2024年09月30日
「ええ。ですから困ったものなのです
「ええ。ですから困ったものなのです。表では魔王と言われ、民からも臣下からも恐れられているお方が、
ご自分でお決めになった娘の許嫁に対して、ああもから様に嫉妬心をお現しになるのですからね」
ほんに扱いの難しいお人じゃと、濃姫は小さく笑った。
「されど父上様の機嫌をねたままでは、蘭丸への風当たりも強ようなってしまいましょう。
出来るだけ父上様への心配りも忘れぬよう、胡蝶によくよく言い聞かせておきまする」
「お願い致しますよ」
「はい──」
それから四半刻ほどが経った頃。
座敷にあった信忠の姿は、胡蝶の部屋へと続く、あの長い隠し通路に移っていた。
薄暗い廊下を、信忠は齋の局の案内によって、奥へ奥へと進んでゆく。
やがて、鉄の戸を抜け、厚いの幕をると
「───兄上様!」
前庭から射す明るいしと共に、胡蝶の可憐な声が信忠を迎えた。
信忠の視線の先には、部屋の居間から急いで出て来たらしき胡蝶が、
松葉杖で半身を支えながら、興奮気味に息づいている姿があった。
「──胡蝶!」
信忠は笑顔満面になり、すぐさま妹の側に駆け寄った。
「兄上様。いらっしゃると聞いて、お待ち申し上げておりました」 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/08/03/205234?_gl=1*9r78mi*_gcl_au*MTY2OTkwNTc4OC4xNzE4OTcyMTIz https://ameblo.jp/freelance12/entry-12862505996.html https://debsy.e-monsite.com/blog/--7.html
「久しいのう胡蝶。 …左様なであるのに、わざわざ迎えに出てくれたのか?」
「部屋の御鈴が鳴ったのを聞き、居ても立ってもいられずに」
「ははは、そうか。そなたに会えて、も実に嬉しいぞ」
信忠はそう言って、胡蝶のに手を当てがうと
「母上様が申していた通りじゃ。以前 うた時よりもずっと美しく、らしゅうなったな」
と深げに言った。
胡蝶は照れたように、くすっと微笑む。
「自分ではそうは思いませぬが──もしもそうであるならば、全て蘭丸様のお陰にございます」
「そうか…、やはり蘭丸か」
「え?」
「いいや、何でもない」
信忠が笑ってかぶりを振ると、侍女のお菜津が進み出て
「ささ、信忠様、どうぞ中へ。今 お茶をお入れ致します故」
「ればそう致そう。 ──齋、悪いがしの間、仏間の扉の番を頼むぞ」
「お任せ下さいませ」
齋の局がると、信忠は胡蝶と笑みを交わしながら、静かに部屋の中へと入っていった。
「──兄上様、どうぞご着座下さいませ」
「──うむ」
胡蝶は居間の上座に信忠を座らせると、実に慣れた手つきで松葉杖をっている刺繍と信忠の前に腰を下ろした。
「兄上様。ほんには、ようこちらまでお越し下さいました」
胡蝶は改めて礼を述べると
「また、武田氏との戦を見事にやり仰せ、総大将として、また織田家の御当主として、
実にご立派なお働きをあそばされました事、妹として、大変 らしい限りにございます」
嬉しそうに此度の武勇をえた。
「大袈裟よのう。儂は大したことはしておらぬ」
がちに首を振ると
「ろ、褒められるべきなのは、そなたの方ではないか」
「私が?」
「聞いたぞ。何でも蘭丸の為に、一人で馬揃えの折の衣装をうたそうではないか」
「まぁ。そのお話にございますか」
「利き手だけで、実に大したものじゃ」
信忠は感心したように頷いた。
「日頃 お世話になっている蘭丸様に恩返しがしたく、様に教わりながら、
見よう見まねで縫うただけにございます。とてもではありませぬが、褒めていただけるようなでは…」
胡蝶が気恥ずかしそうにくと
「まあ、何をいまする姫様。蘭丸殿も “ 実に見事 ” じゃと言うて、喜んで下されていたではありませぬか」
お菜津が、運んで来た茶を信忠の前に差し出しながら言った。
「それだけではございませぬ。姫様はあれから、裁縫の腕がめきめきと上がられて、
今では、ご自身のお召し物を仕立てられる程なのでございますよ」
「何と…、それはまことか?」
ご自分でお決めになった娘の許嫁に対して、ああもから様に嫉妬心をお現しになるのですからね」
ほんに扱いの難しいお人じゃと、濃姫は小さく笑った。
「されど父上様の機嫌をねたままでは、蘭丸への風当たりも強ようなってしまいましょう。
出来るだけ父上様への心配りも忘れぬよう、胡蝶によくよく言い聞かせておきまする」
「お願い致しますよ」
「はい──」
それから四半刻ほどが経った頃。
座敷にあった信忠の姿は、胡蝶の部屋へと続く、あの長い隠し通路に移っていた。
薄暗い廊下を、信忠は齋の局の案内によって、奥へ奥へと進んでゆく。
やがて、鉄の戸を抜け、厚いの幕をると
「───兄上様!」
前庭から射す明るいしと共に、胡蝶の可憐な声が信忠を迎えた。
信忠の視線の先には、部屋の居間から急いで出て来たらしき胡蝶が、
松葉杖で半身を支えながら、興奮気味に息づいている姿があった。
「──胡蝶!」
信忠は笑顔満面になり、すぐさま妹の側に駆け寄った。
「兄上様。いらっしゃると聞いて、お待ち申し上げておりました」 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/08/03/205234?_gl=1*9r78mi*_gcl_au*MTY2OTkwNTc4OC4xNzE4OTcyMTIz https://ameblo.jp/freelance12/entry-12862505996.html https://debsy.e-monsite.com/blog/--7.html
「久しいのう胡蝶。 …左様なであるのに、わざわざ迎えに出てくれたのか?」
「部屋の御鈴が鳴ったのを聞き、居ても立ってもいられずに」
「ははは、そうか。そなたに会えて、も実に嬉しいぞ」
信忠はそう言って、胡蝶のに手を当てがうと
「母上様が申していた通りじゃ。以前 うた時よりもずっと美しく、らしゅうなったな」
と深げに言った。
胡蝶は照れたように、くすっと微笑む。
「自分ではそうは思いませぬが──もしもそうであるならば、全て蘭丸様のお陰にございます」
「そうか…、やはり蘭丸か」
「え?」
「いいや、何でもない」
信忠が笑ってかぶりを振ると、侍女のお菜津が進み出て
「ささ、信忠様、どうぞ中へ。今 お茶をお入れ致します故」
「ればそう致そう。 ──齋、悪いがしの間、仏間の扉の番を頼むぞ」
「お任せ下さいませ」
齋の局がると、信忠は胡蝶と笑みを交わしながら、静かに部屋の中へと入っていった。
「──兄上様、どうぞご着座下さいませ」
「──うむ」
胡蝶は居間の上座に信忠を座らせると、実に慣れた手つきで松葉杖をっている刺繍と信忠の前に腰を下ろした。
「兄上様。ほんには、ようこちらまでお越し下さいました」
胡蝶は改めて礼を述べると
「また、武田氏との戦を見事にやり仰せ、総大将として、また織田家の御当主として、
実にご立派なお働きをあそばされました事、妹として、大変 らしい限りにございます」
嬉しそうに此度の武勇をえた。
「大袈裟よのう。儂は大したことはしておらぬ」
がちに首を振ると
「ろ、褒められるべきなのは、そなたの方ではないか」
「私が?」
「聞いたぞ。何でも蘭丸の為に、一人で馬揃えの折の衣装をうたそうではないか」
「まぁ。そのお話にございますか」
「利き手だけで、実に大したものじゃ」
信忠は感心したように頷いた。
「日頃 お世話になっている蘭丸様に恩返しがしたく、様に教わりながら、
見よう見まねで縫うただけにございます。とてもではありませぬが、褒めていただけるようなでは…」
胡蝶が気恥ずかしそうにくと
「まあ、何をいまする姫様。蘭丸殿も “ 実に見事 ” じゃと言うて、喜んで下されていたではありませぬか」
お菜津が、運んで来た茶を信忠の前に差し出しながら言った。
「それだけではございませぬ。姫様はあれから、裁縫の腕がめきめきと上がられて、
今では、ご自身のお召し物を仕立てられる程なのでございますよ」
「何と…、それはまことか?」
Posted by energyelaine at 22:40│Comments(0)