ逃げた。」
さて,どう揶揄ってやろうかと笑みを浮かべて身支度を整えた。
広間に行くと配膳する三津の後ろをついて回る桂を見つけた。
「木戸さんおはようございます。昨日の続きは今夜しますか?」
背後からの声に桂はビクッと体を揺らした。
「おはようございます九一さん。えっ小五郎さん話の途中で寝てもたん?」
きょとんと首を傾げる三津に入江はおはようと満面の笑みを向けた。
「寝たっていうか気絶?そんな刺激的な事はしとらんのやけど。」
入江が桂に目を向けると桂はサッと三津の後ろに身を隠そうとした。
「待って何したの。」
だから三津はすぐ様部屋を出たのだと理解した。それだけ二人は意思の疎通が出来ているとも理解して何だか複雑だ。
ようやく分かってもらえたかと入江はにっと笑みを浮かべて本題に入った。
「今日有朋が三津に縋ったんです。」
「あぁさっきの話はそれか。それで?」
「私が思っとるよりアイツは繊細でした。晋作がおらんくなったら潰れそうで。」
「そうか……。乗り越えるには時間を要するか。三津は何と?」
「有朋ぐらい救える自信はあると。」
それを聞いて桂は吹き出した。やっぱり山縣に対する扱いはそんな感じかと笑った。
「有朋もそれにまんまと乗せられちょったんで。でも私の前でも泣くぐらいに情緒は不安定でした。私も晋作は年を越せるんか不安で。」
「そんなに状態は良くないのか。」
入江は無言で頷いた。
様子を見に行く事が出来てない桂は唇を噛みしめた。仲間の為に時間を作れてない自分が腹立たしい。
「晋作の気力を信じよう。あれはあれでしぶといだろ?」
そう言って笑ってみせるのが桂の精一杯だった。入江は確かにと笑みを浮かべた。でもそれは一瞬ですぐに翳りを見せた。
桂は何も言葉をかけてやれなかった。近くで様子を見ている入江の方が高杉の状態を把握している。よく分かっていない自分が言葉をかけた所で何の慰みにもならないと分かっている。
『最期の時は……看取ってやりたいな……。』 https://ameblo.jp/freelance12/entry-12850835805.html https://www.liveinternet.ru/users/freelance12/post505038180// https://plaza.rakuten.co.jp/aisha1579/diary/202405040000/
桂は仰向けになり小さく息を吐いた。
「私も……覚悟はしちょりますがその瞬間を迎えた時……私と有朋……三津にどれだけの負担をかけるでしょうか……。」
その言葉に天井を見上げていた桂は顔だけ入江に向けた。
入江の顔も桂の方を向いており,その顔は弱々しく笑っていた。
「そうだな……。君達を受け止めて疲れた彼女を包むのが私の役目だろう?」
「……不安です。」
「失礼な奴だな。」
お前にそんな役が担えるのか?と言ってるような目で見られて桂は不快感を顕にした。
「私で力不足なら君らで補い合えばいいだろ。」
どうせ最初からそのつもりだろと桂は不貞腐れた。その姿に入江は目を丸くしてからくくっと喉を鳴らした。
その表情が歳の割に幼く見えて可笑しかった。
「みっ,三津とアヤメさんが木戸さんが可愛いと言う意味が今分かりました。確かに拗ねた姿は可愛いですね。」
「心外だ。」
「やっぱり一度だけいいですか?」
「は?何の話……。」
一瞬だった。完全に油断していた。
『私達は真面目な話をしてたはずだ。そうだ晋作についてのとても大事な話だ。なのに何故今私は九一に口づけられている?
あぁ,夢か。私は疲れてるんだな……。そうだ,これは夢だ……。』
桂はそのまま意識を飛ばした。
「木戸さん?おーい木戸さーん。……おやすみなさーい。」
まだ話したい事はあったが話し相手が意識を失ってしまったならば仕方ない。入江は何食わぬ顔で就寝した。
翌朝,入江がすっきり目を覚まして横を見ると桂は姿を消していた。
「ふふっ逃げた。」
さて,どう揶揄ってやろうかと笑みを浮かべて身支度を整えた。
広間に行くと配膳する三津の後ろをついて回る桂を見つけた。
「木戸さんおはようございます。昨日の続きは今夜しますか?」
背後からの声に桂はビクッと体を揺らした。
「おはようございます九一さん。えっ小五郎さん話の途中で寝てもたん?」
きょとんと首を傾げる三津に入江はおはようと満面の笑みを向けた。
「寝たっていうか気絶?そんな刺激的な事はしとらんのやけど。」
入江が桂に目を向けると桂はサッと三津の後ろに身を隠そうとした。
「待って何したの。」
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03:32
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2024年05月04日
そう言いながらも今日も三津への想いを残して行った
そう言いながらも今日も三津への想いを残して行った。
入江は夕刻には屋敷を出る。夕餉の時刻に三津との鉢合わせを避ける為。
元周は入江の伝言を伝えるべく三津を探していると,
「松子,お前何してる?」
「元周様っ!今日は沢山稽古をつけていただいたのでお返しに掃除でも手伝えたらと!」
三津は襷掛けに姐さん被りで掃除に励んでいた。その姿に一瞬唖然とした元周だがそれから声を上げて笑った。
「そうか。ならついて参れ。」 https://note.com/ayumu6567/n/n87f465a63cc6?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/my-events/jinnimo-qikisouna-yande-jieme-jitta.html http://kiya.blog.jp/archives/24619233.html
元周は手招きして三津をとある場所へ連れて行った。
「ここの部屋も磨いとけ。外の景色を見ながらの掃除も良いだろ。」
元周は庭先から門までが望める部屋へ連れて来た。
「凄い。綺麗。」
山の中にある屋敷だからこその木々が生い茂る景色に感嘆の息を洩らした。そして外を眺めていると門に向かい,石段を下りる人影に気が付いた。
「あれ……。」
見覚えのある着物の後ろ姿に三津は身を乗り出した。
「ありつつも 君をば待たむうち靡く 我が黒髪に霜を置くまでに。
今日詠んで行った歌じゃ。このままあなたを待ちましょう。私の黒髪が白髪になるまで。
愛されとるなぁ松子は。
それが終わったら今日も晩酌に付き合えよ。」
そう言い残して元周は部屋を出た。三津は深く頭を下げた後に,また身を乗り出して入江が馬で去って行く姿を見届けた。
『あんなに冷たく突き放したのに……。』
早く面と向かって謝りたい。そう思いながらしばらく外を眺めていた。
入江が屯所に戻ると,門の前には女将が居た。
「入江様っ!」
「こんな所で何してる。迷惑だ。」
入江は駆け寄ってきた女将を馬の上から睨み付けた。
「どうして会いに来てくれないの?毎日会うって言ってくれたのに……。」
甘えたような声に入江の体は一瞬で粟立った。むずむずして今すぐ全身を掻きむしりたかった。
「毎日は無理だと初めに言った。私には私の勤めがある。それに今は藩主様の命にある。私が藩主様に逆らい首をはねられる所を見たいのか?」
そう脅すと流石に青ざめた顔で首を横に振って否定した。
「では松子様は?今どこで何してるの?一緒ではないの?」「松子は木戸さんの妻としての役目がある。それを果たす為に今は不在だ。分かったなら帰れ。」
入江は冷たくあしらって屯所に入った。急いで馬を繋いで玄関に飛び込んで鍵を掛けた。
「お帰り……まだおったんやな……。」
高杉がげんなりした顔で出迎えた。かなり応戦してくれたのだと見て入江はすまないと項垂れた。
「今日は夕餉を共にする約束をしちょるって言い張った。昨日会っとらん癖にそんな約束しとる訳ないやろって追い払ったんやけどな……。とりあえず飯にしよ。な?」
高杉はぽんぽんと入江の肩を叩いて中に引っ込んだ。入江も足を洗ってすぐに広間に向かった。
夕餉を食べながらも話題は常に女将の話。隊士達が町に行って調査していた。
「元周様の言う通り,嫁ちゃんは夫が在りながら入江さんも誑かしてるって触れて回っちょった。」
「あいつ殴っていいやろか。」
高杉は箸を折りそうなぐらいの力を手に込めた。
「私も千賀様からそれは聞いちょる。ただ千賀様は手立てはあると仰ってた。やけぇまだ様子を見んと分からん。」
入江はあの夫婦が一体何を考えてるかは分からないが,連携が取れているのを目の当たりにしたから敵には回したくない二人だと口にした。
入江は夕刻には屋敷を出る。夕餉の時刻に三津との鉢合わせを避ける為。
元周は入江の伝言を伝えるべく三津を探していると,
「松子,お前何してる?」
「元周様っ!今日は沢山稽古をつけていただいたのでお返しに掃除でも手伝えたらと!」
三津は襷掛けに姐さん被りで掃除に励んでいた。その姿に一瞬唖然とした元周だがそれから声を上げて笑った。
「そうか。ならついて参れ。」 https://note.com/ayumu6567/n/n87f465a63cc6?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/my-events/jinnimo-qikisouna-yande-jieme-jitta.html http://kiya.blog.jp/archives/24619233.html
元周は手招きして三津をとある場所へ連れて行った。
「ここの部屋も磨いとけ。外の景色を見ながらの掃除も良いだろ。」
元周は庭先から門までが望める部屋へ連れて来た。
「凄い。綺麗。」
山の中にある屋敷だからこその木々が生い茂る景色に感嘆の息を洩らした。そして外を眺めていると門に向かい,石段を下りる人影に気が付いた。
「あれ……。」
見覚えのある着物の後ろ姿に三津は身を乗り出した。
「ありつつも 君をば待たむうち靡く 我が黒髪に霜を置くまでに。
今日詠んで行った歌じゃ。このままあなたを待ちましょう。私の黒髪が白髪になるまで。
愛されとるなぁ松子は。
それが終わったら今日も晩酌に付き合えよ。」
そう言い残して元周は部屋を出た。三津は深く頭を下げた後に,また身を乗り出して入江が馬で去って行く姿を見届けた。
『あんなに冷たく突き放したのに……。』
早く面と向かって謝りたい。そう思いながらしばらく外を眺めていた。
入江が屯所に戻ると,門の前には女将が居た。
「入江様っ!」
「こんな所で何してる。迷惑だ。」
入江は駆け寄ってきた女将を馬の上から睨み付けた。
「どうして会いに来てくれないの?毎日会うって言ってくれたのに……。」
甘えたような声に入江の体は一瞬で粟立った。むずむずして今すぐ全身を掻きむしりたかった。
「毎日は無理だと初めに言った。私には私の勤めがある。それに今は藩主様の命にある。私が藩主様に逆らい首をはねられる所を見たいのか?」
そう脅すと流石に青ざめた顔で首を横に振って否定した。
「では松子様は?今どこで何してるの?一緒ではないの?」「松子は木戸さんの妻としての役目がある。それを果たす為に今は不在だ。分かったなら帰れ。」
入江は冷たくあしらって屯所に入った。急いで馬を繋いで玄関に飛び込んで鍵を掛けた。
「お帰り……まだおったんやな……。」
高杉がげんなりした顔で出迎えた。かなり応戦してくれたのだと見て入江はすまないと項垂れた。
「今日は夕餉を共にする約束をしちょるって言い張った。昨日会っとらん癖にそんな約束しとる訳ないやろって追い払ったんやけどな……。とりあえず飯にしよ。な?」
高杉はぽんぽんと入江の肩を叩いて中に引っ込んだ。入江も足を洗ってすぐに広間に向かった。
夕餉を食べながらも話題は常に女将の話。隊士達が町に行って調査していた。
「元周様の言う通り,嫁ちゃんは夫が在りながら入江さんも誑かしてるって触れて回っちょった。」
「あいつ殴っていいやろか。」
高杉は箸を折りそうなぐらいの力を手に込めた。
「私も千賀様からそれは聞いちょる。ただ千賀様は手立てはあると仰ってた。やけぇまだ様子を見んと分からん。」
入江はあの夫婦が一体何を考えてるかは分からないが,連携が取れているのを目の当たりにしたから敵には回したくない二人だと口にした。
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01:13
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