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Posted by んだ!ブログ運営事務局 at

2017年12月31日

"おはようございます」 いつもは誰もいないのに、今日はすでに先客がいたようだ。 「おはよう荒木戸さん。"

"おはようございます」
いつもは誰もいないのに、今日はすでに先客がいたようだ。
「おはよう荒木戸さん。早いね・・・・・」
そんなに驚かなくても、って言うくらいに目を見開く課長に
「課長こそお早いですね。いつもはあと30分くらいあとじゃなかったでしたか?」
あと15分もすれば、ここの部署にも何人か社員が入って来るけど、課長はたしかそれよりももっと後からの出勤だった気がする。
「それがさぁ、昨日会議が終わったのが8時くらいでさ。残ってた仕事を始めてたら、また不機嫌を起こしちゃったみたいでさ」
言いながら、わたしが昨日診察をしたパソコンちゃんの天辺を引っ叩く課長。
「まだそのままですか?」
よく見ると、そのご機嫌斜めのパソコンは隣りの席に置かれて、ご自分のデスクの上にはどこから持ってきたのか違うノートパソコンが置かれている。
「そう!んで悪いんだけど、荒木戸さんのパソコンを借りちゃった」
言われてよくよく見れば、わたしが支給されて使っているパソコンだ。
「ごめんね、勝手に」
顔の前で手を合わせて謝罪ポーズをとる課長に
「それは別に構いませんよ。でしたら、そのままお使いください。課長のパソコンをわたしが使いますから」
常に仕事が終わるときにバックアップは別で取ってあるから、わたしは違うパソコンでだって仕事はできる。
「いいの?助かるよ」
っはい!朝からご機嫌スマイル、頂戴いたしました。
わたしが働く会社は、生活雑貨を企画、製作、販売している。
所属は商品PR部。読んで字のごとく商品を紹介する部署。
もうすぐ、春の新生活シーズンに向けての新製品の商品説明会が有明にあるドーム型スタジアムで開催されるために、わたしがいる部署は大変忙しくしている。
あまりの忙しさで、課長のパソコンが悲鳴を上げたほどだ。
そのお陰で、役職組は毎日のように会議を開いていて、今日も課長がまだ戻っては来ていない様子。
昨日、もしかしたらご馳走になったかもしれないのに、お礼を言うこともしていないと言うことは、わたしの性には合わない。
「熊田さん。ちょっといいですか?」
堪らず、普段自分から話しかける事もない人に話しかけてしまった。
「な!なに?」
わたしが話しかけただけで挙動不審になられるほどに珍しい事のようだ。
「どうした?なんだ?」
わたしの前の熊田さんのお隣に座る松田さんも驚いてわたしを見ている。
「あ、いえ、なんてこともない事なのですが」
聞く相手を間違えたか?
「なになになになに?気になるわ!」
松田さんとは反対隣に座る城築さんまで参加しだした。
「なに?そっちが楽しそうなことになってるの?」
わたし達が座る6人でひと固まりの島の隣の島からも、首を伸ばして会話に参加しだした。
それ程に、わたしから話しかける事が珍しい事だったのかと、自分のことながら感心してしまった。いや、これが茉優にバレたら怒られる事か?
皆さん、仕事の手を休めてがっつりとわたしの方を向いている。
視線だけが向いている訳ではなく、体ごと向けて来ている。
佐藤さんと中島さんなんて、お隣の島からイスごとわたしの隣に移動して来てるし・・・・
「なにがどうしたって?」
佐藤さん達の行動を唖然として見ていると、前からせっつかれた。
「あ、ごめんなさい。どうでもいい事をお聞きしますが、昨日、福田課長はどういうネクタイだったか覚えていますか?」
熊田さんにそれを聞いてみようと思った理由は、ご実家が紳士服を売っていると言う話を以前聞いた事があったから。
そう言うことに関しては、ここでは一番適任かと思っただけだったんだけど
「っは?課長のネクタイ?・・・・・・・・・・ちょっと待って・・・・」
いきなり課長のネクタイ、しかも昨日のを聞いて来たわたしに戸惑いを見せたけど、そこはまず置いといて思い出そうとしてくれているようだ。
「なに?課長のネクタイがどうしたって?」
他の皆さんは、課長のネクタイを思い出す事をはなからあきらめているようで、なぜ聞いて来たのかを知りたいご様子。
「あのですね・・・・」
普段、自分の事をあまり話さないし、自分から何気ない話さえもしてこないわたしが話しかけた事が、驚きと同時に嬉しかったそうで、本当に何でもないような奢ってくれた""課長""を探しているだけだって言う話も真剣に聞いてくれた。
その後の会話が無くなったわたしを見て、苦笑いでそれぞれの仕事に戻って行くようだ。
やっぱり、昨日わたし達に奢ってくれたのは福田課長だったんだ。
昨日のうちにわかってれば、今朝会った時にお礼を言えたのに・・・・・
今朝の時点でお礼を言わないわたしの事を、不届き者と思ったかもしれない。
部長から頼まれた資料本とパンフレットづくりは、ちょっとやそっとじゃ終わらない位の量。
心してかからないと残業は確定的。
ましてや、そのほかの仕事も当然同時に進めて終わらせなければならない。
ともすれば、お喋りしている時間も勿体ない。
って言っても、みんなの仕事の手を止めたのはわたしなんだけどね・・・・
「あ、ちょっと資料室に行って来ます」
ある商品の説明文を打ち込もうとしたら、少し簡素な短い説明文しか書いていない。
これではお客様には伝わらないかもしれない、と加筆修正を加えておこうと思い資料室に向かった。
資料室は、数ある会議室の中で一番大きくて広い会議室がある15階の奥の方に位置する。
ここの階で役職組の会議をしているはずだからと、エレベーターではなく階段で上がることにした。
静かな空間にエレベーターの到着音って響くんだよね・・・・・
静かな空間なのかどうかは知らないけど。
どうせなら階段で昇った方が安心かもしれない。
15階に着いて、足音を立てないように扉の閉められた会議室を通り過ぎる。
ここの階は、外からのお客さんを招いての会議もするために、床の上にはグレーのカーペットが敷かれているからヒールの音は消されている。
それでも静々と奥の資料室に向かって行き、借りてきたカギで開けて中に入ると、普段、人の出入りが少ないからか埃っぽい。
窓を開けて空気を入れ替えたいけど、お隣にガタガタ聞こえると嫌だしな・・・・・
顔をしかめつつ、自社製品のデータが載った百科事典のような大きくて分厚い資料本の棚に行き、アイウエオ順で探し始めた。
順に見ながら少しずつ横に移動すると、
「あ!」
探していた本を見つけて、つい声を出してしまった。
ついでにニマって締まりのない顔をして、そんな自分を恥じた。
でも・・・・・ッム!
なんであんなに大きくて重たい本が棚の一番上に置いてあるのよ!
背の低いわたしだと、背伸びしたって指が掠るだけ。
たしか・・・・・
キョロキョロして踏み台を探すも、所定の場所にはないようだ。
っもう!最後に使った人は元に戻しておいてよね!
ここは自分だけしかいないと言う安心感から、普段は表に出さない素の感情をモロに表しちゃっている。
ひとりプンプン怒りながら踏み台を探そうと来た道を戻りかけたところで気がついた。
こちらを見て驚く顔をしている福田課長の姿が目の前にあった。
シマッタ!という顔と驚く顔は表に出さずに隠しながら
「どうされたのですか?まだ会議中では?」
そ知らぬ顔をして彼がここにいる理由を問いかけた。
「驚いたな。キミとは4年?5年?それくらいの付き合いだけど、ここの部屋に入って5分もしない短い時間で、見た事もないキミのいろんな顔を見れた・・・・・」
目の前に宇宙人が出て驚いているような感じで、ボソボソと言葉を落としている。
たしかに、入社して研修などをこなした後の6月から課長とずっと同じ部署で働いている。
最初の内は緊張で自分を曝け出す事が出来なかった。
慣れてきたころに、あの噂が出回ってあこがれていた先輩に拒絶されてしまい、その後は自分を曝け出す事をやめてしまった。
だから、課長が言っている事もまんざら大袈裟でもないわけだけど・・・・・
「し、失礼します」
戸惑いを感じつつも、やはり繕う顔を見せずに無表情で彼の横を通り抜けて部屋から出ようとしたけど
「本はいいのか?」
すり抜ける寸前で腕をつかまれて歩を止められてしまった。
「大丈夫です。元に戻ります」
居心地悪いこの状態で、彼が戻る気配もなしでは自分が部屋を出て行った方が無難だろうと思ったのに、掴まれた腕はなかなか放してもらえない。
それどころか、追いつめられてわたしの背には棚が当たっている。
タラ~っと冷汗が背中を伝って落ちて行く感覚が、なお更緊張感をマックスにさせているけど、自分で意識して表情を消す事はすでに曲芸の域まで達していることを自認しているわたしは
「課長。まだ仕事が残ってますので戻りたいのですが」
一層意識して感情を殺しまくった。
これは嘘じゃない。
たしかに部長に頼まれた仕事がたんまりと残っている。
ここで時間をロスしてしまっているから、今日のノルマが達成できずに残業は確定だろう。
「自社製品カタログを取りに来たって事は、部長に頼まれた資料本?」
背の高い彼が、背の低いわたしを見下ろしながら話し出し、次第に腰を落として目線を合わせて来る。
「はい。来週使う物ですので、出来れば今週中には目途をつけておきたいので戻ります」
扉側に立つ彼は、部屋から出ないように壁を作っている状態。
「なんで、自分を隠すの?」
わたしの話は丸無視の課長に苛立ちが湧いてくるけど、それも隠し
「隠してません。これが自分です。課長、会議の途中ではないのですか?」
壁を通して、隣からは話し合う声が聞こえて来ている。
「ああ、まだやってるよ。僕は電話がかかって来たから通路に出てきた」
そこでわたしがここに入るのを見て、彼も入って来たのか・・・・
それでも、長い時間退座していることもできないようでチラッとブランド物の腕時計を見ている。
課長職で、ましてや一番最年少の29歳(だったかな?)にしての課長では、役職組では当然一番の下っ端。
サボるわけにもいかないようで
「今日は残業だな?」
表情には出していないと言う自信はあるが、心でも読まれたのだろうか?
ずいぶんと自信満々と聞いてくる彼に無言で抵抗すると
「今日の会議は、昨日よりかは早く終わるはずだ。
残業でなくても、俺が終わるまで待っている事」
それは業務命令なのだろうか?
終業後の事まで指図されなくてはならないのか、そしてそれを容認しなくてはならないのだろうか?
「待つ待たないはお前が決めればいい。まあ、お前の事だから待ってるだろうけどな」
頬に手を当てられて、感情は出ていないようだけど引きつりつつあるのは自覚している。
「・・・・・っふ。どの商品のが欲しいんだ?」
意味ありげに笑ったあと、壁を作っていた体を棚から離して、先ほどのお目当ての棚の方に歩き出した。
固まったままでいるあたしに向かって
「ほら!取ってやるから、言ってみん!」
あぁ・・・・。
踏み台を探していたこともわかっていたのか・・・・・
「ホ行の本をお願いします」
取ってくれるのならありがたい。踏み台を探す手間が省けるし、何よりも早く課長から離れてこの部屋を出たい。
背伸びをしなくても手を上にあげただけですんなりと取れる課長の姿を見ると、自分が低身長なのが嫌になるし、この男の頭をハンマーでぶっ叩きたくなる。
カチャカチャ鳴る音は、わたしには心地よい音だったはず。
それなのに、今のわたしには不快に感じてしまう。
それもこれも、資料室から戻ったわたしに、
「アラーキー!待ってたよ!」
やめてと何度もお願いしてもやめる事をしない、佐藤さんが勝手につけたわたしの呼び名を叫ぶ声にゲンナリとした。
わたしよりも3つ年上(昨日誕生日だったらしい)の佐藤さんは、パソコンが若干・・・いや、かなり?苦手らしい。
エラーが発生すると、すぐにそれを放棄してしまう。
わたしがいなければ戻るまで待つことを優先させる。
結局は、今回の佐藤さんの注文の方に時間がかかってしまい、わたしが自分の仕事に戻ったのは退勤時間の30分前。
わたしに任せるだけだった佐藤さんは、使われていないパソコンを使"  


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2017年12月31日

"を問いかけた。 「驚いたな。キミとは4年?5年?それくらいの付き合いだけど、ここの部屋に入って5分も"

"を問いかけた。
「驚いたな。キミとは4年?5年?それくらいの付き合いだけど、ここの部屋に入って5分もしない短い時間で、見た事もないキミのいろんな顔を見れた・・・・・」
目の前に宇宙人が出て驚いているような感じで、ボソボソと言葉を落としている。
たしかに、入社して研修などをこなした後の6月から課長とずっと同じ部署で働いている。
最初の内は緊張で自分を曝け出す事が出来なかった。
慣れてきたころに、あの噂が出回ってあこがれていた先輩に拒絶されてしまい、その後は自分を曝け出す事をやめてしまった。
だから、課長が言っている事もまんざら大袈裟でもないわけだけど・・・・・
「し、失礼します」
戸惑いを感じつつも、やはり繕う顔を見せずに無表情で彼の横を通り抜けて部屋から出ようとしたけど
「本はいいのか?」
すり抜ける寸前で腕をつかまれて歩を止められてしまった。
「大丈夫です。元に戻ります」
居心地悪いこの状態で、彼が戻る気配もなしでは自分が部屋を出て行った方が無難だろうと思ったのに、掴まれた腕はなかなか放してもらえない。
それどころか、追いつめられてわたしの背には棚が当たっている。
タラ~っと冷汗が背中を伝って落ちて行く感覚が、なお更緊張感をマックスにさせているけど、自分で意識して表情を消す事はすでに曲芸の域まで達していることを自認しているわたしは
「課長。まだ仕事が残ってますので戻りたいのですが」
一層意識して感情を殺しまくった。
これは嘘じゃない。
たしかに部長に頼まれた仕事がたんまりと残っている。
ここで時間をロスしてしまっているから、今日のノルマが達成できずに残業は確定だろう。
「自社製品カタログを取りに来たって事は、部長に頼まれた資料本?」
背の高い彼が、背の低いわたしを見下ろしながら話し出し、次第に腰を落として目線を合わせて来る。
「はい。来週使う物ですので、出来れば今週中には目途をつけておきたいので戻ります」
扉側に立つ彼は、部屋から出ないように壁を作っている状態。
「なんで、自分を隠すの?」
わたしの話は丸無視の課長に苛立ちが湧いてくるけど、それも隠し
「隠してません。これが自分です。課長、会議の途中ではないのですか?」
壁を通して、隣からは話し合う声が聞こえて来ている。
「ああ、まだやってるよ。僕は電話がかかって来たから通路に出てきた」
そこでわたしがここに入るのを見て、彼も入って来たのか・・・・
それでも、長い時間退座していることもできないようでチラッとブランド物の腕時計を見ている。
課長職で、ましてや一番最年少の29歳(だったかな?)にしての課長では、役職組では当然一番の下っ端。
サボるわけにもいかないようで
「今日は残業だな?」
表情には出していないと言う自信はあるが、心でも読まれたのだろうか?
ずいぶんと自信満々と聞いてくる彼に無言で抵抗すると
「今日の会議は、昨日よりかは早く終わるはずだ。
残業でなくても、俺が終わるまで待っている事」
それは業務命令なのだろうか?
終業後の事まで指図されなくてはならないのか、そしてそれを容認しなくてはならないのだろうか?
「待つ待たないはお前が決めればいい。まあ、お前の事だから待ってるだろうけどな」
頬に手を当てられて、感情は出ていないようだけど引きつりつつあるのは自覚している。
「・・・・・っふ。どの商品のが欲しいんだ?」
意味ありげに笑ったあと、壁を作っていた体を棚から離して、先ほどのお目当ての棚の方に歩き出した。
固まったままでいるあたしに向かって
「ほら!取ってやるから、言ってみん!」
あぁ・・・・。
踏み台を探していたこともわかっていたのか・・・・・
「ホ行の本をお願いします」
取ってくれるのならありがたい。踏み台を探す手間が省けるし、何よりも早く課長から離れてこの部屋を出たい。
背伸びをしなくても手を上にあげただけですんなりと取れる課長の姿を見ると、自分が低身長なのが嫌になるし、この男の頭をハンマーでぶっ叩きたくなる。
カチャカチャ鳴る音は、わたしには心地よい音だったはず。
それなのに、今のわたしには不快に感じてしまう。
それもこれも、資料室から戻ったわたしに、
「アラーキー!待ってたよ!」
やめてと何度もお願いしてもやめる事をしない、佐藤さんが勝手につけたわたしの呼び名を叫ぶ声にゲンナリとした。
わたしよりも3つ年上(昨日誕生日だったらしい)の佐藤さんは、パソコンが若干・・・いや、かなり?苦手らしい。
エラーが発生すると、すぐにそれを放棄してしまう。
わたしがいなければ戻るまで待つことを優先させる。
結局は、今回の佐藤さんの注文の方に時間がかかってしまい、わたしが自分の仕事に戻ったのは退勤時間の30分前。
わたしに任せるだけだった佐藤さんは、使われていないパソコンを使って、さっさと自分の分の仕事を終わらせることに成功している。
わたし?
「っもう!」
だれもいなくなったフロアで、不機嫌さマックスで声にまで出して仕事をしているよ?
それも、課長の存在を頭から消え去らせるほどにね。
待ってろと言われた事も、会議が長引いているのも忘れてるね。
もう、全員が帰ったと思って、顔には皺が出来るほどに歪ませてキーボードを叩いてますもの。
「遅くなったから怒ってるのか?」
そんな言葉が聞こえて来るとは思ってもいないわたしは「っどぁ!」と謎の言葉を叫んで、思わずイスを後ろにおっ放うほどに驚いちゃってますが?
「なんだ?どぁって・・・」
一瞬、呆れたような顔をした後にすぐに笑い出した福田課長。
「驚かさないでください。もうだれもいないと思ってたのに・・・・」
うしろにすっ飛んで行って、ひっくり返ってしまったイスを元に戻しながら文句を言わせてもらえば
「なんだ、待ってたんじゃなかったのか?」
今度は眉尻を上げて少し不機嫌なお顔。
この人って、いろんな表情を惜しげもなく見せるのね。
油切れの所為か、キュイキュイと変な音をさせながらイスを引っ張って来て定位置に戻しながら座り
「まだ終わらなかっただけです。課長は終わられたんですか?思ったよりもかかってたようですね」
先ほどの課長の予想では、昨日よりも早く終わるだろうと言ってたけど、実際はさほど変わらない時間に終わったようだ。
「会議は終わったけどな」
あぁ、会議だけですか。
「お疲れ様です。わたしはもう少しかかりますので」
こうやって喋っていても、手と視線は仕事に戻っている。
人の事まで心配などしていられない。
「あとどれくらいだ?」
その場で聞けばいいものを、なぜか背中越しに手を伸ばしてマウスを操作する課長に
「課長。重いです」
若干、課長の体重もわたしの背中に乗せられている。
「俺は軽い方だ」
あんたの体重なんて興味はない。わたしに乗せている体を離せと言ってるまでだ!
「だいぶ終わってるじゃないか。残りは明日でも構わないな」
その言葉は、わたしに向かっての問いかけではなかったのですか?
勝手に操作させて保存させて終了させるのはやめていただきたかったですね。
阻止しないように、マウスを持つ反対の手でわたしの体を制御するのも一緒にやめて欲しかったです。
何気に抱きしめられているような錯覚に陥ってしまいますが・・・・・
パソコンの画面はシャットダウンされて光を放つことを終えて、変わりに課長の片腕で抱きしめられているわたし達の姿をぼんやりと映し出している。
片腕で抱かれている状態から、両腕で包み込まれるように抱かれる形に変わって来た時に
「課長?これはどういうことでしょう?」
抱かれている意味が解らない、と問いかけた。
「頭のいいお前ならわかるだろう?俺がお前を抱きしめている」
先ほどの資料室の途中辺りから言葉使いが変わっている。""僕""と自分の事を呼んでいたのが""俺""に、""キミ""か名字呼びだったわたしの事を""お前""と表現しだした。
他の同僚に見せる課長の姿は仮面をかぶった仮の姿か・・・・
わたしと対して変わらないな・・・・・
「なぜ、わたしは抱かれているのでしょう?」
そもそも、それを聞いてるんだよ!
「その答えは一つしかないだろう?」
抱きしめながら首の後ろに顔を埋めるのはやめていただきたい。
こしょばゆいでございます・・・・・
「はて?」
意味が解らずしょうじきにわからないと首をかしげる仕草を取りながら、埋められた課長の顔を振るい落とす作戦だったけど
「逃げるなよ・・・・・」
すぐにまた顔が近づいて来ただけではなく、今度はわたしの顔を押しやるように耳下の首筋に唇を当てられてしまった。
ぞわぁぁぁぁぁぁ・・・・・・
背中を走る悪寒に、溜まらず体が震えた。
「っふ、弱点はここか・・・・」
首筋が弱い事がバレてしまったようだ。
「あの。わたしは仕事が終わったらしいので帰りたいのですが」
終わらせるつもりはなかったけど、すでにパソコンの電源も落とされたのでは仕方がない。
「ああ、帰ろうか。どこで食べて行く?」
「っはい?食べて行く?」
なぜ、あなたと夕飯を共にすることになっている?
「どうせ、帰ったら食事はとるだろう?だったら食べて帰れば手間が省ける」
・・・・・うん、そうだな。
帰ってから支度をして食べ始めるのは9時半を過ぎるだろうし・・・・
「だろ?ほら、着替えておいで」
抱きしめていた腕をほどかれると、重いと文句を言いながらも暖められていた熱が飛んで行くような切ない気持ちになってしまった。
座っていたイスを引っ張り出して、脇の下に手を入れて立たされると
「ほら!俺に着替えさせられたいのか?」
言いながら制服のベストのボタンに手を伸ばす課長の手を止めて
「それには及びません。では着替えて参ります。が、わたしは帰ります」
もともと一緒に食事をするなんて、わたしはひと言も言っていない。
気を遣う上役との食事なんて、真っ平ごめんだ。
「はいはい。いいから着替えて来いよ」
立ち上がったままのわたしのお尻を叩くのはセクハラですよ?
訴えましょうか?
まあ、抱きしめられていた時点でセクハラでしたけど。
仕方なしに引き出しから小さいバッグを取り出して、更衣室の方に向かった。
・・・・・・・・・・・・
「いらっしゃぁ~い」
≪美咲≫と絞り染めされた暖簾をくぐり抜け、扉を開けて中に入ると和服姿の女将さんがニコリと笑ってこちらを振り向いた。
「あれ?青葉クン久しぶりね?」
課長の顔を見てそう呼ぶ女将さん。
青葉クン?だれ?
キョロキョロとわたし達の他にもだれかお客でも来たのかと探す素振りを見せれば
「お前は上司の名前ぐらい覚えておけよ!」
再び繋がれていた手をほどき、その手で頭を小突かれた。
「青葉クン?」
課長の顔を指さして確認すれば
「そうだ」
不機嫌さマックスの課長が頷いた。
クスクス笑ってこちらに近づいて来た女将さんが
「いらっしゃいませ。青葉クンの会社の方ですか?」
聞きながらあたし達が着ていたコートを受け取ってくれる。
「はい。荒木戸と申します」
背の低いわたしよりも、少しだけ高い目線の女将さんに答えると
「この店の女将の美咲です。この子は田舎が一緒でご近所に住んでいたのよ」
どうぞ、と促されてカウンターに腰掛けた。
週半ばというのに、結構なお客さんでそこしか空いていなかったから。
「お腹が空いてるんだ。適当に出してよ。お酒は、なになら飲める?」
美咲さんに向かって注文していた課長が、最後はわたしに聞いて来て
「じゃあ、とりあえずビール下さい」
仕事終わりと言えばビールが恋しいのはどの季節でも共通な事。
「じゃあ俺も。あ、ここトン汁が美味いよ。食べる?」
うん、食べたいかな?コクリと頷くと美咲さんが
「はい、ちょっと待っててね」
笑顔で受けてくれて、厨房の方に向かって行った。
「課長、東京の方じゃなかったんですね」
てっきりこの洗練されたイケメンさんは東京生まれなのかと思ってた。
「生まれは長野。高校からこっちに来ているから半々くらいだな」
16年間長野で暮らし、その後は東京で暮らしていると言うことか。
「俺の同級生のお兄さんと、美咲さんの息子さんが仲良しでさ、たまに遊んでもらったりしてた」
課長の子供時代なんて想像がつかないな・・・・
このイケメンが小さくなった姿だろうか?
「お前は?」
話の流れからか、わたしの事も聞いて来たようだけど
「わたしの事はいいですよ。面白い話もないですし、東京生まれの東京育ちですから」
話したいとも思っていないし、話したくないと思っているから軽く拒絶させてもらった。
拒絶した意図を汲んでくれたのか、それ以上の追及はやめてくれたようだ。
ビールが届いて乾杯して口に含むと、凝り固まっていた表情筋が緩んでしまいそうになる。
素を出すのを拒んで一気に半分以上を飲み干すと、呆れた顔でわたしを見る課長の目と合わさってしまった。
「もっとゆっくりと呑めよ。そう言えばお前と呑むことって滅多にないよな?」
会社の飲み会自体あまり積極的には参加しない。
早く家に帰って、だれもいない空間で自分を曝け出したいから。
「あまり強くないですから・・・・」
飲み会に不参加な理由は、酒が苦手と言うことにしてあった。
「強くない割には言い飲みっぷりだったけどな・・・・」
へへ、バレてら!
心の中でてへぺろをご披露して、このあとは少し控えて飲もうと自分を嗜めた。
だけど、次々とわたし達の前に出される美味しそうな料理に、我を忘れてしまいそうになる。
どこもこれも美味しくて、わたしの箸が止まらない。
「どう?お口に合う?」
他所のお客さん注文のお酒をお盆に載せて、通りすがりに聞いて来た美咲さんに
「超絶絶品です!」
思わず笑顔で応えてしまった。
「ふふ、ありがとうね」
少し驚いた顔を見せた美咲さんも笑顔でお酒を運んで行き
「そう言う顔をもっと見せればいいのに・・・・」
この人の存在をまたしても忘れていた自分に説教したくなる。
「なんの事でしょうか?」
緩んだ顔を元に戻してお酒を口にすると、隣からはため息が聞こえて来ちゃった。
制服のポケットに入れっぱなしだった自分のスマホが震えている。
ランチに持って行ったあと、引き出しにしまっておくのを忘れてた。
未だに部長、課長も交じったお喋りが続いている中、打ち込む手を止めてスマホを確かめると、
あれ?茉優からのラインだ・・・・
<ちょっと!福田課長と食事に行ったって、本当?????>
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っげ!」
どこかで見ていたのか?
いや、わたしは昨日は遅くまで残業だった。
茉優が残業をするとは思えないから、きっと、いつものどこかからの情報屋で仕入れたのだろう。
「荒木戸、なにかあった?」
隣に座る倉科君がこちらを向いて怪訝そうな顔をして見ている。
「なにが?」
歳ではふたつ上でも同期と言うことで、お互いフランクな付き合いにさせてもらっている。
「お前から妙な言葉が聞こえてきた。ってか、お前から私語が聞こえてきたこと自体俺がここに入って初めての事かもしれない」
非常に真面目な顔で言い放っているけど、それはオーバーだよ。
「なにもありませんよ。空耳ではないですか?」
さっきまでタメ口使ってたくせに、一歩引いてくれと願って敬語で答えてやれば
「なになになに?何か面白い事でもあったでしょう!」
佐藤さんに関してはその意図は伝わらずで、いつでもどこでもオモシロ楽しい事を探している、夢見る夢子さんの姿を露呈している。
「ちょ、ちょっと佐藤さん。わたしを押し倒さないでくださいよ!」
またしてもイスごと移動して来て、背中におぶさる様に抱き着かれた。
「はいはいはい!」
手をパンパンと叩きながらみんなの意識を集中させた中島さんが
「今夜のアラーキーの飲み会に参加する人。挙手して!」
勝手に一緒に飲むことを決めて、さらに参加者を集っている中島さんに向かって一斉に手を上げる部署のみんな。
「1,2,3,4,5,6,7・・・・・部長と課長は?」
役職にまで声をかけないでください。
「俺も行こうかな?しばらく残業続きで飲んでないしな」
お顔をルンルンとさせて応える部長に対して
「俺はどうかな?仕事が終われば参加できるけどな・・・・・」
残念そうに言わないでください。ってか、今夜はあなたは来ない方が身のためだと思います。
「じゃあ課長は不参加と言うことで」
勝手に課長の不参加を決めてやったあたしを、ムッとした顔で睨む課長に気がつかないフリしてそっぽ向いてやった。
仕方がない。
ここの人たちは、一度決めた事を滅多な事では覆さない事は嫌でも承知済みだ。
茉優にラインで知らせて謝っておくか・・・・
「佐藤さん、ちょっと相手に今夜の事を知らせて来るので退いていただけますか?」
いい加減離れてくださいよ!
「えー!アラーキーにくっついていると暖かかったのに~」
あたしは歩く暖房器具ですか?
「早く帰って来てね」
「早くには帰ってきますが、もうくっつくのは控えてくださいね」
あなたをおぶったままではキーボードが叩けませんから。
っち!と舌打ちされたけど、無視してついでにコーヒーブレイクを取らせてもらおうと小銭入れもベストのポケットに入れて席を立った。
「ねえ、もしかして・・・・・・」
前を意気揚々と歩く茉優の後を付いて歩くわたし達総勢8人。
何処に連れて行かれるのか知らないみんなは、楽しそうにお喋りしながらついて行くが
何処を目指しているのかがわかってしまったわたしは、狼狽えだしてしまう。
「ここでーす!」
会社から出て、ひと駅分歩いてたどり着いたところは大通りから一つ二つと脇に入ったお店。
しかも地下にあるから余計に初めて来る人には見つけにくいところ。
最初、茉優と約束していたお店では、大人数になってしまった為に予約の電話の時点で断られてしまった。
それでは仕方がないと、わたしはお流れの方向に持って行こうとしたのに、茉優が気を利かせたのかいらぬことをしたと言うのか、行きつけのお店を予約してしまった。
っが、
ここのお店はわたしは少し入りにくいお店で・・・・・・
「へぇ~、こんな所にあるんだ!隠れ家みたいだね!」
佐藤さんが夜なのに目がキラキラして地下への階段を下りると
「何か楽しそうなお店!」
他の皆さんも後に続けとばかりにちゃっちゃか下って行ってしまった。
となれば、ひとりで外にいる訳にも行かないから、わたしも後に続いたわけだけど・・・・
やはりあの時に帰れば良かったと思った時には、すでに遅かった。
なんだ、取り越し苦労か・・・・
ホッとしてわたしも最後を歩いてついて行こうとすると、ガシっと腕をつかまれて歩を止められた。
っひ!
掴まれた腕を見なくてもわかる、存在感・・・・・いや、威圧感?
「よぉ!待ってたぞ」
低いテノールボイスが、振り向けずにいるわたしの真上から降って来る。
そ~っと、見ていけません!と言われても、好奇心が勝って見てしまうような感情で振り向けば
わたしと目が合った瞬間、舌なめずりでニヤリと笑う男がいる。
「・・・・・・・・・・・・いたんですか?」
いないと思ってたオーナーが現れたショックで、心臓がバクバクと波打っている。
「いますよ?ここは僕が経営するバーですからね」
ニコニコと笑ってはいるけど、それは偽の笑顔だと言うことは誰にも気がつかれないだろう。
それ程"
  


Posted by energyelaine at 02:08Comments(0)
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