2024年04月12日
「うわぁ坂本君儲けてるんだねぇ。」
「うわぁ坂本君儲けてるんだねぇ。」
どれほどの額を三津の為に渡したのかどうしても気になった。
「高杉さんがえらい興味を持っとるんでそのうち長崎に来ると思うんで良ければその時ご一緒に。そしたらお世話になりました。」
中岡が頭を下げるのに合わせて三津も頭を下げた。
「三津,気を付けて。」
「九一さんも体に気を付けて。」
「うん,大丈夫。すぐ会える。」
しゅんと眉尻を下げた三津の頭の上でぽんぽんと手を弾ませた。
幾松と白石にももう一度頭を下げて,三津は中岡に連れられ帰路についた。https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/2557062.html https://mathewanderson.asukablog.net/Entry/3/ https://mathewanderson.3rin.net/Entry/4/
「……三津さん木戸君の事思い直すと思う?」
「さぁ?あの子頑固やから。」
「気持ちは完全に私のモンやけどな。」
入江の勝ち誇った顔に幾松は舌打ちをした。
「仕方ない。どうしても傍におる人間の方が有利に決まっちょる。そこは私も平等でないと思うけど,甘やかすのが役目やけぇ仕方ない。」
「ねぇ。入江君の立ち位置どこ?」
「ホンマに。はっきりしぃや。」
「私の立ち位置は都合のいい男です。三津の都合に合わせて何でもこなします。希望としては三津の夫になりたいですけど……私の力じゃどうにもならない事もありますから。」
入江の言葉に二人は顔を見合わせて首を傾げた。相変わらず何考えてるか分からない。
帰り道は仕事を休み過ぎて申し訳ない気持ちいっぱいで歩いた。その方が速度が上がる。
「そんな急がんでも。
しっかり歩けるのにたまげたわ。てっきり今日も歩けんと思っとったき。」
大阪へ行く時とは大違いやなと笑われた。
「九一さんは優しいんで。」
「やっぱり二人はそういう仲なんか?桂さんと違って優しいんか入江君は。」
中岡がにやりと口角を上げたので,三津はしまったと思った。わざわざ自己申告した自分を悔やんだ。
「九一さんは全てが優しいんです。」
ここは開き直ってそう言ってみたが顔が真っ赤だとまた笑われた。
「桂さんも優しいじゃろう。」
「優しかったですよ……。でもそれは前までの話で今は一緒に居ると苦しいです……。でも幾松さんと白石さんは寄りを戻させたいみたいで。」
これ以上悩ませないで欲しいと溜息をついた。自分の中でかたは付いた。だけどそれは自分勝手な自己満足。改めて突きつけられると胸が痛い。
「まぁ,桂さんには三津さんしかおらんき。三津さん以上に桂さんとお似合いな娘さんはおらんじゃろ。じゃけんそんな終わり方がもったいないとその二人は思うとるんやないかのぉ?
然程事情も知らん私が口出しする事やないけど,一つだけ言えるのは三津さんと桂さんはお似合いじゃ。」
屈託のない笑顔で言われると信用に値すると三津は思った。
「お似合いってどの辺が?」
「そうやのぉ。でこぼこなとこかね。」
「でこぼこ?」
身長差の事か?と首を捻ると,違う違うとまた笑われた。
「一見釣り合いが取れんように見えるがちゃんと向きが合えばぴったり嵌まる。」
三津は,んん?と唸りながら首を更に傾けた。
「桂さんと三津さんは互いを想いながらも気持ちを向ける方向を間違っとるだけやろ。」
「……子供にも分かるように言ってもらえませんか?」
「三津さんは立派な女性じゃき子供扱いはせん。」
『充分子供扱いしてはると思うねんけど……。』
とは思ったが口にはせず心に留めておいた。
萩から京へ向かう時も,京から大阪へ下る時も,休憩の度に頑張っとるの褒め言葉と共に金平糖をくれた。
親類または近所の子供にあげる感覚だったのではと今でも思っている。もしかしたら今日も貰えるのでは。
「桂さんは湯呑みじゃ。」
「は?」
心の声が飛び出して慌てて口を手で抑えた。中岡はホンマに見てて飽きんと腹を抱えて笑った。
そりゃいきなり湯呑みと喩えられたらそんな反応になるだろうと理解を示しつつも,笑いは止まらないらしい。ずっと喉が鳴っている。
どれほどの額を三津の為に渡したのかどうしても気になった。
「高杉さんがえらい興味を持っとるんでそのうち長崎に来ると思うんで良ければその時ご一緒に。そしたらお世話になりました。」
中岡が頭を下げるのに合わせて三津も頭を下げた。
「三津,気を付けて。」
「九一さんも体に気を付けて。」
「うん,大丈夫。すぐ会える。」
しゅんと眉尻を下げた三津の頭の上でぽんぽんと手を弾ませた。
幾松と白石にももう一度頭を下げて,三津は中岡に連れられ帰路についた。https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/2557062.html https://mathewanderson.asukablog.net/Entry/3/ https://mathewanderson.3rin.net/Entry/4/
「……三津さん木戸君の事思い直すと思う?」
「さぁ?あの子頑固やから。」
「気持ちは完全に私のモンやけどな。」
入江の勝ち誇った顔に幾松は舌打ちをした。
「仕方ない。どうしても傍におる人間の方が有利に決まっちょる。そこは私も平等でないと思うけど,甘やかすのが役目やけぇ仕方ない。」
「ねぇ。入江君の立ち位置どこ?」
「ホンマに。はっきりしぃや。」
「私の立ち位置は都合のいい男です。三津の都合に合わせて何でもこなします。希望としては三津の夫になりたいですけど……私の力じゃどうにもならない事もありますから。」
入江の言葉に二人は顔を見合わせて首を傾げた。相変わらず何考えてるか分からない。
帰り道は仕事を休み過ぎて申し訳ない気持ちいっぱいで歩いた。その方が速度が上がる。
「そんな急がんでも。
しっかり歩けるのにたまげたわ。てっきり今日も歩けんと思っとったき。」
大阪へ行く時とは大違いやなと笑われた。
「九一さんは優しいんで。」
「やっぱり二人はそういう仲なんか?桂さんと違って優しいんか入江君は。」
中岡がにやりと口角を上げたので,三津はしまったと思った。わざわざ自己申告した自分を悔やんだ。
「九一さんは全てが優しいんです。」
ここは開き直ってそう言ってみたが顔が真っ赤だとまた笑われた。
「桂さんも優しいじゃろう。」
「優しかったですよ……。でもそれは前までの話で今は一緒に居ると苦しいです……。でも幾松さんと白石さんは寄りを戻させたいみたいで。」
これ以上悩ませないで欲しいと溜息をついた。自分の中でかたは付いた。だけどそれは自分勝手な自己満足。改めて突きつけられると胸が痛い。
「まぁ,桂さんには三津さんしかおらんき。三津さん以上に桂さんとお似合いな娘さんはおらんじゃろ。じゃけんそんな終わり方がもったいないとその二人は思うとるんやないかのぉ?
然程事情も知らん私が口出しする事やないけど,一つだけ言えるのは三津さんと桂さんはお似合いじゃ。」
屈託のない笑顔で言われると信用に値すると三津は思った。
「お似合いってどの辺が?」
「そうやのぉ。でこぼこなとこかね。」
「でこぼこ?」
身長差の事か?と首を捻ると,違う違うとまた笑われた。
「一見釣り合いが取れんように見えるがちゃんと向きが合えばぴったり嵌まる。」
三津は,んん?と唸りながら首を更に傾けた。
「桂さんと三津さんは互いを想いながらも気持ちを向ける方向を間違っとるだけやろ。」
「……子供にも分かるように言ってもらえませんか?」
「三津さんは立派な女性じゃき子供扱いはせん。」
『充分子供扱いしてはると思うねんけど……。』
とは思ったが口にはせず心に留めておいた。
萩から京へ向かう時も,京から大阪へ下る時も,休憩の度に頑張っとるの褒め言葉と共に金平糖をくれた。
親類または近所の子供にあげる感覚だったのではと今でも思っている。もしかしたら今日も貰えるのでは。
「桂さんは湯呑みじゃ。」
「は?」
心の声が飛び出して慌てて口を手で抑えた。中岡はホンマに見てて飽きんと腹を抱えて笑った。
そりゃいきなり湯呑みと喩えられたらそんな反応になるだろうと理解を示しつつも,笑いは止まらないらしい。ずっと喉が鳴っている。
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18:30
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2024年04月12日
それに対してそんな事しませんと口を尖らせた
それに対してそんな事しませんと口を尖らせた。三津自身も無事に萩に帰れないと困るのだ。
「じゃあみんなおやすみ。」
「おやすみーまた明日。」
白石と幾松がみんなに挨拶をしてじゃあと手を振る。
「皆さんおやすみなさい。また……いつか……。」
久しぶりの阿弥陀寺は居心地が良かった。みんなもいつでも帰っておいでと言ってくれる。嬉しくて泣きそうだ。泣きそうな顔で入江を見ると穏やかな表情でまたねと言われた。
「また……。」 https://johnn.animech.net/Entry/4/ https://johnn.anime-cosplay.com/Entry/4/ https://johnn.blog-mmo.com/Entry/4/
それだけ告げて,歩き出した白石と幾松の後ろをついて歩いた。だが,少し歩いたところで足を止めた。それから振り返ってみんなの元へ駆け出した。
「お三津ちゃん?」
幾松と白石も足を止めて振り返った。小走りで戻った三津は入江の前で止まった。
「どした?」
小首を傾げる入江を泣きそうな顔で見つめた。口をへの字に曲げて涙が溢れないように堪える顔は不細工に違いないと思ったが,それよりも今は素直でいたかった。
「まだ一緒に居たい。」
その一言に誰もが目を丸くした。一番驚いたのはそう言われた入江本人だ。
こっちがそう言うように仕向けて言わせた事はあったかもしれない。三津の意思でこんなに素直に言われたのは初めてじゃないか。
じっと見つめてくる三津を抱きしめずにはいられない。
「私も三津と一緒に居たい。」
それに答えるように三津の腕がしっかりと自分を抱きしめてくる。
その光景に幾松と白石は顔を見合わせた。
高杉達もやれやれといった顔で二人を見つめた。
「どうする?入江君うち来る?」
白石はにやにや笑いながらそう聞いた。答えはもう分かっている。
「行きます。三津にこんなん言われて断れる訳ないわ。」
「わがまま言ってごめんなさい……。」
腕の中から聞こえる消え入りそうな声に入江は腕を緩めた。
「こんなんわがままって言わん。ありがとう。必要としてくれて。」
入江は愛おしさが溢れ出て止まらんと緩みきった顔をしていた。
「私まだ認めへんから。」
幾松はツンとした態度で先を歩き出した。それをまぁまぁと宥めながら白石が追いかけた。
「九一,訓練までには戻れよ。あと体力残しとけよー。」
「あいよ。それにこんだけ疲れとる三津に無理させる気はないわ。三津帰ろ。」
入江は三津の肩を抱いて歩き出した。
“帰ろ”その言葉だけでも三津には嬉しい。それに加えて入江に触れられているのがこんなにも落ち着くなんて思わなかった。
顔を見上げれば微笑み返してくれる。
入江が好きなんだとはっきりと自覚した。帰るまでの間,幾松が終始不機嫌だった理由が三津には分からず,白石と入江に何で?と聞いても女心は難しいとはぐらかされた。
「入江君布団は一組でいい?」
「白石さんまで何言っとるん。三津ゆっくり休ませたってや。」
入江が呆れたと溜息をついたから白石はごめんごめんと戯けて謝った。三津は床の用意ぐらいは手伝わせてくれと白石について準備に行った。
「いい人ぶって腹立つ。」
「何とでも言ってください。三津は私を必要としたんです。だから私は全力で幸せにする。それだけです。
まぁ……あれだけ執着を見せたあの人が黙っちゃいないでしょうから心配しなくていいですよ。」
含みのある言い方にどういう意味?と尋ねるもそのうち分かるとだけ言われた。そのまま入江は手伝いに行かなきゃと逃げた。
「じゃあ三津さんゆっくり寝てね。」
「ありがとうございます。おやすみなさい。」
三津は正座で白石に向かって深々と頭を下げた。寝床だけでなく寝間着まで用意してもらっていたれりつくせりだ。
部屋の戸が閉められてから入江は布団に仰向けに寝転がった。
「あー嬉しい。三津が一緒に居たいって言ってくれた。」
にやけた顔で三津を見た。三津は恥ずかさから俯いて隣りの布団に入って体を横たえた。
「急にあんな事言ってごめんなさい……。」
「じゃあみんなおやすみ。」
「おやすみーまた明日。」
白石と幾松がみんなに挨拶をしてじゃあと手を振る。
「皆さんおやすみなさい。また……いつか……。」
久しぶりの阿弥陀寺は居心地が良かった。みんなもいつでも帰っておいでと言ってくれる。嬉しくて泣きそうだ。泣きそうな顔で入江を見ると穏やかな表情でまたねと言われた。
「また……。」 https://johnn.animech.net/Entry/4/ https://johnn.anime-cosplay.com/Entry/4/ https://johnn.blog-mmo.com/Entry/4/
それだけ告げて,歩き出した白石と幾松の後ろをついて歩いた。だが,少し歩いたところで足を止めた。それから振り返ってみんなの元へ駆け出した。
「お三津ちゃん?」
幾松と白石も足を止めて振り返った。小走りで戻った三津は入江の前で止まった。
「どした?」
小首を傾げる入江を泣きそうな顔で見つめた。口をへの字に曲げて涙が溢れないように堪える顔は不細工に違いないと思ったが,それよりも今は素直でいたかった。
「まだ一緒に居たい。」
その一言に誰もが目を丸くした。一番驚いたのはそう言われた入江本人だ。
こっちがそう言うように仕向けて言わせた事はあったかもしれない。三津の意思でこんなに素直に言われたのは初めてじゃないか。
じっと見つめてくる三津を抱きしめずにはいられない。
「私も三津と一緒に居たい。」
それに答えるように三津の腕がしっかりと自分を抱きしめてくる。
その光景に幾松と白石は顔を見合わせた。
高杉達もやれやれといった顔で二人を見つめた。
「どうする?入江君うち来る?」
白石はにやにや笑いながらそう聞いた。答えはもう分かっている。
「行きます。三津にこんなん言われて断れる訳ないわ。」
「わがまま言ってごめんなさい……。」
腕の中から聞こえる消え入りそうな声に入江は腕を緩めた。
「こんなんわがままって言わん。ありがとう。必要としてくれて。」
入江は愛おしさが溢れ出て止まらんと緩みきった顔をしていた。
「私まだ認めへんから。」
幾松はツンとした態度で先を歩き出した。それをまぁまぁと宥めながら白石が追いかけた。
「九一,訓練までには戻れよ。あと体力残しとけよー。」
「あいよ。それにこんだけ疲れとる三津に無理させる気はないわ。三津帰ろ。」
入江は三津の肩を抱いて歩き出した。
“帰ろ”その言葉だけでも三津には嬉しい。それに加えて入江に触れられているのがこんなにも落ち着くなんて思わなかった。
顔を見上げれば微笑み返してくれる。
入江が好きなんだとはっきりと自覚した。帰るまでの間,幾松が終始不機嫌だった理由が三津には分からず,白石と入江に何で?と聞いても女心は難しいとはぐらかされた。
「入江君布団は一組でいい?」
「白石さんまで何言っとるん。三津ゆっくり休ませたってや。」
入江が呆れたと溜息をついたから白石はごめんごめんと戯けて謝った。三津は床の用意ぐらいは手伝わせてくれと白石について準備に行った。
「いい人ぶって腹立つ。」
「何とでも言ってください。三津は私を必要としたんです。だから私は全力で幸せにする。それだけです。
まぁ……あれだけ執着を見せたあの人が黙っちゃいないでしょうから心配しなくていいですよ。」
含みのある言い方にどういう意味?と尋ねるもそのうち分かるとだけ言われた。そのまま入江は手伝いに行かなきゃと逃げた。
「じゃあ三津さんゆっくり寝てね。」
「ありがとうございます。おやすみなさい。」
三津は正座で白石に向かって深々と頭を下げた。寝床だけでなく寝間着まで用意してもらっていたれりつくせりだ。
部屋の戸が閉められてから入江は布団に仰向けに寝転がった。
「あー嬉しい。三津が一緒に居たいって言ってくれた。」
にやけた顔で三津を見た。三津は恥ずかさから俯いて隣りの布団に入って体を横たえた。
「急にあんな事言ってごめんなさい……。」
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18:18
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2024年04月12日
「居た……。」
「居た……。」
安堵の声を漏らし膝から崩れ落ちる桂を三人は呆然と見ていた。
「桂様……お帰りなさいませ!」
アヤメが目を潤ませながら姿勢を正して三つ指をついた。
「ご無沙汰しております。よくぞお戻りに……。お帰りなさいませ。」
サヤも眦を光らせながら優しく微笑んで頭を下げた。
「二人ともすまない……。長い間ありがとう……。こんなに綺麗に保ってくれて……。」
部屋の中も住んでいたあの頃とほぼ変わらない状態な事に桂も感極まった。
三津を連れ,念願かなって暮らせた家。何よりも大事な宝物と言ってもいい家だ。
あの時の気持ちを鮮明に思い出せるのに,三津の方はやっぱり気まずそうに目を伏せている。
その様子をちらりと見たサヤは真っ直ぐに桂と向き合った。
「三津さんから事情は聞いております。私共が口を出す事ではありませんので後はお二人でゆっくり話し合われてはいかがでしょうか。」
「私はそうしたい……。」 https://carina.zohosites.com/ https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/2542326.html https://carinacyrill.blogg.se/2024/april/entry.html
それを聞いたサヤは口角を持ち上げた。
「では私とアヤメはこれで。引き続き家の管理はお任せ下さい。ではまた。」
サヤとアヤメは頭を下げると静かに家を出た。戸の閉まる音を聞いた瞬間,桂は三津の手を掴んで自分の腕の中に引きずり込んだ。
「三津すまなかった……。言葉足らずだった……。悪かっ……たっ!言いたいっ!のにっ!もう……もうっ!言葉が……言いたいっ言葉がっ!」
何一つ出てこない。情けない。言葉よりも涙が出てくる。止まらない。
「小五郎さん……。」
こんなに大泣きされてしまっては何とか声を掛ければいいのか分からない。
冷たく突き放す事も出来ないし,傍に居ますと期待を持たせるような事も言えない。「来てくれて嬉しかった……。もう会えないと……。」
首筋に顔を擦り寄せる仕草に三津の胸は疼いた。それでも情に流されてはいけないと奥歯を噛み締め堪えた。
「小五郎さん……会うのはこれが最後です。ここへは小五郎さんの為に来たんやないんです。長州のみんなの為に来ました。」
「最後……なんて言うっな!」
抱きしめる力が倍になった。痛くて苦しかったけど,嫌だと駄々を捏ねる桂の背中にそっと腕を回した。
「最後です。私は今の生活に満足しています。新しく見つけた居場所がとても気に入っています。そこを離れる気はありません。」
「もう……戻れないのか?そこまで私を嫌いになったか……?」
「嫌いにはなってません。でも一緒にいない方がいいんです。ある程度の距離があった方が互いの為です。私達にはそれが合ってると思います。離れた場所からたまに思い出すぐらいがちょうどいい……。」
ずっと一緒にいたいなんて欲を出すからいけなかった。近付きすぎて今まで見えていた物が見えなくなった。だから遠くから広い視野で客観的に見ているのがいいのだと,三津は桂を諭した。
「それは……私を好きだから……想ってくれてるからなのか?」
まだ信じ難い,受け入れられないと半ば放心状態で問いかけた。
「そうです。嫌いになりたくないから……。いい思い出にしておきたいんです。」
「私達の思い出は……もう増えない?私の好きな部分も?増えない?」
子供のような拙い言い方の桂に三津の胸の苦しさは限界だった。
「もう……終わりです……。」
泣きながらそう告げた。すると小さく“そうか”と呟いたのが聞こえた。きつく巻き付いていた腕の力もするする抜けた。
「三津……君に最後の思い出を刻んでいいか?永遠に私を忘れないように。」
「え?」
有無を言わさず唇は塞がれた。
貪るような強引な口づけなのに嫌だとは思わなかった。少しの懐かしさと,与えられる刺激にその先を期待してしまった。
それでもこの状態で受け入れてしまうと体は保たない。
「まっ……てっ!」
桂の手が帯にかかる前に必死に止めた。逃げないから受け入れるからと何とか理性を保たせた。
「一つだけ……。あの……もうずっとしてないから……その……優しくしてもらわないと多分絶対痛い……。」
伏し目がちに恥じらいながら告げる三津に,桂は飛んでいきそうな理性を何とか捕まえた。
「そうか……誰にも抱かれてないのか……。」
この体はまだ誰のモノにもなってなかった。入江との進展もないと知り何だか体の力が抜けた。
安堵の声を漏らし膝から崩れ落ちる桂を三人は呆然と見ていた。
「桂様……お帰りなさいませ!」
アヤメが目を潤ませながら姿勢を正して三つ指をついた。
「ご無沙汰しております。よくぞお戻りに……。お帰りなさいませ。」
サヤも眦を光らせながら優しく微笑んで頭を下げた。
「二人ともすまない……。長い間ありがとう……。こんなに綺麗に保ってくれて……。」
部屋の中も住んでいたあの頃とほぼ変わらない状態な事に桂も感極まった。
三津を連れ,念願かなって暮らせた家。何よりも大事な宝物と言ってもいい家だ。
あの時の気持ちを鮮明に思い出せるのに,三津の方はやっぱり気まずそうに目を伏せている。
その様子をちらりと見たサヤは真っ直ぐに桂と向き合った。
「三津さんから事情は聞いております。私共が口を出す事ではありませんので後はお二人でゆっくり話し合われてはいかがでしょうか。」
「私はそうしたい……。」 https://carina.zohosites.com/ https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/2542326.html https://carinacyrill.blogg.se/2024/april/entry.html
それを聞いたサヤは口角を持ち上げた。
「では私とアヤメはこれで。引き続き家の管理はお任せ下さい。ではまた。」
サヤとアヤメは頭を下げると静かに家を出た。戸の閉まる音を聞いた瞬間,桂は三津の手を掴んで自分の腕の中に引きずり込んだ。
「三津すまなかった……。言葉足らずだった……。悪かっ……たっ!言いたいっ!のにっ!もう……もうっ!言葉が……言いたいっ言葉がっ!」
何一つ出てこない。情けない。言葉よりも涙が出てくる。止まらない。
「小五郎さん……。」
こんなに大泣きされてしまっては何とか声を掛ければいいのか分からない。
冷たく突き放す事も出来ないし,傍に居ますと期待を持たせるような事も言えない。「来てくれて嬉しかった……。もう会えないと……。」
首筋に顔を擦り寄せる仕草に三津の胸は疼いた。それでも情に流されてはいけないと奥歯を噛み締め堪えた。
「小五郎さん……会うのはこれが最後です。ここへは小五郎さんの為に来たんやないんです。長州のみんなの為に来ました。」
「最後……なんて言うっな!」
抱きしめる力が倍になった。痛くて苦しかったけど,嫌だと駄々を捏ねる桂の背中にそっと腕を回した。
「最後です。私は今の生活に満足しています。新しく見つけた居場所がとても気に入っています。そこを離れる気はありません。」
「もう……戻れないのか?そこまで私を嫌いになったか……?」
「嫌いにはなってません。でも一緒にいない方がいいんです。ある程度の距離があった方が互いの為です。私達にはそれが合ってると思います。離れた場所からたまに思い出すぐらいがちょうどいい……。」
ずっと一緒にいたいなんて欲を出すからいけなかった。近付きすぎて今まで見えていた物が見えなくなった。だから遠くから広い視野で客観的に見ているのがいいのだと,三津は桂を諭した。
「それは……私を好きだから……想ってくれてるからなのか?」
まだ信じ難い,受け入れられないと半ば放心状態で問いかけた。
「そうです。嫌いになりたくないから……。いい思い出にしておきたいんです。」
「私達の思い出は……もう増えない?私の好きな部分も?増えない?」
子供のような拙い言い方の桂に三津の胸の苦しさは限界だった。
「もう……終わりです……。」
泣きながらそう告げた。すると小さく“そうか”と呟いたのが聞こえた。きつく巻き付いていた腕の力もするする抜けた。
「三津……君に最後の思い出を刻んでいいか?永遠に私を忘れないように。」
「え?」
有無を言わさず唇は塞がれた。
貪るような強引な口づけなのに嫌だとは思わなかった。少しの懐かしさと,与えられる刺激にその先を期待してしまった。
それでもこの状態で受け入れてしまうと体は保たない。
「まっ……てっ!」
桂の手が帯にかかる前に必死に止めた。逃げないから受け入れるからと何とか理性を保たせた。
「一つだけ……。あの……もうずっとしてないから……その……優しくしてもらわないと多分絶対痛い……。」
伏し目がちに恥じらいながら告げる三津に,桂は飛んでいきそうな理性を何とか捕まえた。
「そうか……誰にも抱かれてないのか……。」
この体はまだ誰のモノにもなってなかった。入江との進展もないと知り何だか体の力が抜けた。
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17:49
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2024年04月03日
「大丈夫,三津は酔うとすぐ寝てしまうんだ
「大丈夫,三津は酔うとすぐ寝てしまうんだ。何故かね赤禰君の膝で寝るんだ……。」
「玄瑞の膝でも寝ちょったけぇ三津は武人さんに玄瑞を重ねちょるんかもな。あと妻帯者の玄瑞が一番まともや言うて拗ねた稔麿に頬を抓られちょったな。」
入江は三津の寝顔を覗き込んでふっと笑った。
「吉田さんは好きな子苛め抜く人やったっけ。自分から惚れたのが癪に障るからって。」
「理不尽極まりねぇな……。」 http://kiya.blog.jp/archives/24350203.html https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/04/03/182527?_gl=1*pzcrfz*_gcl_au*NjYyNTYyMDMxLjE3MDkwNDE3OTU. https://travelerbb2017.zohosites.com/
フサの前で言うのもなんだが酷え男だと赤禰は目元を引き攣らせた。
「兄上は色恋沙汰の駆け引きは苦手な方でしたので。女性の方が気を引こうと何かしたらそこでもう面倒臭いとあっさり別れてました。
それ故私に紹介したい,家に連れて行きたいと仰ったのは姉上が最初で最後でございます。なのでフサも姉上の幸せを切に願います。」
三津の幸せを願うフサの思いに桂と入江,赤禰も心打たれていたのに,
「政馬鹿の男共はみんな色恋には能無しか。」
文の冷たい一言が感動を台無しにした。だがそれに追随するようにフサが言い放った言葉の方が男共には衝撃だった。
「武士として家督を継ぐ方々はそうなのでしょうね。フサも将来の旦那様には特に期待を持っておりませんので子さえ生せれば旦那様は要らないです。どうせ家にはおりませんので。」
「十五で達観してんな……流石吉田の妹じゃ……。」
文よりも冷静に言葉を吐き捨てたフサに男達は何も言えなかった。家に居ないから夫はいらないと十五の幼気な娘に言われて男共の精神的な動揺は計り知れない。
「どう考えてもこの先多忙を極める桂様は間違いなく要らない……。」
「文ちゃん,止めてくれ。私は生涯三津に必要とされたいんだ……。」
ちゃんと家庭を省みるからそんな事を言わないでくれと泣きそうな顔で訴えた。三十を越した男が涙目だ。
「きっと三津さんは自分を犠牲にしてでも桂様にも入江さんにも尽くすでしょ。
それに……桂様が今直面なさってる問題を収めるのは容易ではないのは充分承知しております。
ですが犠牲を払った主人や吉田さん,他の同志の為にもどうかご尽力下さいませ。」
文とフサは表情を引き締め姿勢を正し,二人揃って手をついて頭を下げた。
それには桂も姿勢を正して向き合った。
「必ず長州の明るい先を約束する。……その為に三津の癒やしが欲しいんだが。」
前のようにはいかないよなと眉を八の字にして笑った。
「そろそろ三津を寝所に連れてってやったらどうですか?私はまた雑魚寝か武人さんの所にでも転がり込みます。」
入江の気遣いに桂は目を丸くしたが今回もそれに甘える事にした。
「私は今スッキリしてるんで問題ないです。」
「嫌な事を思い出さすな。」
爽やかに笑ってるがとんだ変態だ。桂は入江に舌打ちをして三津を抱えて広間を出た。
桂は布団に三津を下ろすと懐から取り出した手拭いで必死に両手のひらを拭った。
三津がくすぐったそうに身を捩ったから起こしてはいけないと思って拭うのを止めた。
「今日は三津の味噌汁が飲めて幸せだったよ。おやすみ。」
すやすや眠る三津の額に口づけを一つ落として桂もその隣りに横たわった。
翌朝ハッと目を覚ました三津は見覚えのある天井に“また寝てしまった”と呟いて体を起こした。
そして横で眠っている桂を見て小さくあっと声を洩らした。
『小五郎さんが連れて来てくれたんや。』
その寝顔にそっと手を伸ばして頬に少し触れると桂の体がビクッと跳ねて目が開いた。
「ごめんなさいっ起こすつもりは……。」
開いた目が余りにも鋭くて三津は怯えながら咄嗟に手を引いた。
「あぁ……気にしないで。ここ最近神経質になってるのか熟睡出来なくて……。昨日話した薩摩との件で。」
三津のせいじゃないよと微笑んで優しく頭を撫でるが三津は申し訳なさそうな顔をした。それからその表情のまま桂に向かって両手を広げた。
「これぐらいしか出来ませんが……。」
桂には充分だ。すぐその腕の中に吸い込まれた。
「玄瑞の膝でも寝ちょったけぇ三津は武人さんに玄瑞を重ねちょるんかもな。あと妻帯者の玄瑞が一番まともや言うて拗ねた稔麿に頬を抓られちょったな。」
入江は三津の寝顔を覗き込んでふっと笑った。
「吉田さんは好きな子苛め抜く人やったっけ。自分から惚れたのが癪に障るからって。」
「理不尽極まりねぇな……。」 http://kiya.blog.jp/archives/24350203.html https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/04/03/182527?_gl=1*pzcrfz*_gcl_au*NjYyNTYyMDMxLjE3MDkwNDE3OTU. https://travelerbb2017.zohosites.com/
フサの前で言うのもなんだが酷え男だと赤禰は目元を引き攣らせた。
「兄上は色恋沙汰の駆け引きは苦手な方でしたので。女性の方が気を引こうと何かしたらそこでもう面倒臭いとあっさり別れてました。
それ故私に紹介したい,家に連れて行きたいと仰ったのは姉上が最初で最後でございます。なのでフサも姉上の幸せを切に願います。」
三津の幸せを願うフサの思いに桂と入江,赤禰も心打たれていたのに,
「政馬鹿の男共はみんな色恋には能無しか。」
文の冷たい一言が感動を台無しにした。だがそれに追随するようにフサが言い放った言葉の方が男共には衝撃だった。
「武士として家督を継ぐ方々はそうなのでしょうね。フサも将来の旦那様には特に期待を持っておりませんので子さえ生せれば旦那様は要らないです。どうせ家にはおりませんので。」
「十五で達観してんな……流石吉田の妹じゃ……。」
文よりも冷静に言葉を吐き捨てたフサに男達は何も言えなかった。家に居ないから夫はいらないと十五の幼気な娘に言われて男共の精神的な動揺は計り知れない。
「どう考えてもこの先多忙を極める桂様は間違いなく要らない……。」
「文ちゃん,止めてくれ。私は生涯三津に必要とされたいんだ……。」
ちゃんと家庭を省みるからそんな事を言わないでくれと泣きそうな顔で訴えた。三十を越した男が涙目だ。
「きっと三津さんは自分を犠牲にしてでも桂様にも入江さんにも尽くすでしょ。
それに……桂様が今直面なさってる問題を収めるのは容易ではないのは充分承知しております。
ですが犠牲を払った主人や吉田さん,他の同志の為にもどうかご尽力下さいませ。」
文とフサは表情を引き締め姿勢を正し,二人揃って手をついて頭を下げた。
それには桂も姿勢を正して向き合った。
「必ず長州の明るい先を約束する。……その為に三津の癒やしが欲しいんだが。」
前のようにはいかないよなと眉を八の字にして笑った。
「そろそろ三津を寝所に連れてってやったらどうですか?私はまた雑魚寝か武人さんの所にでも転がり込みます。」
入江の気遣いに桂は目を丸くしたが今回もそれに甘える事にした。
「私は今スッキリしてるんで問題ないです。」
「嫌な事を思い出さすな。」
爽やかに笑ってるがとんだ変態だ。桂は入江に舌打ちをして三津を抱えて広間を出た。
桂は布団に三津を下ろすと懐から取り出した手拭いで必死に両手のひらを拭った。
三津がくすぐったそうに身を捩ったから起こしてはいけないと思って拭うのを止めた。
「今日は三津の味噌汁が飲めて幸せだったよ。おやすみ。」
すやすや眠る三津の額に口づけを一つ落として桂もその隣りに横たわった。
翌朝ハッと目を覚ました三津は見覚えのある天井に“また寝てしまった”と呟いて体を起こした。
そして横で眠っている桂を見て小さくあっと声を洩らした。
『小五郎さんが連れて来てくれたんや。』
その寝顔にそっと手を伸ばして頬に少し触れると桂の体がビクッと跳ねて目が開いた。
「ごめんなさいっ起こすつもりは……。」
開いた目が余りにも鋭くて三津は怯えながら咄嗟に手を引いた。
「あぁ……気にしないで。ここ最近神経質になってるのか熟睡出来なくて……。昨日話した薩摩との件で。」
三津のせいじゃないよと微笑んで優しく頭を撫でるが三津は申し訳なさそうな顔をした。それからその表情のまま桂に向かって両手を広げた。
「これぐらいしか出来ませんが……。」
桂には充分だ。すぐその腕の中に吸い込まれた。
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18:27
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2024年04月03日
桂が苦笑しながら近くに居た伊藤に問うと大きく頷いた。
桂が苦笑しながら近くに居た伊藤に問うと大きく頷いた。
「空気の読めない高杉を機嫌よくここに留めるには酒だと酒を用意させてせっかく本物の芸妓が来てるのに拝まなくてどうすると白石さんを唆し……。」
「ほらね。大丈夫だった。」
桂が微笑むと三津も微笑み返して頷いた。そんな二人を見つけて割り込むように入江が近寄った。
「三津,食べり。何も食べんのはいけん。」 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/04/03/182125 https://travelerbb2017.zohosites.com/ http://kiya.blog.jp/archives/24350188.html
入江はにこにこしながらおにぎりを一つ差し出した。
「あっありがとうございます。」
伊藤も座って座ってと三津を座らせお茶を用意した。自分とは違って待遇がいいなと苦笑しつつ桂もその隣りに腰を下ろした。
桂はおにぎりを頬張る姿を横目に目尻を下げた。
さっきまでは扱い難くてどうしようかと思っていたのが嘘のように今は心の底から穏やかな気分だ。
「美味しい?それ私が握ったそ。」
「んっ!九一さんが?ありがとうございます。美味しいですよ。」
口にあったものを慌てて飲み込んでお礼を言った。何も食べてない自分を思って握ってくれたのかと思うとより有り難みが増す。
『九一の奴抜かりない……。あのつげの櫛と言いどこまで用意周到なんだ……。』
嫉妬の目で見ているとそれに気付いた入江が厭味ったらしく口角を上げた。
「三津もそれ食べ終えたら紅引かん?私が贈ったヤツ。それでお酌されたいわ。」
「お酌するだけならいいけど多分誰かしらに呑まされるでしょ?塗ったまんま寝てもたらあっちこっちに紅つけて汚してしまう。」
「私のここ汚してくれたらいいそ。」
入江はにんまり笑いながら自分の唇と首筋を指でとんとんと叩いた。
『待て待て。九一が贈った紅?おい,いつの間にそんな物を贈った。』
カッと目を見開いて二人を見るが,顔を赤らめる三津とそれを見つめてにやける入江。そんな二人の眼中に全く入らない。何と言う事だ。
「桂様も一杯いかがでしょう?」
いいところに文が酒を持って現れた。これはもう呑むしかない。「少しは互いの心内を話せましたか?」
「うむ,少しだけだが距離は近付けた気はするが……。それよりも九一の距離感がおかしい。」
気に食わんと入江を睨むが当の本人は何が?とわざとらしく首を傾げている。
「私だって努力しましたよ?生きて帰って来た時には大刀三本分は離れろと虐げられてたのがやっとこの距離……。」
「不器用なりに頑張ったのね,お疲れ様。」
文は労いの言葉と共に酒を渡してやった。
「おっ桂さんと九一も呑みだしたか!」
幾松と文によって既に相当飲まされている高杉が千鳥足でやって来た。
「三津さん帰って来てくれたかぁ!良かった良かった記念に呑め。」
何の記念だと三津が苦笑していると文がさっさと潰れろと高杉の口に直接酒を注いだ。積年の恨みが滲み出ている。
「高杉はんこっちで私と遊ぼうや。」
幾松は猫なで声で高杉の腕を掴んだ。邪魔者は潰しておくからと桂と入江に目配せをして高杉を引きずって行った。その先には既に幾松の妖艶さにやられて潰れた奴らがゴロゴロ転がっていた。
相変わらず幾松の武器は凄いなと感心している三津の横に赤禰が腰を下ろした。赤禰が来ると三津の顔がこれでもかと言うぐらいふにゃふにゃになる。
「今日はどうする?呑む?」
いつの間にか三津専用酒の担当は赤禰になっていた。信頼を勝ち取った男にしか担えない大役なのかもしれない。
「んーちょっとだけ。」
ちょうだいと甘えた声で酒をねだった。
「あらやだ。赤禰さんしっかり三津さんの心開いちょるやん。三津さん選択肢に赤禰さんも入れたら?」
文の言葉に三津はとんでもないと首をぶんぶん横に振った。
「赤禰さんを選択肢やなんて私何様ですか!アカンアカン!」
「そうか?俺は光栄やけどな,こんないい女。ほれ呑み。」
三津はお猪口を受け取ると恥じらいながら口をつけた。
「文ちゃん恋敵増やすの止めてくれ……。」
桂が心臓に悪いと左胸を押さえた。
「空気の読めない高杉を機嫌よくここに留めるには酒だと酒を用意させてせっかく本物の芸妓が来てるのに拝まなくてどうすると白石さんを唆し……。」
「ほらね。大丈夫だった。」
桂が微笑むと三津も微笑み返して頷いた。そんな二人を見つけて割り込むように入江が近寄った。
「三津,食べり。何も食べんのはいけん。」 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/04/03/182125 https://travelerbb2017.zohosites.com/ http://kiya.blog.jp/archives/24350188.html
入江はにこにこしながらおにぎりを一つ差し出した。
「あっありがとうございます。」
伊藤も座って座ってと三津を座らせお茶を用意した。自分とは違って待遇がいいなと苦笑しつつ桂もその隣りに腰を下ろした。
桂はおにぎりを頬張る姿を横目に目尻を下げた。
さっきまでは扱い難くてどうしようかと思っていたのが嘘のように今は心の底から穏やかな気分だ。
「美味しい?それ私が握ったそ。」
「んっ!九一さんが?ありがとうございます。美味しいですよ。」
口にあったものを慌てて飲み込んでお礼を言った。何も食べてない自分を思って握ってくれたのかと思うとより有り難みが増す。
『九一の奴抜かりない……。あのつげの櫛と言いどこまで用意周到なんだ……。』
嫉妬の目で見ているとそれに気付いた入江が厭味ったらしく口角を上げた。
「三津もそれ食べ終えたら紅引かん?私が贈ったヤツ。それでお酌されたいわ。」
「お酌するだけならいいけど多分誰かしらに呑まされるでしょ?塗ったまんま寝てもたらあっちこっちに紅つけて汚してしまう。」
「私のここ汚してくれたらいいそ。」
入江はにんまり笑いながら自分の唇と首筋を指でとんとんと叩いた。
『待て待て。九一が贈った紅?おい,いつの間にそんな物を贈った。』
カッと目を見開いて二人を見るが,顔を赤らめる三津とそれを見つめてにやける入江。そんな二人の眼中に全く入らない。何と言う事だ。
「桂様も一杯いかがでしょう?」
いいところに文が酒を持って現れた。これはもう呑むしかない。「少しは互いの心内を話せましたか?」
「うむ,少しだけだが距離は近付けた気はするが……。それよりも九一の距離感がおかしい。」
気に食わんと入江を睨むが当の本人は何が?とわざとらしく首を傾げている。
「私だって努力しましたよ?生きて帰って来た時には大刀三本分は離れろと虐げられてたのがやっとこの距離……。」
「不器用なりに頑張ったのね,お疲れ様。」
文は労いの言葉と共に酒を渡してやった。
「おっ桂さんと九一も呑みだしたか!」
幾松と文によって既に相当飲まされている高杉が千鳥足でやって来た。
「三津さん帰って来てくれたかぁ!良かった良かった記念に呑め。」
何の記念だと三津が苦笑していると文がさっさと潰れろと高杉の口に直接酒を注いだ。積年の恨みが滲み出ている。
「高杉はんこっちで私と遊ぼうや。」
幾松は猫なで声で高杉の腕を掴んだ。邪魔者は潰しておくからと桂と入江に目配せをして高杉を引きずって行った。その先には既に幾松の妖艶さにやられて潰れた奴らがゴロゴロ転がっていた。
相変わらず幾松の武器は凄いなと感心している三津の横に赤禰が腰を下ろした。赤禰が来ると三津の顔がこれでもかと言うぐらいふにゃふにゃになる。
「今日はどうする?呑む?」
いつの間にか三津専用酒の担当は赤禰になっていた。信頼を勝ち取った男にしか担えない大役なのかもしれない。
「んーちょっとだけ。」
ちょうだいと甘えた声で酒をねだった。
「あらやだ。赤禰さんしっかり三津さんの心開いちょるやん。三津さん選択肢に赤禰さんも入れたら?」
文の言葉に三津はとんでもないと首をぶんぶん横に振った。
「赤禰さんを選択肢やなんて私何様ですか!アカンアカン!」
「そうか?俺は光栄やけどな,こんないい女。ほれ呑み。」
三津はお猪口を受け取ると恥じらいながら口をつけた。
「文ちゃん恋敵増やすの止めてくれ……。」
桂が心臓に悪いと左胸を押さえた。
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