2024年10月08日

「……父上様…」

「……父上様…」

濃姫はそっと目の前の短刀を手に取ると、炎の揺らめきを受けて輝く二頭立波の紋をまじまじと眺めた。


いや、違う。

今のは父の言葉ではない。

父の声を借りた、自分自身の言葉なのだ。

立ち上がれと。

このままで良い訳がないだろうと、心が叫んでいるのだ。


『 私が夢で見ていた光景は、いつもここまでであった── 』

『 ならば、この先は私が決める── 』


濃姫は決意的な目で、キッと目前の炎を睨み付けると、素早く辺りを見回した。https://ameblo.jp/johnsmith786/entry-12869054434.html https://www.liveinternet.ru/users/johnsmith786/post507679200/ https://www.bloglovin.com/@johnsmith4486/12917726

するとその双眼に、室内の隅に置かれている古びたが映った。

濃姫は慌てて立ち上がると、長持の前に駆け寄り、その上蓋を急いで外しにかかった。

長持の蓋を自分の正面に立て、軽く持ち上げるようにして掴むと、濃姫は大きく深呼吸をした。


『 もはや上様と共に朽ち果てる覚悟。何も怖くなどない── 』


濃姫は目を伏せ、またすぐに見開くと、自分と信長をてる炎の中へ一気に飛び込んだのである。

「 ! 」

蓋をにして、勢いよく炎をすり抜けて来た妻の姿に、信長は驚きを通り越して唖然となった。

炎を抜けた濃姫は、ガタンッー!!と大きな音を立てて、長持の蓋と共に信長の足元に倒れた。

濃姫がっている寝衣の袖や裾に火が燃え移っており

「お濃…!!何をしておるこの愚か者が!!」

信長は怒鳴りながらも、素早く手ではたいて衣の火を消してやった。

どうせ身をがすことになるのに、と濃姫が笑って言うと

「笑い事ではないぞッ、そなた、自分が何をしたか分かっておるのか!!」

信長は本気で怒鳴り付けた。
「申し訳…ございませぬ」

濃姫はゆっくりと蓋の上から起き上がると、それを端にずらし、信長の足元で双の手をつかえた。

「…やはり私には、上様を一人置いて、逃げるような真似は出来ませなんだ。最期の時は、上様と共に迎えとうございます」

「何を言うておるのだ! よいか、光秀は女子供には手出しはせぬ。それが己のであるそなたならば尚更じゃ」

生きられる道があるのに、何故それをにするのかと、信長はしげに叫んだ。

「光秀様に助けて頂こうなどとは、微塵も考えておりませぬ。今の私の望みは、上様と共にこの世から散ることのみにございます」

「馬鹿を申すな! …儂はな、…儂はそなたに、生きていて欲しいのだ!」

信長は床に片膝を付いて、平伏の姿勢を取る濃姫と目を見合わせた。

「分からぬのか!? 儂はそなたと共に死ぬことなど望んでおらぬ! ……ろ生き永らえて、

儂が目にすることの叶わなんだ、この先の世をそなたに見届けてもらいたい。織田家の行く末を、そなたに見届けてもらいたいのだ!」

思いがけない信長の本音であった。

「儂はこの世で悪行の限りを尽くした。地獄行きは免れぬ。そなたと共に死しても、あの世で再び出会うことは出来ぬのだぞ!?」

「…上様…」

「胡蝶のこともある。あの子には、まだまだ母であるそなたの支えが必要じゃ。我らの娘の為にも、ここで命を粗末にしてはならぬ」

「……」

「良いな、お濃。そなたは死んではならぬ」

慈愛に満ちた信長の瞳が、憂い顔の濃姫を真っ直ぐに見据えた。
夫からの愛情が痛いほどに伝わり、濃姫は既に赤くなっている目の縁に、じわりと涙を浮かべた。

そうしている内に、らでは、更に勢いを増して炎が上へ上へと燃え広がってゆく。

既に中間の部屋は火の海と化し、唯一の出口がある最初の部屋へと火の手が伸び始めていた。



Posted by energyelaine at 17:12│Comments(0)
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