2024年08月21日
「文武共に優れ、なかなか見込みのあ
「文武共に優れ、なかなか見込みのある男にございます」
「ほぅか、ほぅか。信長殿の眼鏡に叶うたんやな。 ──光秀殿。今後のそもじの働きが良ければ、織田家での大出世、夢ではないやも知れませんなぁ」
「…お、畏れ多いお言葉にございます」
軽快に笑う義昭に、光秀は慌てて平伏した。
義昭は冗談混じりに言ったが、光秀は翌年の永禄十二年(1569年)には丹羽長秀、木下秀吉、中川重政らと共に「京都奉行」に任ぜられ、
長秀のような古参の家臣と早くも肩を並べる役職を与えられるという、異例の出世を果たすことになるのである。
「…時に、義昭様に一つ、この信長からお許しいただきたき儀がございまする」
信長は目前の畳の上に両の拳をつかえると、ふいに真摯な口調で切り出した。
「何ですやろ?」
「将軍宣下の大礼が滞りなく済みましたら、一度 岐阜へ帰還致したいと思うているのです」
「何と、岐阜へ?」
「はい。お許し下さいますでしょうか?」https://www.evernote.com/shard/s719/sh/c70994de-e89c-6bb6-0f0d-21f682a032a3/Nd169FQam76k_0r-2U2_o8RZofdQsJrs_pz4Wz-YgGuPpbtGFf4ulpPOug https://addirectory.org/details.php?id=415063 https://aquarius-dir.com/%E3%80%90%E8%84%AB%E9%AB%AE%E6%94%B9%E5%96%84%E6%96%B9%E6%B3%95%E3%80%91%E6%9C%80%E6%96%B0%E6%8A%80%E8%A1%93ARTAS%E6%A4%8D%E9%AB%AE%E5%84%AA%E7%BC%BA%E9%BB%9E%E4%B8%80%E8%A6%BD%EF%BC%81-_438200.html
この申し出を聞き、義昭は思わず戸惑いの表情を浮かべた。
「……確かに、信長殿のおかげで刃向かう者共は一掃され、街も穏やかにはなったが、いつまた、謀反人共が襲いかかって来るかも分からぬし…」
「それはについてはご安堵下され。光秀を始め、近江・若狹などの国衆に命じて、厳重にご身辺の警護に当たらせます故」
「それは心強いことやが……。どないしても、戻ると言わしゃるのか?」
「はい。自国を留守にし続ける訳にも参りませぬし、それに、やらなければならぬことも色々とございます故」
「やらなければならぬこととは、何ですやろ?」
「……」
義昭は訊くが、信長はそれには答えず、ただにっこりと微笑んで
「義昭様──。先に控えし将軍宣下の大礼が滞りなくお済みになり、晴れて義昭様を様と申し奉る日を、信長、この細首を長ごうしてお待ち申し上げておりまする」
訝しげな面持ちの義昭の前で、に一礼を垂れるのであった。
同じ頃、岐阜城の奥御殿では
「大方様のお通りにございます!大方様のお通りにございます!」
金蒔絵の挟箱や、漆塗りの長持ちなどを担いだ女たちを従えた報春院が、
制止声の響く長廊下を、それは清々しい面持ちで闊歩していた。
『 ──やはり広き御殿の中は心地が良い。窮屈極まりなき寺の離れなどとは大違いじゃ 』
廊下の端々にひれ伏す腰元たちを見下ろしながら、報春院は昂然とその前を通り過ぎてゆく。
長らく身重であった濃姫の付き添いで、近江、次いで京へと滞在していた報春院であったが
信長が無事に上洛を果たすや否や、もはや己の役割は果たしたとばかりに、手早く荷物を纏めると、
僅かな兵たちに護られて、この日 数ヶ月ぶりに岐阜城へと戻って来たのである。
そんな報春院の背中を見送りながら、ひれ伏していた腰元たちは
「…ねぇ…どういうこと?」
「さぁ…。私にも分かりませぬ」
「確か不治の病を患われて、ご療養に出られたんじゃなかったかしら?」
皆々顔を上げて、怪訝そうに囁き合った。
「だったのでございましょう?」
「ええ。…けれど、何ともお元気そうで」
「とても死病を患っていたとは思えませぬ」
腰元たちが口々に言い合っていると
「これ!はしたない!」
「ほぅか、ほぅか。信長殿の眼鏡に叶うたんやな。 ──光秀殿。今後のそもじの働きが良ければ、織田家での大出世、夢ではないやも知れませんなぁ」
「…お、畏れ多いお言葉にございます」
軽快に笑う義昭に、光秀は慌てて平伏した。
義昭は冗談混じりに言ったが、光秀は翌年の永禄十二年(1569年)には丹羽長秀、木下秀吉、中川重政らと共に「京都奉行」に任ぜられ、
長秀のような古参の家臣と早くも肩を並べる役職を与えられるという、異例の出世を果たすことになるのである。
「…時に、義昭様に一つ、この信長からお許しいただきたき儀がございまする」
信長は目前の畳の上に両の拳をつかえると、ふいに真摯な口調で切り出した。
「何ですやろ?」
「将軍宣下の大礼が滞りなく済みましたら、一度 岐阜へ帰還致したいと思うているのです」
「何と、岐阜へ?」
「はい。お許し下さいますでしょうか?」https://www.evernote.com/shard/s719/sh/c70994de-e89c-6bb6-0f0d-21f682a032a3/Nd169FQam76k_0r-2U2_o8RZofdQsJrs_pz4Wz-YgGuPpbtGFf4ulpPOug https://addirectory.org/details.php?id=415063 https://aquarius-dir.com/%E3%80%90%E8%84%AB%E9%AB%AE%E6%94%B9%E5%96%84%E6%96%B9%E6%B3%95%E3%80%91%E6%9C%80%E6%96%B0%E6%8A%80%E8%A1%93ARTAS%E6%A4%8D%E9%AB%AE%E5%84%AA%E7%BC%BA%E9%BB%9E%E4%B8%80%E8%A6%BD%EF%BC%81-_438200.html
この申し出を聞き、義昭は思わず戸惑いの表情を浮かべた。
「……確かに、信長殿のおかげで刃向かう者共は一掃され、街も穏やかにはなったが、いつまた、謀反人共が襲いかかって来るかも分からぬし…」
「それはについてはご安堵下され。光秀を始め、近江・若狹などの国衆に命じて、厳重にご身辺の警護に当たらせます故」
「それは心強いことやが……。どないしても、戻ると言わしゃるのか?」
「はい。自国を留守にし続ける訳にも参りませぬし、それに、やらなければならぬことも色々とございます故」
「やらなければならぬこととは、何ですやろ?」
「……」
義昭は訊くが、信長はそれには答えず、ただにっこりと微笑んで
「義昭様──。先に控えし将軍宣下の大礼が滞りなくお済みになり、晴れて義昭様を様と申し奉る日を、信長、この細首を長ごうしてお待ち申し上げておりまする」
訝しげな面持ちの義昭の前で、に一礼を垂れるのであった。
同じ頃、岐阜城の奥御殿では
「大方様のお通りにございます!大方様のお通りにございます!」
金蒔絵の挟箱や、漆塗りの長持ちなどを担いだ女たちを従えた報春院が、
制止声の響く長廊下を、それは清々しい面持ちで闊歩していた。
『 ──やはり広き御殿の中は心地が良い。窮屈極まりなき寺の離れなどとは大違いじゃ 』
廊下の端々にひれ伏す腰元たちを見下ろしながら、報春院は昂然とその前を通り過ぎてゆく。
長らく身重であった濃姫の付き添いで、近江、次いで京へと滞在していた報春院であったが
信長が無事に上洛を果たすや否や、もはや己の役割は果たしたとばかりに、手早く荷物を纏めると、
僅かな兵たちに護られて、この日 数ヶ月ぶりに岐阜城へと戻って来たのである。
そんな報春院の背中を見送りながら、ひれ伏していた腰元たちは
「…ねぇ…どういうこと?」
「さぁ…。私にも分かりませぬ」
「確か不治の病を患われて、ご療養に出られたんじゃなかったかしら?」
皆々顔を上げて、怪訝そうに囁き合った。
「だったのでございましょう?」
「ええ。…けれど、何ともお元気そうで」
「とても死病を患っていたとは思えませぬ」
腰元たちが口々に言い合っていると
「これ!はしたない!」
Posted by energyelaine at 20:01│Comments(0)