2024年04月12日

「うわぁ坂本君儲けてるんだねぇ。」

「うわぁ坂本君儲けてるんだねぇ。」


どれほどの額を三津の為に渡したのかどうしても気になった。


「高杉さんがえらい興味を持っとるんでそのうち長崎に来ると思うんで良ければその時ご一緒に。そしたらお世話になりました。」


中岡が頭を下げるのに合わせて三津も頭を下げた。


「三津,気を付けて。」


「九一さんも体に気を付けて。」


「うん,大丈夫。すぐ会える。」


しゅんと眉尻を下げた三津の頭の上でぽんぽんと手を弾ませた。
幾松と白石にももう一度頭を下げて,三津は中岡に連れられ帰路についた。https://mathewanderson.livedoor.blog/archives/2557062.html https://mathewanderson.asukablog.net/Entry/3/ https://mathewanderson.3rin.net/Entry/4/


「……三津さん木戸君の事思い直すと思う?」


「さぁ?あの子頑固やから。」


「気持ちは完全に私のモンやけどな。」


入江の勝ち誇った顔に幾松は舌打ちをした。


「仕方ない。どうしても傍におる人間の方が有利に決まっちょる。そこは私も平等でないと思うけど,甘やかすのが役目やけぇ仕方ない。」


「ねぇ。入江君の立ち位置どこ?」


「ホンマに。はっきりしぃや。」


「私の立ち位置は都合のいい男です。三津の都合に合わせて何でもこなします。希望としては三津の夫になりたいですけど……私の力じゃどうにもならない事もありますから。」


入江の言葉に二人は顔を見合わせて首を傾げた。相変わらず何考えてるか分からない。


帰り道は仕事を休み過ぎて申し訳ない気持ちいっぱいで歩いた。その方が速度が上がる。


「そんな急がんでも。
しっかり歩けるのにたまげたわ。てっきり今日も歩けんと思っとったき。」


大阪へ行く時とは大違いやなと笑われた。


「九一さんは優しいんで。」


「やっぱり二人はそういう仲なんか?桂さんと違って優しいんか入江君は。」


中岡がにやりと口角を上げたので,三津はしまったと思った。わざわざ自己申告した自分を悔やんだ。


「九一さんは全てが優しいんです。」


ここは開き直ってそう言ってみたが顔が真っ赤だとまた笑われた。


「桂さんも優しいじゃろう。」


「優しかったですよ……。でもそれは前までの話で今は一緒に居ると苦しいです……。でも幾松さんと白石さんは寄りを戻させたいみたいで。」


これ以上悩ませないで欲しいと溜息をついた。自分の中でかたは付いた。だけどそれは自分勝手な自己満足。改めて突きつけられると胸が痛い。


「まぁ,桂さんには三津さんしかおらんき。三津さん以上に桂さんとお似合いな娘さんはおらんじゃろ。じゃけんそんな終わり方がもったいないとその二人は思うとるんやないかのぉ?
然程事情も知らん私が口出しする事やないけど,一つだけ言えるのは三津さんと桂さんはお似合いじゃ。」


屈託のない笑顔で言われると信用に値すると三津は思った。


「お似合いってどの辺が?」


「そうやのぉ。でこぼこなとこかね。」


「でこぼこ?」


身長差の事か?と首を捻ると,違う違うとまた笑われた。


「一見釣り合いが取れんように見えるがちゃんと向きが合えばぴったり嵌まる。」


三津は,んん?と唸りながら首を更に傾けた。


「桂さんと三津さんは互いを想いながらも気持ちを向ける方向を間違っとるだけやろ。」


「……子供にも分かるように言ってもらえませんか?」


「三津さんは立派な女性じゃき子供扱いはせん。」


『充分子供扱いしてはると思うねんけど……。』


とは思ったが口にはせず心に留めておいた。
萩から京へ向かう時も,京から大阪へ下る時も,休憩の度に頑張っとるの褒め言葉と共に金平糖をくれた。
親類または近所の子供にあげる感覚だったのではと今でも思っている。もしかしたら今日も貰えるのでは。


「桂さんは湯呑みじゃ。」


「は?」


心の声が飛び出して慌てて口を手で抑えた。中岡はホンマに見てて飽きんと腹を抱えて笑った。
そりゃいきなり湯呑みと喩えられたらそんな反応になるだろうと理解を示しつつも,笑いは止まらないらしい。ずっと喉が鳴っている。
  


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2024年04月12日

それに対してそんな事しませんと口を尖らせた

それに対してそんな事しませんと口を尖らせた。三津自身も無事に萩に帰れないと困るのだ。


「じゃあみんなおやすみ。」
「おやすみーまた明日。」


白石と幾松がみんなに挨拶をしてじゃあと手を振る。


「皆さんおやすみなさい。また……いつか……。」


久しぶりの阿弥陀寺は居心地が良かった。みんなもいつでも帰っておいでと言ってくれる。嬉しくて泣きそうだ。泣きそうな顔で入江を見ると穏やかな表情でまたねと言われた。


「また……。」 https://johnn.animech.net/Entry/4/ https://johnn.anime-cosplay.com/Entry/4/ https://johnn.blog-mmo.com/Entry/4/


それだけ告げて,歩き出した白石と幾松の後ろをついて歩いた。だが,少し歩いたところで足を止めた。それから振り返ってみんなの元へ駆け出した。


「お三津ちゃん?」


幾松と白石も足を止めて振り返った。小走りで戻った三津は入江の前で止まった。


「どした?」


小首を傾げる入江を泣きそうな顔で見つめた。口をへの字に曲げて涙が溢れないように堪える顔は不細工に違いないと思ったが,それよりも今は素直でいたかった。


「まだ一緒に居たい。」


その一言に誰もが目を丸くした。一番驚いたのはそう言われた入江本人だ。
こっちがそう言うように仕向けて言わせた事はあったかもしれない。三津の意思でこんなに素直に言われたのは初めてじゃないか。
じっと見つめてくる三津を抱きしめずにはいられない。


「私も三津と一緒に居たい。」


それに答えるように三津の腕がしっかりと自分を抱きしめてくる。
その光景に幾松と白石は顔を見合わせた。
高杉達もやれやれといった顔で二人を見つめた。


「どうする?入江君うち来る?」


白石はにやにや笑いながらそう聞いた。答えはもう分かっている。


「行きます。三津にこんなん言われて断れる訳ないわ。」


「わがまま言ってごめんなさい……。」


腕の中から聞こえる消え入りそうな声に入江は腕を緩めた。


「こんなんわがままって言わん。ありがとう。必要としてくれて。」


入江は愛おしさが溢れ出て止まらんと緩みきった顔をしていた。


「私まだ認めへんから。」


幾松はツンとした態度で先を歩き出した。それをまぁまぁと宥めながら白石が追いかけた。


「九一,訓練までには戻れよ。あと体力残しとけよー。」


「あいよ。それにこんだけ疲れとる三津に無理させる気はないわ。三津帰ろ。」


入江は三津の肩を抱いて歩き出した。
“帰ろ”その言葉だけでも三津には嬉しい。それに加えて入江に触れられているのがこんなにも落ち着くなんて思わなかった。
顔を見上げれば微笑み返してくれる。


入江が好きなんだとはっきりと自覚した。帰るまでの間,幾松が終始不機嫌だった理由が三津には分からず,白石と入江に何で?と聞いても女心は難しいとはぐらかされた。


「入江君布団は一組でいい?」


「白石さんまで何言っとるん。三津ゆっくり休ませたってや。」


入江が呆れたと溜息をついたから白石はごめんごめんと戯けて謝った。三津は床の用意ぐらいは手伝わせてくれと白石について準備に行った。


「いい人ぶって腹立つ。」


「何とでも言ってください。三津は私を必要としたんです。だから私は全力で幸せにする。それだけです。
まぁ……あれだけ執着を見せたあの人が黙っちゃいないでしょうから心配しなくていいですよ。」


含みのある言い方にどういう意味?と尋ねるもそのうち分かるとだけ言われた。そのまま入江は手伝いに行かなきゃと逃げた。




「じゃあ三津さんゆっくり寝てね。」


「ありがとうございます。おやすみなさい。」


三津は正座で白石に向かって深々と頭を下げた。寝床だけでなく寝間着まで用意してもらっていたれりつくせりだ。
部屋の戸が閉められてから入江は布団に仰向けに寝転がった。


「あー嬉しい。三津が一緒に居たいって言ってくれた。」


にやけた顔で三津を見た。三津は恥ずかさから俯いて隣りの布団に入って体を横たえた。


「急にあんな事言ってごめんなさい……。」
  


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2024年04月12日

「居た……。」

「居た……。」


安堵の声を漏らし膝から崩れ落ちる桂を三人は呆然と見ていた。


「桂様……お帰りなさいませ!」


アヤメが目を潤ませながら姿勢を正して三つ指をついた。


「ご無沙汰しております。よくぞお戻りに……。お帰りなさいませ。」


サヤも眦を光らせながら優しく微笑んで頭を下げた。


「二人ともすまない……。長い間ありがとう……。こんなに綺麗に保ってくれて……。」


部屋の中も住んでいたあの頃とほぼ変わらない状態な事に桂も感極まった。
三津を連れ,念願かなって暮らせた家。何よりも大事な宝物と言ってもいい家だ。


あの時の気持ちを鮮明に思い出せるのに,三津の方はやっぱり気まずそうに目を伏せている。
その様子をちらりと見たサヤは真っ直ぐに桂と向き合った。


「三津さんから事情は聞いております。私共が口を出す事ではありませんので後はお二人でゆっくり話し合われてはいかがでしょうか。」


「私はそうしたい……。」 https://carina.zohosites.com/ https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/2542326.html https://carinacyrill.blogg.se/2024/april/entry.html


それを聞いたサヤは口角を持ち上げた。


「では私とアヤメはこれで。引き続き家の管理はお任せ下さい。ではまた。」


サヤとアヤメは頭を下げると静かに家を出た。戸の閉まる音を聞いた瞬間,桂は三津の手を掴んで自分の腕の中に引きずり込んだ。


「三津すまなかった……。言葉足らずだった……。悪かっ……たっ!言いたいっ!のにっ!もう……もうっ!言葉が……言いたいっ言葉がっ!」


何一つ出てこない。情けない。言葉よりも涙が出てくる。止まらない。


「小五郎さん……。」


こんなに大泣きされてしまっては何とか声を掛ければいいのか分からない。
冷たく突き放す事も出来ないし,傍に居ますと期待を持たせるような事も言えない。「来てくれて嬉しかった……。もう会えないと……。」


首筋に顔を擦り寄せる仕草に三津の胸は疼いた。それでも情に流されてはいけないと奥歯を噛み締め堪えた。


「小五郎さん……会うのはこれが最後です。ここへは小五郎さんの為に来たんやないんです。長州のみんなの為に来ました。」


「最後……なんて言うっな!」


抱きしめる力が倍になった。痛くて苦しかったけど,嫌だと駄々を捏ねる桂の背中にそっと腕を回した。


「最後です。私は今の生活に満足しています。新しく見つけた居場所がとても気に入っています。そこを離れる気はありません。」


「もう……戻れないのか?そこまで私を嫌いになったか……?」


「嫌いにはなってません。でも一緒にいない方がいいんです。ある程度の距離があった方が互いの為です。私達にはそれが合ってると思います。離れた場所からたまに思い出すぐらいがちょうどいい……。」


ずっと一緒にいたいなんて欲を出すからいけなかった。近付きすぎて今まで見えていた物が見えなくなった。だから遠くから広い視野で客観的に見ているのがいいのだと,三津は桂を諭した。


「それは……私を好きだから……想ってくれてるからなのか?」


まだ信じ難い,受け入れられないと半ば放心状態で問いかけた。


「そうです。嫌いになりたくないから……。いい思い出にしておきたいんです。」


「私達の思い出は……もう増えない?私の好きな部分も?増えない?」


子供のような拙い言い方の桂に三津の胸の苦しさは限界だった。


「もう……終わりです……。」


泣きながらそう告げた。すると小さく“そうか”と呟いたのが聞こえた。きつく巻き付いていた腕の力もするする抜けた。


「三津……君に最後の思い出を刻んでいいか?永遠に私を忘れないように。」


「え?」


有無を言わさず唇は塞がれた。
貪るような強引な口づけなのに嫌だとは思わなかった。少しの懐かしさと,与えられる刺激にその先を期待してしまった。
それでもこの状態で受け入れてしまうと体は保たない。


「まっ……てっ!」


桂の手が帯にかかる前に必死に止めた。逃げないから受け入れるからと何とか理性を保たせた。


「一つだけ……。あの……もうずっとしてないから……その……優しくしてもらわないと多分絶対痛い……。」


伏し目がちに恥じらいながら告げる三津に,桂は飛んでいきそうな理性を何とか捕まえた。


「そうか……誰にも抱かれてないのか……。」


この体はまだ誰のモノにもなってなかった。入江との進展もないと知り何だか体の力が抜けた。
  


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2024年04月03日

「大丈夫,三津は酔うとすぐ寝てしまうんだ

「大丈夫,三津は酔うとすぐ寝てしまうんだ。何故かね赤禰君の膝で寝るんだ……。」


「玄瑞の膝でも寝ちょったけぇ三津は武人さんに玄瑞を重ねちょるんかもな。あと妻帯者の玄瑞が一番まともや言うて拗ねた稔麿に頬を抓られちょったな。」


入江は三津の寝顔を覗き込んでふっと笑った。


「吉田さんは好きな子苛め抜く人やったっけ。自分から惚れたのが癪に障るからって。」


「理不尽極まりねぇな……。」 http://kiya.blog.jp/archives/24350203.html https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/04/03/182527?_gl=1*pzcrfz*_gcl_au*NjYyNTYyMDMxLjE3MDkwNDE3OTU. https://travelerbb2017.zohosites.com/


フサの前で言うのもなんだが酷え男だと赤禰は目元を引き攣らせた。


「兄上は色恋沙汰の駆け引きは苦手な方でしたので。女性の方が気を引こうと何かしたらそこでもう面倒臭いとあっさり別れてました。
それ故私に紹介したい,家に連れて行きたいと仰ったのは姉上が最初で最後でございます。なのでフサも姉上の幸せを切に願います。」


三津の幸せを願うフサの思いに桂と入江,赤禰も心打たれていたのに,


「政馬鹿の男共はみんな色恋には能無しか。」


文の冷たい一言が感動を台無しにした。だがそれに追随するようにフサが言い放った言葉の方が男共には衝撃だった。


「武士として家督を継ぐ方々はそうなのでしょうね。フサも将来の旦那様には特に期待を持っておりませんので子さえ生せれば旦那様は要らないです。どうせ家にはおりませんので。」


「十五で達観してんな……流石吉田の妹じゃ……。」


文よりも冷静に言葉を吐き捨てたフサに男達は何も言えなかった。家に居ないから夫はいらないと十五の幼気な娘に言われて男共の精神的な動揺は計り知れない。


「どう考えてもこの先多忙を極める桂様は間違いなく要らない……。」


「文ちゃん,止めてくれ。私は生涯三津に必要とされたいんだ……。」


ちゃんと家庭を省みるからそんな事を言わないでくれと泣きそうな顔で訴えた。三十を越した男が涙目だ。


「きっと三津さんは自分を犠牲にしてでも桂様にも入江さんにも尽くすでしょ。
それに……桂様が今直面なさってる問題を収めるのは容易ではないのは充分承知しております。
ですが犠牲を払った主人や吉田さん,他の同志の為にもどうかご尽力下さいませ。」


文とフサは表情を引き締め姿勢を正し,二人揃って手をついて頭を下げた。
それには桂も姿勢を正して向き合った。


「必ず長州の明るい先を約束する。……その為に三津の癒やしが欲しいんだが。」


前のようにはいかないよなと眉を八の字にして笑った。


「そろそろ三津を寝所に連れてってやったらどうですか?私はまた雑魚寝か武人さんの所にでも転がり込みます。」


入江の気遣いに桂は目を丸くしたが今回もそれに甘える事にした。


「私は今スッキリしてるんで問題ないです。」


「嫌な事を思い出さすな。」


爽やかに笑ってるがとんだ変態だ。桂は入江に舌打ちをして三津を抱えて広間を出た。





桂は布団に三津を下ろすと懐から取り出した手拭いで必死に両手のひらを拭った。
三津がくすぐったそうに身を捩ったから起こしてはいけないと思って拭うのを止めた。


「今日は三津の味噌汁が飲めて幸せだったよ。おやすみ。」


すやすや眠る三津の額に口づけを一つ落として桂もその隣りに横たわった。


翌朝ハッと目を覚ました三津は見覚えのある天井に“また寝てしまった”と呟いて体を起こした。
そして横で眠っている桂を見て小さくあっと声を洩らした。


『小五郎さんが連れて来てくれたんや。』


その寝顔にそっと手を伸ばして頬に少し触れると桂の体がビクッと跳ねて目が開いた。


「ごめんなさいっ起こすつもりは……。」


開いた目が余りにも鋭くて三津は怯えながら咄嗟に手を引いた。


「あぁ……気にしないで。ここ最近神経質になってるのか熟睡出来なくて……。昨日話した薩摩との件で。」


三津のせいじゃないよと微笑んで優しく頭を撫でるが三津は申し訳なさそうな顔をした。それからその表情のまま桂に向かって両手を広げた。


「これぐらいしか出来ませんが……。」


桂には充分だ。すぐその腕の中に吸い込まれた。
  


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2024年04月03日

桂が苦笑しながら近くに居た伊藤に問うと大きく頷いた。

桂が苦笑しながら近くに居た伊藤に問うと大きく頷いた。


「空気の読めない高杉を機嫌よくここに留めるには酒だと酒を用意させてせっかく本物の芸妓が来てるのに拝まなくてどうすると白石さんを唆し……。」


「ほらね。大丈夫だった。」


桂が微笑むと三津も微笑み返して頷いた。そんな二人を見つけて割り込むように入江が近寄った。


「三津,食べり。何も食べんのはいけん。」 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/04/03/182125 https://travelerbb2017.zohosites.com/ http://kiya.blog.jp/archives/24350188.html


入江はにこにこしながらおにぎりを一つ差し出した。


「あっありがとうございます。」


伊藤も座って座ってと三津を座らせお茶を用意した。自分とは違って待遇がいいなと苦笑しつつ桂もその隣りに腰を下ろした。


桂はおにぎりを頬張る姿を横目に目尻を下げた。
さっきまでは扱い難くてどうしようかと思っていたのが嘘のように今は心の底から穏やかな気分だ。


「美味しい?それ私が握ったそ。」


「んっ!九一さんが?ありがとうございます。美味しいですよ。」


口にあったものを慌てて飲み込んでお礼を言った。何も食べてない自分を思って握ってくれたのかと思うとより有り難みが増す。


『九一の奴抜かりない……。あのつげの櫛と言いどこまで用意周到なんだ……。』


嫉妬の目で見ているとそれに気付いた入江が厭味ったらしく口角を上げた。


「三津もそれ食べ終えたら紅引かん?私が贈ったヤツ。それでお酌されたいわ。」


「お酌するだけならいいけど多分誰かしらに呑まされるでしょ?塗ったまんま寝てもたらあっちこっちに紅つけて汚してしまう。」


「私のここ汚してくれたらいいそ。」


入江はにんまり笑いながら自分の唇と首筋を指でとんとんと叩いた。


『待て待て。九一が贈った紅?おい,いつの間にそんな物を贈った。』


カッと目を見開いて二人を見るが,顔を赤らめる三津とそれを見つめてにやける入江。そんな二人の眼中に全く入らない。何と言う事だ。


「桂様も一杯いかがでしょう?」


いいところに文が酒を持って現れた。これはもう呑むしかない。「少しは互いの心内を話せましたか?」


「うむ,少しだけだが距離は近付けた気はするが……。それよりも九一の距離感がおかしい。」


気に食わんと入江を睨むが当の本人は何が?とわざとらしく首を傾げている。


「私だって努力しましたよ?生きて帰って来た時には大刀三本分は離れろと虐げられてたのがやっとこの距離……。」


「不器用なりに頑張ったのね,お疲れ様。」


文は労いの言葉と共に酒を渡してやった。


「おっ桂さんと九一も呑みだしたか!」


幾松と文によって既に相当飲まされている高杉が千鳥足でやって来た。


「三津さん帰って来てくれたかぁ!良かった良かった記念に呑め。」


何の記念だと三津が苦笑していると文がさっさと潰れろと高杉の口に直接酒を注いだ。積年の恨みが滲み出ている。


「高杉はんこっちで私と遊ぼうや。」


幾松は猫なで声で高杉の腕を掴んだ。邪魔者は潰しておくからと桂と入江に目配せをして高杉を引きずって行った。その先には既に幾松の妖艶さにやられて潰れた奴らがゴロゴロ転がっていた。


相変わらず幾松の武器は凄いなと感心している三津の横に赤禰が腰を下ろした。赤禰が来ると三津の顔がこれでもかと言うぐらいふにゃふにゃになる。


「今日はどうする?呑む?」


いつの間にか三津専用酒の担当は赤禰になっていた。信頼を勝ち取った男にしか担えない大役なのかもしれない。


「んーちょっとだけ。」


ちょうだいと甘えた声で酒をねだった。


「あらやだ。赤禰さんしっかり三津さんの心開いちょるやん。三津さん選択肢に赤禰さんも入れたら?」


文の言葉に三津はとんでもないと首をぶんぶん横に振った。


「赤禰さんを選択肢やなんて私何様ですか!アカンアカン!」


「そうか?俺は光栄やけどな,こんないい女。ほれ呑み。」


三津はお猪口を受け取ると恥じらいながら口をつけた。


「文ちゃん恋敵増やすの止めてくれ……。」


桂が心臓に悪いと左胸を押さえた。
  


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2024年03月12日

「助けたお礼に少し私の話し相手になっても

「助けたお礼に少し私の話し相手になってもらえませんか?」


入江は近くのお茶屋を指差した。小夜は戸惑いながらも頷いて了承した。


「それで……京へは何をしに?京見物?」


長椅子に並んで座ると急に砕けた態度になった入江に小夜は不安になったが少しずつ言葉を選びながら話し始めた。


「会いたい方がいた訪ねて来たのですが冷たくあしらわれて……取り付く島もありませんでした。」


「貴女のような方を冷たくあしらうなんてどんな人なんです?見てみたいな。」 http://mathewanderson.blogg.se/2024/march/entry.html https://mathewanderson.asukablog.net/Entry/2/ https://mathewanderson.3rin.net/Entry/2/


「あの新選組ってご存知ですか?そこに身を置く土方歳三と言う方なのですが。」


『あらまぁ。』何て面白い展開になったんだと入江はにやけそうになった。


「新選組はここでは有名です。知らない人の方が少ないでしょう。その土方殿とは懇意な関係で?」


「懇意……一応許嫁だったんですけど土方様がこちらへ上洛なさる時に破談に……。」


にやけそうになった顔が一瞬にして冷めきった顔になった。


『アイツこんな美人の許嫁捨てたんだ。ふーん,そんでもってこっちで三津さんにあんな事して?』


「酷い人だな。こんなに綺麗な人が江戸から来てくれたと言うのに冷たくあしらうなんて。」


本当に酷い男だ。結婚しなくて正解だとぶちまけたかった。苛々が爆発しそうなのを必死に堪えた。


「顔を合わせれば考え直していただけると思ったんですが私の考えが浅はかでした。なかなか上手くはいかないものですね。」


全くだ。入江は何度も相槌を打った。何もかも上手くいかない。こちらもどうすれば三津を手に入れられるのか骨を折ってる最中だ。


「それでこれからどうされるんです?」


「明後日からは土方様の部下の方が京見物に付き合ってくれるそうなのでそれが済んだら大人しく江戸へ帰ります。
今日は助けてくださってありがとうございました。」


小夜は寂しげだがどこか吹っ切れたような笑顔を見せた。


「良い旅になるといいですね。それでは私はこれで。」


切り上げるには丁度いいだろうと入江は二人分をお代を置いてその場を立ち去った。




その晩に桂の部屋で開かれた報告会では自分以外の全員が不機嫌で入江は首を傾げた。
三人が共通して不機嫌になるとしたら三津が原因かなと思う。
そう言えば帰って来てから一度も三津の姿を見ていない。


「それで何か情報は集まったかな?稔麿からは藤屋に居るのと五日から七日は滞在すると聞いてる。」


「壬生狼に送り込んでる者の報告では彼女が訪ねて来たのは誰一人触れない話題だそうで。近藤と土方と会ってすぐに帰ったとしか。」


久坂は思ったような成果が上げられず不服そうな顔をした。


「彼女は小夜と言い土方の元許嫁だそうです。奴に会いに来たが冷たくあしらわれたそうで,明後日からは土方の部下と京見物をしてそれが済んだら帰ると言ってましたよ。」


「言ってた?お前まさか……。」


吉田が眉間にしわを寄せた。


「今日も同じ場所に居たから。彼女の口から聞いた事なら確実だし。」吉田は何してんだと溜息をついたが,やはり入江は見所があるなと桂は笑みを浮かべた。すると入江のきりっとした目が桂へと真っ直ぐに向いた。


「彼女変な輩に絡まれてましたよ。折角三津さんが助けたと言うのに三津さんに会いたいが為にまた危ない目に遭ったんじゃ元も子もないですよ。」


それは確かにと桂は顎を擦った。かと言って会わそうにも厄介な相手なのは間違いない。


「土方の客人だってのに放ったらかしか?全く丁重に扱わないんだな。それだけ関わりたくないって事か。
そりゃそうか,元許嫁と手篭めにした元小姓が一緒に居るところなんて見たくもないわな。」


土方には会わせたくないが二人に挟まれた壬生の鬼がどんな顔をするかは興味がある。吉田は引き合わせてみるか?と悪い顔をした。
  


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2024年03月12日

「そう,彼女は私達を探してくれてるのか

「そう,彼女は私達を探してくれてるのか。律儀だね。
ひとまず彼女が何者か知る必要はあるな。多分江戸から壬生狼の誰かに会いに来たのは間違いないと思うから,宿といつまでここに滞在するのかは調べないと。
葛きりは彼女が京を発った後でも構わないだろう。」


つまりは彼女に会うつもりはない。三人は声を揃えて御意とだけ言って桂の部屋を後にした。


「意外と冷たかったね桂さん。美人だったからてっきりお礼受けると思ってた。」


つまんないと入江がぼやくが久坂はそれが妥当と思った。https://carinacyril.blogg.se/2024/march/entry.html https://paul.asukablog.net/Entry/3/ https://paul.3rin.net/Entry/3/
壬生狼の関係者だ。三津を関わらせたくはないだろう。もしまたあっちに連れ戻される事なんてあればそれこそ真っ向からの戦だ。


「壬生狼の知人からの恩返しなんて何を返されるか分からんな。仇で返されちゃたまったもんじゃない。」


久坂の言葉に吉田は同感だと笑った。


「もし彼女を助けたのが桂さんと三津だと知れたら彼女をだしに引きずり出してこようとするのは目に見えてるしね。」


「でも土方は何もしないんじゃない?三津さんにあんな事したのバレたらまずいんじゃないの?」


入江の一言に吉田と久坂は確かにと思って顔を見合わせた。


「俺らまで結局面倒事に足突っ込んでる気はするけど調べたら面白い案件かもね。」


退屈しないと入江は口角を持ち上げた。





翌日三人は各々の手段で身辺調査に出た。


「珍しいですね。皆さん早々に出払って。」


お陰で室内の掃除は捗りますと三津は笑った。
そう。さっきまではそう思った。さっきまでは。


「みんなが居ないから気兼ねなく私の部屋で寛げるだろ?」


屋敷内が静かだからここぞとばかりに大掃除にかかろうとした矢先,桂に捕まった。勿論サヤとアヤメは暗黙の了解で見て見ぬふり。


桂の部屋に引きずり込まれた三津は桂の膝の上にちょんと座らされ,桂はそのままごく普通に書状に目を通す。


「寛ぐどころか落ち着きませんね。」


「そう?私は癒やされてるよ。三津が膝に乗ってくれてるからね。背中じゃないのがちょっと残念だけど。」


『根に持ってはる……。』


それを言われたら大人しくしてるしかない。考えても見れば想いを通わせてる相手がどんな事情であれ他の異性の背中に跨ってるなんて。


『根に持つどころか末代まで呪うよね。』


これで済むなら桂の処置は寛大だ。三津は心の中で手を合わせて拝んだ。「それよりも私の目に入る位置で広げていいんですか?重要な事書いてるんやないんですか?」


「構わないよ。三津には何の話か分からないだろうし誰に密告する訳でもない。
それに全部が全部重要な物でもない。大半がくだらない話だよ。」


それでも目を通さなければならないから余計な仕事が増えるだけだと溜息混じりに洩らした。


「でもこうして三津がここに居るとやる気が出るよ。」


そう言って目の前の首筋を鼻先でくすぐって捩れる体を抑えつけて首筋に吸いついた。
やる気はやる気でも違うやる気が唆られる。


「違うやる気出さないでください!集中を欠くようなので私も仕事に戻ります!」


「分かったよちゃんと仕事に集中するよ。来てくれてありがとう。」


もう一度首筋に口づけて三津を解放した。三津は耳まで赤くして部屋を飛び出した。
どうせまた目に付く所に痕をつけられたに違いない。これじゃ恥ずかしくて屋敷内を歩けやしない。


急いで廊下を歩いていると,


「明るいうちから情婦引きずり込んでいい御身分だよなぁ。腰抜けの癖に。」


あからさまな悪口が背後から聞こえて来て足を止めて振り返った。
くすくすと笑いながら蔑む目でこちらを見てくる二人組。悪いが名前は知らない。関わった記憶もない二人だ。
  


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2024年03月12日

近藤に肘で突かれ眉根を寄せて不機嫌に咳払

近藤に肘で突かれ眉根を寄せて不機嫌に咳払いをした。


「お伊勢参りのついでに京も見て回りたくて。」


小夜は少し俯いて袖で口元を隠した。そんなに怖い顔をしないでと上目で土方を見つめる。


「そうでしたか!それなら歳!案内して差し上げろ。数日暇をやろう。」


品のある小夜の仕草に近藤は鼻の下を伸ばしながら土方の背中を叩いた。


「は?馬鹿言うなよこんな時に!」


「あの!それでしたらお願いが……。」 https://carina.zohosites.com/ https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/2282952.html http://carinacyrill.blogg.se/2024/march/entry.html


声を荒らげる土方を制するように小夜が口を挟んだ。


「先程変な殿方に絡まれたのを助けてくださった方がいらっしゃるのですがお礼もしないままに立ち去られてしまって……。」


ここまで言われたらそのお願いが何なのかは分かる。


「その恩人を探せば良いのですね?して名前や特徴などは。」


美人の役に立てるならと近藤が身を乗り出し土方がそれを見てさらに眉間のしわを深く刻む。


「名前聞けませんでした……。男性と女性の二人組で男性の方が土方様とお年は近いかと。それに目鼻立ちがはっきりとした色男で女性の方は小柄で咄嗟に私の妹のふりをしてくださったんです。」


土方と同世代の色男と小柄な女。それを聞いて土方の眉がピクリと動いた。


『桂と三津だろそれ……。』


思わず舌打ちをしていた。いや,色男なのは置いといて男女の二人組なんてそこら辺にごろごろいる。それに女が小柄なのは普通だろ。考え過ぎだと首を横に振った。


「私が小夜さんに声をかけた所で走り去ってしまったんですよねぇ。いやぁ私も小夜さんに驚いて周りが見えてなかったので姿は見てないんですけどね。」


清々しい顔の総司の言葉で土方の目元がひくひく動いた。総司を見て逃げたとしたら桂と三津の可能性が高まる。


「そんだけの情報で探そうなんざ無謀だ時間の無駄だ。大人しく京見物したら江戸に戻りな。」


これ以上ややこしい事態にしたくない。土方は小夜の顔すら見ずに冷たくあしらった。「もちろんお仕事の邪魔をするつもりはありません。京見物も一人で充分です。土方様の元気なお姿を見られただけでも小夜は満足でございます。
沖田さん案内ありがとうございました。今日はこれで失礼して宿へ向かいます。」 


小夜は綺麗な所作で頭を下げると静々立ち上がった。


「では途中まで送ります。」


小夜について総司が部屋を出た瞬間に土方の体から一気に力が抜けて深い溜息が吐き出された。


「歳,あんなに冷たく当たることはないだろう。せっかく許嫁が江戸から会いに来てくれたというのに。」


「あ?そんなのこっちに出て来る前に破棄してらぁ。」


正座を崩して片膝を立てムスッとそっぽを向いた。一瞬ポカンとした近藤だが次には屯所中に響き渡るような声を上げた。


「はぁぁぁ!?何でそんな事を!あの器量でいい娘さんじゃないかっ!!」


「あの器量だからだよ。俺よりいい相手がいるさ。」


だからまさかここまで追ってくるとは思わなかったから面食らったのだ。しかも三津と遭遇したとなるとより厄介だ。出来れば,いや絶対遭遇させたくない。


「なぁ……小夜を助けた二人だが……。」


「多分お三津ちゃんじゃないか?色男を連れていて困ってる人を放っておけない小柄な女の子。」


相変わらずお三津ちゃんもいい娘だなぁと呑気に顔を綻ばす近藤を見て土方はより深い溜息をついた。


「だがきっと総司と遭遇したとなれば桂はお三津ちゃんを外には出さないだろうなぁ。お小夜さんに会わせてあげるのは難しそうだ。」


「あ?敵の女に会わせる気かよ。」


「私は敵の女だとは思っていないよ。お三津ちゃんはきっと今でも誰に対しても平等だ。敵も味方も分け隔てなく接すると思ってる。彼女に敵などいないよ。だから彼女も私達の敵ではない。」


自信満々な笑みを浮かべる近藤を土方はフンッと鼻で笑った。


「女には甘々だなぁうちの大将は。」


『なるほど,副長の元許嫁か。』


盗み聞きをしていた斎藤はそろりそろりとその場を離れた。


『それにしても元許嫁が最近組み敷いた元小姓に遭遇したとなれば気が気じゃないないだろうなぁ。』


何はともあれこちらにとっては面白い事になったなとあくまで他人事だ。


『しかしこれを巧く利用すればアイツに会えるかもしれない……。だが局長の言う通り桂が外に出さんだろうな。』
  


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2024年03月05日

ご機嫌な三津を玄関先まで送り届けて

ご機嫌な三津を玄関先まで送り届けて名残惜しげに別れの挨拶。


「今日は付き合ってくれてありがとうございます。」


「こちらこそ久しぶりに町に出られて楽しかったです!
それと根付けもありがとうございます。大切にします兄上。」


帯からぶら下がる花の飾りを優しく指で撫でて目尻を垂れ下げた。
兄上と言う響きが心地よくて久坂の頬も緩みっぱなしだった。


「ではまた。」


久坂は軽く会釈をして藩邸へと戻った。http://kiya.blog.jp/archives/24070320.html https://note.com/ayumu6567/n/n9b8fea899067?sub_rt=share_pb https://community.joomla.org/events/my-events/lino-xiano-muto-muga-hetta.html


『斎藤とはやはり仲が良かったんだな。三津さんも然ることながら斎藤のあの穏やかな顔……。』


一瞬だけ見せたやわらかな笑みが思い出される。
もし本当に自分が三津の兄だとしたら桂より斎藤の嫁に出したいとちょっと思う。


「桂さん。久坂です戻りました。」


桂の部屋に声を掛ければどうぞと短い返事があった。
書物をしている桂は筆を走らせながら,


「楽しかったかい?」


少しの嫉妬を混ぜて問いかけた。


「お陰でいい物が買えました。お礼に三津さんにも根付けを渡してますのでそこは責めないであげて下さい。私が押し付けたので。」


桂は筆を置いて久坂の方へ向き直った。


「そうか分かった。それで彼には会えたかい?」


「えぇ。きっとずっと近くに居たんでしょうね。」


三津を連れ出す際に桂が出した条件。


“斎藤君が居たら話をさせてあげて。”


どう言うつもりで何の意味があるのか分からなかった。
三津に何かあったらどうする?と思ったが,もしもの時は斬っちゃって。とあっけらかんと言われた。


「やっぱり彼は三津の事心配してた?ここ最近この辺に来てたけどどうも彼が調べてたのは土方君の事だったんだ。」


『あぁ……斎藤一は気付いたんだ。土方がした事。』


ただ事実かどうか最終的には当人に聞くしか無いがそれは出来ない。
でももしかしたら三津には会えるかもしれない。
そしてそれが事実なら,傷ついてるであろう三津が心配で。


「律儀な男でしたよ。去り際に借りは返すと言い残して行きました。」


『とても律儀だ。三津さんを抱きしめるにも御免許せとこっちに言った。
斎藤一は三津さんを桂さんのモノだと認めてる。
大した男だよ。』


立場を弁え理性を保てる。やっぱり三津を嫁にやるなら斎藤の方がいいと思った。「三津さんを見てると松陰先生の気持ちになるんですよ。
松陰先生が文を可愛がってたのと同じような気持ちに。」


「あっははは!玄瑞は三津をそう言う風に見てたのか。」


周りは敵だらけと思っていただけにほっとした。


「はい,世話を焼きたくなる妹ですね。なので兄から言わせていただくと桂さんの元に置いておくのは嫌です。」


「やっぱり敵か。」


にこやかに聞いていた顔は一瞬で真顔に戻った。
こっちは相思相愛だ。何故いきなりしゃしゃり出てきた偽兄に,お前に妹はやらんと言われなければならないんだ。


「泣かせず幸せにしてあげて下さいね。それでは失礼します。」


言いたい事は言ったんでと頭を下げて早々に部屋を出た。


「言われなくともそうするつもりだ。」


失礼な奴だなと思いつつも唐突ではあるが兄のような振る舞いをする久坂が新鮮で口端を上げた。





夕方帰宅した桂は出迎えた三津の帯にある根付けを見て笑みを浮かべた。


「これか。兄からの贈り物は。楽しかったみたいだね久しぶりの町は。」


「最初はちょっとヒヤヒヤしてましたけどね。要注意人物同士で出掛けたので。すぐに夕餉の支度しまーす。」


三津は声を弾ませて台所へ。


『ご機嫌だな。町に出たのが楽しかったのか斎藤君に会えたのが嬉しかったのか。』


後者であるなら複雑な気分だ。
気付かれないように台所へ踏み込んで背後から強く抱きしめた。


「うわ!びっくりした!」


気配を消して近付かないでと怒った顔をして見せたが,へらへら笑ってごめんねと軽く口づけをされた。


「もぉ!」


機嫌を損ねてしまった三津に悪かったとも
う一度唇を重ねた。今度は舌を割り入れて深く貪った。
  


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2024年03月05日

「えぇめっちゃ寝てました。

「えぇめっちゃ寝てました。でもそれだけお疲れだと言う事です。
今夜も早めに寝るのをお勧めします。
桂さん余計な事はせずに寝かせてあげてくださいね。」


最後の余計な事はせずを強調しておいた。
桂は渋い顔で努力するとだけ答えたが,久坂にぎろりと睨まれて分かったと言い直した。


「三津さん安眠出来ないならいつでもここを貸すのでいらしてください。」


「ありがとうございます。」


でも大丈夫と笑って体を起こした。それには桂と久坂は顔を見合わせて苦笑した。http://kiya.blog.jp/archives/24060851.html https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/03/03/181302 https://travelerbb2017.zohosites.com/


「もっと頼られるように精進するよ。玄瑞ありがとう。」


さぁ帰るよと三津の手を引いて部屋を出た。
寝てすっきりしたのか三津は満面の笑みで久坂に手を振って帰って行った。


『過去の約束か……。』


もしそれが相手を不幸にするのならそんな物要らない。


『もはや呪いだ。』


三津の温もりが残る布団にそっと手を置いた。





「やっぱり久坂さんはお医者様ですね。すっかり見抜かれてました。」


今日は早めに寝ないととくすくす笑いながら軽い足取りで家路を行く。


「ゆっくり出来たみたいで良かった。玄瑞に預けて正解だったよ。」


ちょっと頭が固いとこもあるけどと笑った。


「それで小五郎さんは何処に行かれてたんです?」


浮気してない?と冗談っぽく顔を覗き込んだ。


「してるように見える?見えるならどれだけ三津を愛してるか帰ってから思い知らせてあげるよ?」


「ふふっ今日は早く寝ます!」


愛してるがくすぐったくて,にやけきった顔を我慢出来ない。
嬉しくて桂の着物の袖をくいくいと引っ張った。


「ん?なぁに?」


子供を甘やかすような声で見下ろせばこれ以上ない笑顔が見上げてくる。


「私も愛してます。」


屈託のない笑みでまっすぐな言葉を投げてきた。桂は珍しく顔が熱くなるのを感じた。


「本当に……敵わないねぇ……。」


三津に聞こえないくらいの声でぼそりと呟いた。


もし三津が遠くへ行ってしまって久しぶりに目の前に現れたとしたら,理性なんて物は全く機能しないと思う。
今は土方の事がちょっと理解出来る気がする。


『斎藤君は理性の塊のような男だと勝手に思っているが……。どこまで冷静でいられるんだろうね。』次の日一人で藩邸に姿を現した桂の元へ久坂がやって来た。


「三津さんのご様子はどうですか?」


元気な笑顔がそこになくて少し残念だった。


「昨日はちゃんと早めに寝かせたよ。昼寝してたのによく寝てた。」


鼻を摘んでも起きなかったとけらけら笑った。


『余計な事しやがって。』


三津の睡眠の妨げにならなかったからいいもののと苛立ちで目元が引き攣った。
だが今は桂の機嫌を損ねてはならない。交渉にやって来たんだ。


「桂さんにお願いがあるんですが。」


「何だい?」


久坂がそう言うのは珍しい。どんな用件か興味深い。


「文に贈り物をしたいのでその品選びを三津さんに手伝っていただきたいんですが。」


「なるほど三津を連れて出掛けたいと。」


桂はそうかそうかと顎を擦ってうーんと唸って天を仰いだ。


簡単には許してもらえないと理解している。だから黙って桂の返答を待つ。


「分かった。良いけど一つ条件がある。」


「条件?」


「そう。それを飲んでもらえるなら迎えに行ってそのまま出掛けるといい。」


桂はにっと笑った。






「御免くださーい。三津さん久坂ですー。」


桂からの条件を承諾して早速家まで迎えに来た。


「久坂さん?どうしました?」


掃除の真っ最中だった三津は姐さん被りにたすき掛け。それに前掛けをした姿で現れた。


「ちょっとお願いがあって来ました。勿論桂さんには了承を得てますので心配なさらず。」


「何でしょう?」


私に出来る事ですか?と首を傾げた。
きょとんとした顔に愛嬌を感じて久坂は柔和な顔で頷いた。


「買い物に付き合っていただきたいんです。」


「えっ私連れて出て大丈夫ですか?」
  


Posted by energyelaine at 19:39Comments(0)
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