2024年08月19日
類は濃姫の話を黙って聞いていたが
類は濃姫の話を黙って聞いていたが、どうも解せなかった。
信長の愛妾であるという点以外には、差ほど共通点もなさそうなお慈と自分を、
こうしてわざわざ引き合わせる濃姫の意図が、いまいち掴めなかったのである。
当惑顔の類を見て、濃姫は、その形の良い口元に微かな笑みを湛えると
「類殿。このお慈殿はのう、元は奇妙殿の乳母(めのと)を務めておられたお人なのですよ」
姫は穏やかに告げた。
類は「え…」となり、意外そうな目で、改めてお慈の面差しを眺めた。
お慈も恐縮して、今一度 類に頭を垂れている。
「まだ赤子であった奇妙殿を殿がお手元に引き取られてより後は、傅役殿と、そしてこのお慈殿が奇妙殿をお育て申されたのですよ」
「…そんな、育てたなどと。奇妙様のご成長は、ひとえに殿とお方様のご厚情の表れにございます」
お慈が言うと、濃姫は少女のように笑った。http://www.lacartes.com/business/-/1532937 https://freewebads.biz/389/posts/1/1/2111172.html
https://www.evernote.com/shard/s729/sh/051ebc2b-8266-1c8d-a181-811c823f86eb/Fa3xqj3XYEUTpOewSXFWBJy-umODbvxzV-g2HKAgYVnA2AtLWMG18Ow9xg
「お慈殿は見ての通りの御淑女であられてのう、ご愛妾方の中では取り分け信のおけるお方じゃ。 …なれどこう見えて、
勝ち気な一面もおありになってな。いざという時には私以上に行動的で、以前には美濃の間者のふりをして──」
「お、お方様、そのお話は…」
お慈が慌てて口を挟むと、姫もおっとなり
「これはしたり、余計な話をし過ぎましたな。本題に入りましょうか」
濃姫は居住まいを正し、改めて床の中の類を見据えた。
「本日は、類殿にお会いになっていただきたいお方がおりまする」
「 ? …なれど、既に…」
類は思わず眉をひそめ、お慈を一瞥する。
「どうやらお考え違いをなさっておられるようじゃのう。 私が類殿に会わせたいと申したのは、お慈殿のことではございませぬ」
濃姫は微笑(わら)って告げると「──お慈殿」と、背後に目配せをした。
お慈は一礼し、徐に部屋の出入口に進み
「どうぞ、お入り下さいませ」
襖を開きつつ、外の廊下に向かって呼びかけた。
すると、侍女二人を従えた、身の丈 四尺ほどの童(わらべ)が、何を遠慮することもなく、トコトコと室内に入って来た。
童をひと目見た瞬間、類はその病身を、跳び上がるかの如き勢いで床から起こした。
もはや濃姫の説明を仰ぐまでもなかった。
その童が誰なのかは、いやでも察しが付く。
目には見えずとも、母と子の絆があれば。
「…奇妙……。奇妙様にございますね…」
類は起こした上半身を、更に前へと傾ける。
「そうじゃ、類殿。奇妙殿じゃ。そなたの御子です」
濃姫が言うと、類はその黒い瞳にうっすらと嬉し涙を滲ませた。
「…やはり、そうなのですね…。奇妙様…」
「久しく会わぬ内に大きゅうなりましたでしょう? 数え八つになりまする。今はこの本丸に住まい、
殿のお跡目を継ぐその日に向けて、日々勉学に励んでおりまする。時には茶筅丸殿と、ご兄弟揃ってお手習いすることも」
「左様にございますか。兄弟揃って……、何と素晴らしきことにございましょう」
類は頬を涙で濡らしながら、何度となく頷いた。
「さ、奇妙殿。そなたのお母上様じゃ。今日の為に練習したご挨拶を、母上様にお見せして差し上げなされ」
濃姫が促すと、奇妙は頭を大きくひと振りし「はい!」と、元気の良い返事をした。
そのまま絹布団の側へと歩み寄った奇妙は、畳の上に腰を据え、両の手をつかえると
「おひさしゅう、おなつかしゅう存じたてまつります。織田家ちゃく男・奇妙丸にございます」
信長の愛妾であるという点以外には、差ほど共通点もなさそうなお慈と自分を、
こうしてわざわざ引き合わせる濃姫の意図が、いまいち掴めなかったのである。
当惑顔の類を見て、濃姫は、その形の良い口元に微かな笑みを湛えると
「類殿。このお慈殿はのう、元は奇妙殿の乳母(めのと)を務めておられたお人なのですよ」
姫は穏やかに告げた。
類は「え…」となり、意外そうな目で、改めてお慈の面差しを眺めた。
お慈も恐縮して、今一度 類に頭を垂れている。
「まだ赤子であった奇妙殿を殿がお手元に引き取られてより後は、傅役殿と、そしてこのお慈殿が奇妙殿をお育て申されたのですよ」
「…そんな、育てたなどと。奇妙様のご成長は、ひとえに殿とお方様のご厚情の表れにございます」
お慈が言うと、濃姫は少女のように笑った。http://www.lacartes.com/business/-/1532937 https://freewebads.biz/389/posts/1/1/2111172.html
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「お慈殿は見ての通りの御淑女であられてのう、ご愛妾方の中では取り分け信のおけるお方じゃ。 …なれどこう見えて、
勝ち気な一面もおありになってな。いざという時には私以上に行動的で、以前には美濃の間者のふりをして──」
「お、お方様、そのお話は…」
お慈が慌てて口を挟むと、姫もおっとなり
「これはしたり、余計な話をし過ぎましたな。本題に入りましょうか」
濃姫は居住まいを正し、改めて床の中の類を見据えた。
「本日は、類殿にお会いになっていただきたいお方がおりまする」
「 ? …なれど、既に…」
類は思わず眉をひそめ、お慈を一瞥する。
「どうやらお考え違いをなさっておられるようじゃのう。 私が類殿に会わせたいと申したのは、お慈殿のことではございませぬ」
濃姫は微笑(わら)って告げると「──お慈殿」と、背後に目配せをした。
お慈は一礼し、徐に部屋の出入口に進み
「どうぞ、お入り下さいませ」
襖を開きつつ、外の廊下に向かって呼びかけた。
すると、侍女二人を従えた、身の丈 四尺ほどの童(わらべ)が、何を遠慮することもなく、トコトコと室内に入って来た。
童をひと目見た瞬間、類はその病身を、跳び上がるかの如き勢いで床から起こした。
もはや濃姫の説明を仰ぐまでもなかった。
その童が誰なのかは、いやでも察しが付く。
目には見えずとも、母と子の絆があれば。
「…奇妙……。奇妙様にございますね…」
類は起こした上半身を、更に前へと傾ける。
「そうじゃ、類殿。奇妙殿じゃ。そなたの御子です」
濃姫が言うと、類はその黒い瞳にうっすらと嬉し涙を滲ませた。
「…やはり、そうなのですね…。奇妙様…」
「久しく会わぬ内に大きゅうなりましたでしょう? 数え八つになりまする。今はこの本丸に住まい、
殿のお跡目を継ぐその日に向けて、日々勉学に励んでおりまする。時には茶筅丸殿と、ご兄弟揃ってお手習いすることも」
「左様にございますか。兄弟揃って……、何と素晴らしきことにございましょう」
類は頬を涙で濡らしながら、何度となく頷いた。
「さ、奇妙殿。そなたのお母上様じゃ。今日の為に練習したご挨拶を、母上様にお見せして差し上げなされ」
濃姫が促すと、奇妙は頭を大きくひと振りし「はい!」と、元気の良い返事をした。
そのまま絹布団の側へと歩み寄った奇妙は、畳の上に腰を据え、両の手をつかえると
「おひさしゅう、おなつかしゅう存じたてまつります。織田家ちゃく男・奇妙丸にございます」
Posted by energyelaine at 18:42│Comments(0)