2024年05月10日
入江は掴んでいた腕を乱雑に投げ捨てた
入江は掴んでいた腕を乱雑に投げ捨てた。それから空いた手は胸ぐらを掴みにいった。気遣いなんか無用だと判断した。
「寄り添おうとする松子の気持ちを無下にしちょるんやぞ。あんたの勝手に精一杯応えようとしよるのに。」
「違う……。私達夫婦が夫婦としてある為には必要な事だ。
だが口数が少な過ぎた事は謝る。明日は今日より喋る。」
「ちゃんと松子の目も見ちゃり。口数減らすだけやなくて顔すら見とらんやろが。
それとも何?松子とは見つめ合えんが私とは見つめ合えるって言うのは……つまりそう言う事?」
目の前の入江がにやりと笑い桂は危険を察知した。入江は胸ぐらを掴んだままぐいぐい間合いを詰めようとしてくる。
「馬鹿言うな!そんな訳あるか!」
入江の両手首を掴んで距離を取ろうと押し返す。
「照れんでもいいやないですか。一度口付けした仲やないですか。」 https://paul.3rin.net/Entry/5/ https://johnn.animech.net/Entry/5/ https://johnn.anime-cosplay.com/Entry/5/
「あれは事故だ!いや事件だ!襲撃事件だっ!」
「あら,強引なのはお好みやなかったんですね。じゃあ襲う側がいいですか?」
こうなると完全に入江の悪巧みにどっぷり嵌ってしまう。入江は距離を詰めるのをやめて体の力も抜いてふらっと後ろに体重を預けた。
「げっ!」
桂は背中から倒れ込む入江に引っ張られ,押し倒す体勢になってしまった。
いくら入江が受け身を取っても男二人が倒れ込めば派手な音がする。
「何事ですか!?」
その音に三津は慌てて戸を開き,入江を押し倒す桂を見て戸を閉めた。閉じられた戸の向こう側からは“お邪魔しました”と声が聞こえた。
「違う!松子誤解だっ!」
桂は慌てて体を起こして部屋の中へ駆け込んだ。その必死さに入江は腹を抱えて廊下を転げた。一応他の客も居る。迷惑にならないように笑い声は上げなかった。
「松子話を聞いてくれ!」
「それ完全に浮気男が言う台詞ですね。」
「浮気なんかしてないっ!あれは男だぞ!?あり得ん!!私は松子一筋だ!!」
頼む信じてくれと三津の両肩を掴んで顔を寄せた。間近で見る眼力は相変わらずだなと思いながら三津は落ち着きましょ?と桂を宥めた。
「松子一筋なんはみんな知っちょる。本当に落ち着いて?」
入江は笑いで滲んだ涙を拭いながら部屋の中に戻った。
「小太郎さん何したの?あんまり主人いじめないで?」
「すまん,でも手押し相撲で力任せに押してきたら一旦退くのが普通やろ?やけん力抜いたらこの人が倒れてきたそっちゃ。」
「こんな時刻に宿の廊下で手押し相撲が普通じゃない。」
ずっと喉を鳴らして笑う入江に三津は真顔で返した。宿を追い出されるような事はしてくれるなよと。
「さぁて私も体拭いて来よっと。その間に傷心の旦那慰めちゃり。」
にやにや笑う入江は荷物から手拭いを取り出して,三津の頭の上で手をぽんぽんと二度弾ませてから部屋を出た。
『ホンマに小太郎さんの本心も未だに読めんわ……。』
私もまだまだ振り回されてるなと三津は小さく息を吐いた。
そして桂に目をやると分かりやすく動揺していた。
「ホンマに何してたんです?」
「何もしてない……。今日の私の態度を諌められただけで……。」
「それで取っ組み合いの喧嘩にでもなりかけたんですか?」
それなら納得いくなと三津は腑に落ちた顔をした。こちらに心配かけまいと入江がいつものように戯けて誤魔化したんだと思えば納得できる。
桂からしても三津がそれでこれ以上掘り下げないでくれるならそう言う事にしておきたい。全力で頷いてそう言う事にした。
『あとはわざと準一郎さんを動揺させて私との仲を取り持とうとしたんやろな。』
あからさまに避けられた自分を不憫に思ったのかもと考えた。
『小太郎さん優しいからなぁ……。』
三津はさっき入江が手拭いを濡らしに行く前にかけてくれた言葉と,仕草を思い返して小さく溜息をついた。
“外に出とくけぇ着替えり”
初めて肌を合わせた翌朝,そう言って気遣ってくれたのを鮮明に思い出せて一気に顔は熱を帯びた。
急に顔を赤らめたのを不思議に思った桂はその頬に手を伸ばした。
「寄り添おうとする松子の気持ちを無下にしちょるんやぞ。あんたの勝手に精一杯応えようとしよるのに。」
「違う……。私達夫婦が夫婦としてある為には必要な事だ。
だが口数が少な過ぎた事は謝る。明日は今日より喋る。」
「ちゃんと松子の目も見ちゃり。口数減らすだけやなくて顔すら見とらんやろが。
それとも何?松子とは見つめ合えんが私とは見つめ合えるって言うのは……つまりそう言う事?」
目の前の入江がにやりと笑い桂は危険を察知した。入江は胸ぐらを掴んだままぐいぐい間合いを詰めようとしてくる。
「馬鹿言うな!そんな訳あるか!」
入江の両手首を掴んで距離を取ろうと押し返す。
「照れんでもいいやないですか。一度口付けした仲やないですか。」 https://paul.3rin.net/Entry/5/ https://johnn.animech.net/Entry/5/ https://johnn.anime-cosplay.com/Entry/5/
「あれは事故だ!いや事件だ!襲撃事件だっ!」
「あら,強引なのはお好みやなかったんですね。じゃあ襲う側がいいですか?」
こうなると完全に入江の悪巧みにどっぷり嵌ってしまう。入江は距離を詰めるのをやめて体の力も抜いてふらっと後ろに体重を預けた。
「げっ!」
桂は背中から倒れ込む入江に引っ張られ,押し倒す体勢になってしまった。
いくら入江が受け身を取っても男二人が倒れ込めば派手な音がする。
「何事ですか!?」
その音に三津は慌てて戸を開き,入江を押し倒す桂を見て戸を閉めた。閉じられた戸の向こう側からは“お邪魔しました”と声が聞こえた。
「違う!松子誤解だっ!」
桂は慌てて体を起こして部屋の中へ駆け込んだ。その必死さに入江は腹を抱えて廊下を転げた。一応他の客も居る。迷惑にならないように笑い声は上げなかった。
「松子話を聞いてくれ!」
「それ完全に浮気男が言う台詞ですね。」
「浮気なんかしてないっ!あれは男だぞ!?あり得ん!!私は松子一筋だ!!」
頼む信じてくれと三津の両肩を掴んで顔を寄せた。間近で見る眼力は相変わらずだなと思いながら三津は落ち着きましょ?と桂を宥めた。
「松子一筋なんはみんな知っちょる。本当に落ち着いて?」
入江は笑いで滲んだ涙を拭いながら部屋の中に戻った。
「小太郎さん何したの?あんまり主人いじめないで?」
「すまん,でも手押し相撲で力任せに押してきたら一旦退くのが普通やろ?やけん力抜いたらこの人が倒れてきたそっちゃ。」
「こんな時刻に宿の廊下で手押し相撲が普通じゃない。」
ずっと喉を鳴らして笑う入江に三津は真顔で返した。宿を追い出されるような事はしてくれるなよと。
「さぁて私も体拭いて来よっと。その間に傷心の旦那慰めちゃり。」
にやにや笑う入江は荷物から手拭いを取り出して,三津の頭の上で手をぽんぽんと二度弾ませてから部屋を出た。
『ホンマに小太郎さんの本心も未だに読めんわ……。』
私もまだまだ振り回されてるなと三津は小さく息を吐いた。
そして桂に目をやると分かりやすく動揺していた。
「ホンマに何してたんです?」
「何もしてない……。今日の私の態度を諌められただけで……。」
「それで取っ組み合いの喧嘩にでもなりかけたんですか?」
それなら納得いくなと三津は腑に落ちた顔をした。こちらに心配かけまいと入江がいつものように戯けて誤魔化したんだと思えば納得できる。
桂からしても三津がそれでこれ以上掘り下げないでくれるならそう言う事にしておきたい。全力で頷いてそう言う事にした。
『あとはわざと準一郎さんを動揺させて私との仲を取り持とうとしたんやろな。』
あからさまに避けられた自分を不憫に思ったのかもと考えた。
『小太郎さん優しいからなぁ……。』
三津はさっき入江が手拭いを濡らしに行く前にかけてくれた言葉と,仕草を思い返して小さく溜息をついた。
“外に出とくけぇ着替えり”
初めて肌を合わせた翌朝,そう言って気遣ってくれたのを鮮明に思い出せて一気に顔は熱を帯びた。
急に顔を赤らめたのを不思議に思った桂はその頬に手を伸ばした。
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2024年05月10日
三津に冷ややかな目で見られた桂はま
三津に冷ややかな目で見られた桂はまた泣きそうになった。
「すまない,もう寝ようか。また延々同じ事を話しそうだ。」
桂はぎこちない笑顔でおやすみと告げて目を閉じた。
『明日からは余計な事を言わんように口数減らすか……。
小太郎は松子が歩み寄ってると言ってくれたが,もう松子は小太郎に全てを任せてしまおう……。
きっとその方が上手くいく。』
追いかけても駄目,待っていても何も変わらない。ならば一度身を引いてしまった方がいいのかも知れない。
「明日も順調に歩けるといいですね。おやすみなさい。」
三津の声と共に頬に柔らかい感触があった。
『今私は頬に口付けされたのか?松子との距離を考えようと思っていた所で!?
目を開けたいっ!どう言うつもりか聞きたいっ!期待してしまうぞっ!!』
目を閉じたまま一人で悶々としていたが,待てよとすぐに冷静になった。
『今までこれで散々失敗してきた。ここで調子に乗ってはいかん。https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/2782116.html http://carinacyrill.blogg.se/2024/may/entry.html https://carina.asukablog.net/Entry/6/
松子は気を遣ってしただけだ……。そうすれば私が立ち直ると思っただけで,小太郎に抱くような感情は私には一切ないんだ……。』
桂は自分で自分に言い聞かせ,今までの振る舞いを思い返した。
『また好きになってもらえるように努めるなど言ったが,好きな相手と引き裂いて勝手に婚姻を結ぶような男を好きになるなんて有り得んだろ……。
愛されたいだなんておこがましい……。
私の勝手で傷付けたんだ。この際,形だけの夫婦で充分過ぎるだろ……。』
桂は決めた。もう三津の心を取り戻そうとするのはやめる。
『こうやって触れ合うのも極力避けよう……。だから今だけ……。』
京に着くまでは長旅だ。その間に起こる事態には不可抗力も含まれる。それ以外は余計な動きも考えもしないと決めた。
あちらに着けば今まで以上に慌ただしい日々になると思う。その中でたまに顔を合わせるぐらいがちょうどいい。
『出逢った頃と同じ生活に戻るだけでいい。松子にとってあの距離が一番心地良かったはず。
前に言ってたもんな……。近くにいるより離れて互いを思い遣ってる方が上手くいくと……。』
今度こそ三津の幸せを考えるんだと心に誓った。
翌朝,朝餉を食べてまた歩き出した三人は静かな物だった。
「無駄な体力は使いたくない。口数も減らすが君達は気にせず後ろを付いてきてくれ。」
朝餉の後,桂がそう言った。二人は分かったと言うしかない。
三津は歩調に配慮しながらも黙々と歩く桂の背中を追いかけつつ,すっと入江の方へと近付いた。
「昨日何があったんです?」こそっと小声で話しかけた。
「んー。私が思っちょる事を正直に話しただけ。」
「うん,それは分かってる。その内容が問題。」
三津がそこを詳しく聞こうとした所で桂の足がぴたりと止まった。三津は慌てて入江を距離を取り,桂と入江の中間ぐらいの位置で止まった。
「すまん,用を足してくる。」
それだけ告げて雑木林に姿を消した。姿が見えなくなってから三津はまた入江の傍に寄った。
「で?話の内容とは?勝手に人の何を幸せと議論したの?」
「えー議論っていうか,ちょっとキツめに私の本心を伝えたそ。
それで分かりやすく落ち込んでしょぼしょぼの木戸さんを,松子が可愛いと思って仲睦まじく過ごせばいいかと思ったんやけど。
逆に二人は何があったそ?」
『明確な意図があって強めに言った訳ね……。』
確かに入江の思惑通り気落ちした桂は弱々しくて包んであげたくはなったが,向こうがそこまで素直に甘えて来なかった。
「何もなかったと言うか,同じ話を延々繰り返しそうやからってあっちがすぐ寝ました。で,起きたらあれです。」
「すまない,もう寝ようか。また延々同じ事を話しそうだ。」
桂はぎこちない笑顔でおやすみと告げて目を閉じた。
『明日からは余計な事を言わんように口数減らすか……。
小太郎は松子が歩み寄ってると言ってくれたが,もう松子は小太郎に全てを任せてしまおう……。
きっとその方が上手くいく。』
追いかけても駄目,待っていても何も変わらない。ならば一度身を引いてしまった方がいいのかも知れない。
「明日も順調に歩けるといいですね。おやすみなさい。」
三津の声と共に頬に柔らかい感触があった。
『今私は頬に口付けされたのか?松子との距離を考えようと思っていた所で!?
目を開けたいっ!どう言うつもりか聞きたいっ!期待してしまうぞっ!!』
目を閉じたまま一人で悶々としていたが,待てよとすぐに冷静になった。
『今までこれで散々失敗してきた。ここで調子に乗ってはいかん。https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/2782116.html http://carinacyrill.blogg.se/2024/may/entry.html https://carina.asukablog.net/Entry/6/
松子は気を遣ってしただけだ……。そうすれば私が立ち直ると思っただけで,小太郎に抱くような感情は私には一切ないんだ……。』
桂は自分で自分に言い聞かせ,今までの振る舞いを思い返した。
『また好きになってもらえるように努めるなど言ったが,好きな相手と引き裂いて勝手に婚姻を結ぶような男を好きになるなんて有り得んだろ……。
愛されたいだなんておこがましい……。
私の勝手で傷付けたんだ。この際,形だけの夫婦で充分過ぎるだろ……。』
桂は決めた。もう三津の心を取り戻そうとするのはやめる。
『こうやって触れ合うのも極力避けよう……。だから今だけ……。』
京に着くまでは長旅だ。その間に起こる事態には不可抗力も含まれる。それ以外は余計な動きも考えもしないと決めた。
あちらに着けば今まで以上に慌ただしい日々になると思う。その中でたまに顔を合わせるぐらいがちょうどいい。
『出逢った頃と同じ生活に戻るだけでいい。松子にとってあの距離が一番心地良かったはず。
前に言ってたもんな……。近くにいるより離れて互いを思い遣ってる方が上手くいくと……。』
今度こそ三津の幸せを考えるんだと心に誓った。
翌朝,朝餉を食べてまた歩き出した三人は静かな物だった。
「無駄な体力は使いたくない。口数も減らすが君達は気にせず後ろを付いてきてくれ。」
朝餉の後,桂がそう言った。二人は分かったと言うしかない。
三津は歩調に配慮しながらも黙々と歩く桂の背中を追いかけつつ,すっと入江の方へと近付いた。
「昨日何があったんです?」こそっと小声で話しかけた。
「んー。私が思っちょる事を正直に話しただけ。」
「うん,それは分かってる。その内容が問題。」
三津がそこを詳しく聞こうとした所で桂の足がぴたりと止まった。三津は慌てて入江を距離を取り,桂と入江の中間ぐらいの位置で止まった。
「すまん,用を足してくる。」
それだけ告げて雑木林に姿を消した。姿が見えなくなってから三津はまた入江の傍に寄った。
「で?話の内容とは?勝手に人の何を幸せと議論したの?」
「えー議論っていうか,ちょっとキツめに私の本心を伝えたそ。
それで分かりやすく落ち込んでしょぼしょぼの木戸さんを,松子が可愛いと思って仲睦まじく過ごせばいいかと思ったんやけど。
逆に二人は何があったそ?」
『明確な意図があって強めに言った訳ね……。』
確かに入江の思惑通り気落ちした桂は弱々しくて包んであげたくはなったが,向こうがそこまで素直に甘えて来なかった。
「何もなかったと言うか,同じ話を延々繰り返しそうやからってあっちがすぐ寝ました。で,起きたらあれです。」
Posted by energyelaine at
03:11
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