2023年11月15日
「すみません……。
「すみません……。その、私はもうすぐ十七です」
「若いねェ。でもそれで総司の一撃を受けられるんだから、有望だよ〜。今度、俺とも戦おうね」
「はい。是非とも」
それでは、と頭を下げると桜花は今度こそ足早に去った。 その日の夜は冴え冴えとした月が綺麗だった。局長室の小窓から差し込む月明かりに、部屋の主の近藤は目を細める。
目の前には土方が座っていた。
「なあ、近藤さん。本当にあの怪しい奴を八木さんとこに置いて良かったのか。記憶がねえなんてそんなことあると思うか?」
「聞いたことは無いが、https://mathewanderson.anime-cosplay.com/Entry/1/ https://carinaa.blog-mmo.com/Entry/1/ https://john.ni-3.net/Entry/1/ 丸っきり嘘だとも思えなくてな。……あの怯えたような、何処か昔の総司に似ていると思わんか」
その問い掛けに、土方は浅く溜め息を吐く。
「お前さんは、総司には甘いからな。だがあいつは総司とは違うぜ」
「分かっているさ。後は、何処かで会ったような気がするんだ。ここ最近の話しではなく、江戸に居た頃だと思う。歳は心当たりは無いか?」
近藤の言葉に、土方はドキリとした。まさに自身も同じことを考えていたからである。
「あるような、ないようなって感じだよ。どうせ他流試合に居た奴らの誰かと似ていたって話だろうさ」
薄く笑みを浮かべた土方は、懐からを取り出した。行灯の火を移すと、煙をふかす。紫煙がゆらゆらと天井へ向かって上がって行った。
そこへ障子の外から声が掛かる。その声の主に気付いた近藤は笑みを浮かべながら、入るように促した。
「失礼します。あれ、土方さんも居たのですか」
それは先程話題に上がっていた沖田である。にこにこと笑みを浮かべながら近藤の前に胡座をかいて座った。
「……居ちゃ悪いかよ」
「いいえ。丁度良かったです。もう、むくれないで下さいよ」
丁度良かったとはどういうことかと、土方は小窓の枠に肘を置きながら、煙管の灰を灰落としへカンカンと捨てる。
「私が今日戦ったあの人……。そう、桜花さんだ。結局どうなったんです?入隊ですか?」
その問い掛けに、土方は首を大きく振った。
「素性が怪しすぎるからな。隊士には出来ねえ。だが、八木さんとこに使用人として置いて貰うことになった」
「そうですか。久々に骨のある新人が来たと思ったのになァ。それにしてもあの人……本当に女子のような顔立ちですね。男だと分かっているのですが」
沖田の言葉を受けて、近藤と土方はその頭に桜花の姿を浮かべる。透明感のある白い肌、長い、二重のぱっちりとした目に薄い唇、華奢な身体。あの何処に沖田の攻撃を受ける力があったというのか。
そして困ったように微笑む沖田を見て、土方は何かを察する。
「……問題ねえよ、総司。第一、女が剣術なんて習うもんか。薩摩の女や千葉の鬼小町じゃあるめェし。本当にお前は女が嫌いだよな」
「そうだぞ。それにお前の攻撃を受け止められるはこの世におらぬだろう」
土方と近藤の言葉に、沖田は安堵の息を吐いた。江戸に居る頃にとある事件があってから、ずっと女子とは関わらぬようにしてきた。というよりも、身体が受け付けないのである。触ろうものなら、気分が悪くなってしまう。
「そうですよね。……そもそも女子なら色男の土方さんが放っておく訳がないか」
からかうような口調で言う沖田を、土方は睨みつけた。
「うるせえよ。残念だが俺ァ男にゃ興味無いんでな。……そうだ、総司。丁度いいや、たまにで良いから鈴木桜花のことを見張っちゃくれねえか。お前の人懐こい性格なら大丈夫だろう」
「ええー」
「えーじゃねえ。俺の代わりに仕事をやるか?」
「いえ。絶対やりたくありません。だって面倒だもの」
そのやり取りを近藤は微笑ましそうに見ている。視線を窓の外へやりながら、明日は晴れだなと笑みを浮かべた。
「若いねェ。でもそれで総司の一撃を受けられるんだから、有望だよ〜。今度、俺とも戦おうね」
「はい。是非とも」
それでは、と頭を下げると桜花は今度こそ足早に去った。 その日の夜は冴え冴えとした月が綺麗だった。局長室の小窓から差し込む月明かりに、部屋の主の近藤は目を細める。
目の前には土方が座っていた。
「なあ、近藤さん。本当にあの怪しい奴を八木さんとこに置いて良かったのか。記憶がねえなんてそんなことあると思うか?」
「聞いたことは無いが、https://mathewanderson.anime-cosplay.com/Entry/1/ https://carinaa.blog-mmo.com/Entry/1/ https://john.ni-3.net/Entry/1/ 丸っきり嘘だとも思えなくてな。……あの怯えたような、何処か昔の総司に似ていると思わんか」
その問い掛けに、土方は浅く溜め息を吐く。
「お前さんは、総司には甘いからな。だがあいつは総司とは違うぜ」
「分かっているさ。後は、何処かで会ったような気がするんだ。ここ最近の話しではなく、江戸に居た頃だと思う。歳は心当たりは無いか?」
近藤の言葉に、土方はドキリとした。まさに自身も同じことを考えていたからである。
「あるような、ないようなって感じだよ。どうせ他流試合に居た奴らの誰かと似ていたって話だろうさ」
薄く笑みを浮かべた土方は、懐からを取り出した。行灯の火を移すと、煙をふかす。紫煙がゆらゆらと天井へ向かって上がって行った。
そこへ障子の外から声が掛かる。その声の主に気付いた近藤は笑みを浮かべながら、入るように促した。
「失礼します。あれ、土方さんも居たのですか」
それは先程話題に上がっていた沖田である。にこにこと笑みを浮かべながら近藤の前に胡座をかいて座った。
「……居ちゃ悪いかよ」
「いいえ。丁度良かったです。もう、むくれないで下さいよ」
丁度良かったとはどういうことかと、土方は小窓の枠に肘を置きながら、煙管の灰を灰落としへカンカンと捨てる。
「私が今日戦ったあの人……。そう、桜花さんだ。結局どうなったんです?入隊ですか?」
その問い掛けに、土方は首を大きく振った。
「素性が怪しすぎるからな。隊士には出来ねえ。だが、八木さんとこに使用人として置いて貰うことになった」
「そうですか。久々に骨のある新人が来たと思ったのになァ。それにしてもあの人……本当に女子のような顔立ちですね。男だと分かっているのですが」
沖田の言葉を受けて、近藤と土方はその頭に桜花の姿を浮かべる。透明感のある白い肌、長い、二重のぱっちりとした目に薄い唇、華奢な身体。あの何処に沖田の攻撃を受ける力があったというのか。
そして困ったように微笑む沖田を見て、土方は何かを察する。
「……問題ねえよ、総司。第一、女が剣術なんて習うもんか。薩摩の女や千葉の鬼小町じゃあるめェし。本当にお前は女が嫌いだよな」
「そうだぞ。それにお前の攻撃を受け止められるはこの世におらぬだろう」
土方と近藤の言葉に、沖田は安堵の息を吐いた。江戸に居る頃にとある事件があってから、ずっと女子とは関わらぬようにしてきた。というよりも、身体が受け付けないのである。触ろうものなら、気分が悪くなってしまう。
「そうですよね。……そもそも女子なら色男の土方さんが放っておく訳がないか」
からかうような口調で言う沖田を、土方は睨みつけた。
「うるせえよ。残念だが俺ァ男にゃ興味無いんでな。……そうだ、総司。丁度いいや、たまにで良いから鈴木桜花のことを見張っちゃくれねえか。お前の人懐こい性格なら大丈夫だろう」
「ええー」
「えーじゃねえ。俺の代わりに仕事をやるか?」
「いえ。絶対やりたくありません。だって面倒だもの」
そのやり取りを近藤は微笑ましそうに見ている。視線を窓の外へやりながら、明日は晴れだなと笑みを浮かべた。
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19:38
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2023年11月15日
かにぶつけていたろう。
かにぶつけていたろう。もう少し横になっておけ。動かさねえ方がいい」
「……はい」
受け身すら取れなかったという事実が悔しくて仕方が無いと、桜花は顔を歪める。
「まさかあそこまで健闘するとは思わなかったよ。総司の一太刀を受け止められる者など、この新撰組でも数少ない。自分を誇ってくれ」
負けたのにも関わらず驚くほど優しい言葉に、不意に涙腺が刺激されるのを感じた。
「総司に挑むなんざ、余程の阿呆かと思ったが……。https://paul.animech.net/Entry/1/ https://paul.anime-cosplay.com/Entry/1/ https://mathewanderson.blog-mmo.com/Entry/2/
その胆力は認める。もっと体力を付ければ更に伸びるだろうよ」
「ああ。……どうだね、うちで働くかい?稽古にだって出てもらっても構わない」
暖かな空気が、冷えた心の隙間からそっと入り込んでくる。涙を見せぬように、腕を目元に置いた。
「……私。頼る家も、記憶も、手形というものもありませんが。それでも良いのですか……」
「家から追い出されたも沢山いるからな。そこは構わねえ。それにお前さんは隊士という立場じゃねえからよ」
隊士ではないということは、つまり万が一でも高杉らを追いかけ回す可能性は無い。そのことが決定打となった。
「……よろしく、お願いします」 いつの間にか、あれから桜花は更に寝入ってしまっていた。人の気配を感じて目を開けると、小さな子どもが二人、そして坊主頭の男が覗き込んでいる。
桜花は目を丸くすると、叫び出しそうになったが何とか抑えた。
「おッ、目ェ覚めたか。気分はどないや?」
「……目覚め方は最悪ですが、気分は良いです」
思わず嫌味を言ってしまったが、男は気を悪くした様子もない。桜花は身を起こすと、子どもたちへ視線を向けた。
──小学生と中学生といったところかな。もしかして、近藤さんの言っていた"ヤンチャな坊主"って。
「この子ォらはな、八木さんちの坊主らや。ほら、挨拶しい」
促されると、まずは中学生くらいの男児が桜花へ向き合った。と申します。宜しゅうお頼み申します」
京弁の訛りが強いが、しっかりとした挨拶を受けて桜花は直ぐに正座をする。
その兄の姿を見ていたのか、もう一人の小学生くらいの男児も背筋を正した。
「ええと……。八木源之丞が三男のォ、です。宜しゅうお頼み申します」
たどたどしくも見様見真似でやり終えると、にこりと愛らしい笑みを浮かべる。
それを見た桜花は母性本能がくすぐられるような気持ちでいっぱいになった。口角が緩むのを感じつつ、目を細めて口を開く。
「鈴木桜花と申します。宜しくお願いします」
「こほん、ちなみにワシはと呼んだってや」
松原は目を棒にして笑みを浮かべた。
「私、使用人という立場なのですが……。それで良いのでしょうか」
「ええで。なあ、為坊に勇坊?堅苦しいよりマシやろ?」
松原に問い掛けられた二人は、顔を見合わせると無邪気に頷く。為三郎に関しては差程歳も変わらないはずと思いつつも、桜花は了承した。
「せやったら、ウチらはちゃんって呼んでええ?」
勇之助は丸い目を輝かせて、ずいと前のめりになる。さしずめ、新しい遊び相手を見付けたと思っているのだろう。
「は、はい……。勿論です」
「俺らより年上なんやから、気楽に話して下さい」
つまり敬語では無くて良いと為三郎は言った。まるでいきなり弟が出来たような感覚だと、胸の奥が暖かくなる。
「……分かったよ、為坊。勇坊」
「やった、桜ちゃん。仲良うしてな!」
照れながらもそう言えば、勇之助が正面から抱き着いてきた。笑みを浮かべて桜花の胸に顔を埋める。
だが、違和感を覚えたように身体を離すと、小首を傾げた。
「……あれ、桜ちゃん。何だかな。まるで母、」
「ああーっと!!!ご両親のところへ御挨拶に行かなければならないんだった!為坊、勇坊、良かったら案内してくれないかな!」
桜花は捲し立てるように言うと、有無を言わさない笑みを浮かべる。すると、勇之助はきょとんとした後に直ぐに大きく頷いた。
「そうやった!母上と父上に様子を見てくるように言われたんやった。こっちやで」
慌てて立ち上がると、勇之助は母屋の方を指差す。松原は手を振って三人を送り出した。
「
「……はい」
受け身すら取れなかったという事実が悔しくて仕方が無いと、桜花は顔を歪める。
「まさかあそこまで健闘するとは思わなかったよ。総司の一太刀を受け止められる者など、この新撰組でも数少ない。自分を誇ってくれ」
負けたのにも関わらず驚くほど優しい言葉に、不意に涙腺が刺激されるのを感じた。
「総司に挑むなんざ、余程の阿呆かと思ったが……。https://paul.animech.net/Entry/1/ https://paul.anime-cosplay.com/Entry/1/ https://mathewanderson.blog-mmo.com/Entry/2/
その胆力は認める。もっと体力を付ければ更に伸びるだろうよ」
「ああ。……どうだね、うちで働くかい?稽古にだって出てもらっても構わない」
暖かな空気が、冷えた心の隙間からそっと入り込んでくる。涙を見せぬように、腕を目元に置いた。
「……私。頼る家も、記憶も、手形というものもありませんが。それでも良いのですか……」
「家から追い出されたも沢山いるからな。そこは構わねえ。それにお前さんは隊士という立場じゃねえからよ」
隊士ではないということは、つまり万が一でも高杉らを追いかけ回す可能性は無い。そのことが決定打となった。
「……よろしく、お願いします」 いつの間にか、あれから桜花は更に寝入ってしまっていた。人の気配を感じて目を開けると、小さな子どもが二人、そして坊主頭の男が覗き込んでいる。
桜花は目を丸くすると、叫び出しそうになったが何とか抑えた。
「おッ、目ェ覚めたか。気分はどないや?」
「……目覚め方は最悪ですが、気分は良いです」
思わず嫌味を言ってしまったが、男は気を悪くした様子もない。桜花は身を起こすと、子どもたちへ視線を向けた。
──小学生と中学生といったところかな。もしかして、近藤さんの言っていた"ヤンチャな坊主"って。
「この子ォらはな、八木さんちの坊主らや。ほら、挨拶しい」
促されると、まずは中学生くらいの男児が桜花へ向き合った。と申します。宜しゅうお頼み申します」
京弁の訛りが強いが、しっかりとした挨拶を受けて桜花は直ぐに正座をする。
その兄の姿を見ていたのか、もう一人の小学生くらいの男児も背筋を正した。
「ええと……。八木源之丞が三男のォ、です。宜しゅうお頼み申します」
たどたどしくも見様見真似でやり終えると、にこりと愛らしい笑みを浮かべる。
それを見た桜花は母性本能がくすぐられるような気持ちでいっぱいになった。口角が緩むのを感じつつ、目を細めて口を開く。
「鈴木桜花と申します。宜しくお願いします」
「こほん、ちなみにワシはと呼んだってや」
松原は目を棒にして笑みを浮かべた。
「私、使用人という立場なのですが……。それで良いのでしょうか」
「ええで。なあ、為坊に勇坊?堅苦しいよりマシやろ?」
松原に問い掛けられた二人は、顔を見合わせると無邪気に頷く。為三郎に関しては差程歳も変わらないはずと思いつつも、桜花は了承した。
「せやったら、ウチらはちゃんって呼んでええ?」
勇之助は丸い目を輝かせて、ずいと前のめりになる。さしずめ、新しい遊び相手を見付けたと思っているのだろう。
「は、はい……。勿論です」
「俺らより年上なんやから、気楽に話して下さい」
つまり敬語では無くて良いと為三郎は言った。まるでいきなり弟が出来たような感覚だと、胸の奥が暖かくなる。
「……分かったよ、為坊。勇坊」
「やった、桜ちゃん。仲良うしてな!」
照れながらもそう言えば、勇之助が正面から抱き着いてきた。笑みを浮かべて桜花の胸に顔を埋める。
だが、違和感を覚えたように身体を離すと、小首を傾げた。
「……あれ、桜ちゃん。何だかな。まるで母、」
「ああーっと!!!ご両親のところへ御挨拶に行かなければならないんだった!為坊、勇坊、良かったら案内してくれないかな!」
桜花は捲し立てるように言うと、有無を言わさない笑みを浮かべる。すると、勇之助はきょとんとした後に直ぐに大きく頷いた。
「そうやった!母上と父上に様子を見てくるように言われたんやった。こっちやで」
慌てて立ち上がると、勇之助は母屋の方を指差す。松原は手を振って三人を送り出した。
「
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2023年11月15日
「その手。随分と稽古を積んだ
「その手。随分と稽古を積んだのだろう。同じ剣術を学ぶ者として、腕前が気になるところだ」
豆やタコが無数に出来、皮が分厚くなっており、到底女とは思えぬそれを桜花は後ろへ隠す。
「隠すことは無ェだろう。流派は何処だ?」
土方の問いかけに、桜花は小さく首を横に振った。 そうと決まれば話しは早かった。土方は、部屋の前で待機していた斎藤へ声を掛けると、準備をさせに行く。
やがて近藤と土方の後に続いて狭い廊下を歩き、門を潜って外へ出た。ひやりとした風に乗って、甘く爽やかな香りが鼻腔をる。
その方を見遣れば、赤く色付いた梅の花が咲いていた。
おい、と土方に呼び掛けられ、桜花は慌ててその後を追う。
前川邸を出て西側にある家屋──八木邸の門を潜ると、https://johnn.animech.net/Entry/1/ https://johnn.anime-cosplay.com/Entry/1/ https://johnn.blog-mmo.com/Entry/1/ と離れ家の間に五十畳はくだらない大きな道場が現れた。そこからは活気のある勇ましい声が聞こえてくる。
「お、お邪魔します……」
文武堂と掲げられた道場へ入れば、まだ冬の寒さが残る頃だと言うのにたちまち熱気に包まれた。その空気に当てられるだけで、自然と腹の奥から言葉に表せない程の感情が湧き出てくる。
──ああ、楽しそう。どれだけ嫌な思いをしたとしても、私はやはり剣道が好きなんだ。
「局長、副長!」
二人の姿を認めるなり、稽古をしていた者たちは揃って手を休める。面を取りつつ寄ってきた。
「励んでいるところ、いきなり済まねえな。こいつの腕試しをしたいんだが、相手になってくれる奴はいるか」
土方の声に、僅かにどよめきが起こる。それもそのはずで、子どもか女にしか見えない桜花とまともにやり合えば、怪我をさせてしまうと考えたのだろう。ましてや、局長と副長に引き連れられてきた者に怪我など、と躊躇していた。
「……あれ、誰も居ないんですか?それなら私がお相手しますよ」
そこへ、春の風のように爽やかな声が道場の隅から上がる。面も付けずにスタスタと裸足で歩いてくると、無邪気な笑みを浮かべていた。
「総司」
「ね、近藤先生。良いでしょう?」
総司と言われた男は総髪で上背も高く、目鼻立ちもすっきりとしている。まるで裏表の無い、人の良さそうな雰囲気だった。
「お前は容赦無くやるだろうが。駄目だ駄目だ」
土方は眉を顰めると、シッシッと手で払う。
「ええー!良いじゃないですか。ねッ、そこの君。私とやりましょうよ」
屈託の無い笑みの奥に、静かに燃え上がる炎のようなものがあった。本当に剣術を愛するものの
「……記憶がないので」
その返答に、土方は小さく舌を打つ。たったそれだけの行為にも、桜花はビクビクとしていた。
「な、どうだろうか。給金は出せないが、島原よりかはマシだと思うぞ」
「で、でも」
桜花は戸惑いを露わにする。高杉が嫌悪していた相手の元に世話になるというのは、些か抵抗があった。
その様子を土方は苦虫を噛み潰したような表情で見やる。話しを聞く限りは無害だと分かるのに、どうにも胸がざわつくのだ。
──こいつは何かを隠していやがる。ただ、確証が無い。大体、記憶が無いとかほざく時点で怪しいことこの上無ェじゃねえか。犬猫のように気軽に拾えるモンじゃねえんだぞ。
もしも演技の上手い間者だったとしたら、隊の情報は筒抜けになる。その危険性を背負ってまで、欲しい相手なのか。
だが、近藤の言うことには一理あるし、しかも此方から声を掛けた相手だ。無碍には扱えない。そう思った土方はある事を提案することにした。
「待った。俺ァまだ此奴の腕前とやらを見てねえ。本当に役に立つのか、見させて貰いてえ」
「おお、それァ良い。どうだい、俺らに腕を見せてくれねえか」
近藤は大きな口を三日月のように上げる。厳つい顔だと思っていたのに、笑えばこのようにも優しげに見えるのかと、桜花は釣られて少しだけ微笑んだ。
豆やタコが無数に出来、皮が分厚くなっており、到底女とは思えぬそれを桜花は後ろへ隠す。
「隠すことは無ェだろう。流派は何処だ?」
土方の問いかけに、桜花は小さく首を横に振った。 そうと決まれば話しは早かった。土方は、部屋の前で待機していた斎藤へ声を掛けると、準備をさせに行く。
やがて近藤と土方の後に続いて狭い廊下を歩き、門を潜って外へ出た。ひやりとした風に乗って、甘く爽やかな香りが鼻腔をる。
その方を見遣れば、赤く色付いた梅の花が咲いていた。
おい、と土方に呼び掛けられ、桜花は慌ててその後を追う。
前川邸を出て西側にある家屋──八木邸の門を潜ると、https://johnn.animech.net/Entry/1/ https://johnn.anime-cosplay.com/Entry/1/ https://johnn.blog-mmo.com/Entry/1/ と離れ家の間に五十畳はくだらない大きな道場が現れた。そこからは活気のある勇ましい声が聞こえてくる。
「お、お邪魔します……」
文武堂と掲げられた道場へ入れば、まだ冬の寒さが残る頃だと言うのにたちまち熱気に包まれた。その空気に当てられるだけで、自然と腹の奥から言葉に表せない程の感情が湧き出てくる。
──ああ、楽しそう。どれだけ嫌な思いをしたとしても、私はやはり剣道が好きなんだ。
「局長、副長!」
二人の姿を認めるなり、稽古をしていた者たちは揃って手を休める。面を取りつつ寄ってきた。
「励んでいるところ、いきなり済まねえな。こいつの腕試しをしたいんだが、相手になってくれる奴はいるか」
土方の声に、僅かにどよめきが起こる。それもそのはずで、子どもか女にしか見えない桜花とまともにやり合えば、怪我をさせてしまうと考えたのだろう。ましてや、局長と副長に引き連れられてきた者に怪我など、と躊躇していた。
「……あれ、誰も居ないんですか?それなら私がお相手しますよ」
そこへ、春の風のように爽やかな声が道場の隅から上がる。面も付けずにスタスタと裸足で歩いてくると、無邪気な笑みを浮かべていた。
「総司」
「ね、近藤先生。良いでしょう?」
総司と言われた男は総髪で上背も高く、目鼻立ちもすっきりとしている。まるで裏表の無い、人の良さそうな雰囲気だった。
「お前は容赦無くやるだろうが。駄目だ駄目だ」
土方は眉を顰めると、シッシッと手で払う。
「ええー!良いじゃないですか。ねッ、そこの君。私とやりましょうよ」
屈託の無い笑みの奥に、静かに燃え上がる炎のようなものがあった。本当に剣術を愛するものの
「……記憶がないので」
その返答に、土方は小さく舌を打つ。たったそれだけの行為にも、桜花はビクビクとしていた。
「な、どうだろうか。給金は出せないが、島原よりかはマシだと思うぞ」
「で、でも」
桜花は戸惑いを露わにする。高杉が嫌悪していた相手の元に世話になるというのは、些か抵抗があった。
その様子を土方は苦虫を噛み潰したような表情で見やる。話しを聞く限りは無害だと分かるのに、どうにも胸がざわつくのだ。
──こいつは何かを隠していやがる。ただ、確証が無い。大体、記憶が無いとかほざく時点で怪しいことこの上無ェじゃねえか。犬猫のように気軽に拾えるモンじゃねえんだぞ。
もしも演技の上手い間者だったとしたら、隊の情報は筒抜けになる。その危険性を背負ってまで、欲しい相手なのか。
だが、近藤の言うことには一理あるし、しかも此方から声を掛けた相手だ。無碍には扱えない。そう思った土方はある事を提案することにした。
「待った。俺ァまだ此奴の腕前とやらを見てねえ。本当に役に立つのか、見させて貰いてえ」
「おお、それァ良い。どうだい、俺らに腕を見せてくれねえか」
近藤は大きな口を三日月のように上げる。厳つい顔だと思っていたのに、笑えばこのようにも優しげに見えるのかと、桜花は釣られて少しだけ微笑んだ。
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16:19
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