2024年08月03日
半ば言い銜(くぐ)めるような勢いで
半ば言い銜(くぐ)めるような勢いで、青白んだ表情の濃姫に告げた。
それを聞くなり
「お控え下さりませ! ご傷心の姫様に対して、それはあまりの仰せ──。いくら千代山様でも、無礼が過ぎまする」
三保野は我が事のように憤慨した。
しかし千代山の冷静さは毛筋程も揺るがない。
「確かに、臣下が主人に対して教えをたれるなど僭越至極の所業。それは重々心得ておりまする。
…されど、お方様を教え、導くべき存在である御姑の大方様は末森の城におわす上、今は信勝様の事でそれどころではない。
お付きの侍女方は、呆れた事に、お方様をご説得するどころか、お慰めするばかりで何とも不甲斐ない」
千代山の冷やかな視線が、チラと三保野の渋面に据えられる。https://mathewanderson.3rin.net/Entry/7/ https://mathewanderson.animech.net/Entry/6/ https://anderson.cosplay-navi.com/Entry/9/
「それ故に、無礼千万と思いながらも、奥の年長者である私があえて申し上げているのでございます」
「…それが、此度そなたがここへ赴いた本当の理由だったのですね」
濃姫が力なく訊くと、千代山は静かに一礼した。
「───しかしながら、いくら千代山様がそう仰せになられても、黙って殿の御意に従えなど、さすがに無理な話にございます!」
三保野は更に食ってかかる。
「類様の事にしても若君様の事にしても、どれも姫様にとっては傷心の種。納得出来る事など、ないも同然なのですから」
「ならば、お方様が納得の出来るようにご対処なさればよろしいのです」
千代山は重々しい口調で述べると
「若君様はともかくとしても、類様は身分も低く、未だ公の存在ではございませぬ。
もしもお方様が、類様をお目障りとお思い召すのならば……いっそ始末してしまえばよろしいのです」
怖めず臆せず、そう言い放った。
突然のことに濃姫も三保野も唖然となり、権高な表情を浮かべる千代山を戸惑いの眼で眺めた。
「類様は幸いにもこの清洲城内ではなく、外に、生駒の邸におられるのです。折を見て刺客を放つなり、
手の者を送り込んで類様の食膳に毒を盛らせるなり、始末する方法ならば幾らでもございまする」
「……千代山殿」
「武家においても公家においても、高貴な家柄に産まれた御子の中には、ご生母が産後に突然ご他界あそばされたり、
お家の事情によって、どこの誰だか身元を伏せられた生母不明の御子も少なくはないのでございます。
類様がここでお亡くなりになられても、その内のお一人となられるだけ──。上手く事を進めれば、後世に名を残す事のない存在と出来るやも知れませぬ」
「……な、なれど、私はそのような事…」
類を始末しようなどと、そんな大それた事は間違っても望んでいない。
それが本心であるものの、この時の濃姫には千代山の言葉をはっきりと否定する事が出来なかった
この先どう対処し、どう心の整理をつければ良いのか。
まるで答えの出せぬ今の姫には、それも選択肢の一つであると唆(そそのか)す、魔物の囁きのように聞こえたのである。
濃姫が狼狽えがちに目を泳がせていると
「無論、お方様のお気持ちは分かっておりまする」
千代山は、まるで今まで言った事を打ち消すような、明るい、穏やかな微笑をその面差しに湛えた。
「お方様は烈婦(れっぷ)ではございませぬ。ご夫君の側女にお手にかけるような、恥知らずな真似をなされるお方ではないと、よう心得ておりまする」
落ち着きなく動いていた濃姫の目が、ふと千代山を認める。
それを聞くなり
「お控え下さりませ! ご傷心の姫様に対して、それはあまりの仰せ──。いくら千代山様でも、無礼が過ぎまする」
三保野は我が事のように憤慨した。
しかし千代山の冷静さは毛筋程も揺るがない。
「確かに、臣下が主人に対して教えをたれるなど僭越至極の所業。それは重々心得ておりまする。
…されど、お方様を教え、導くべき存在である御姑の大方様は末森の城におわす上、今は信勝様の事でそれどころではない。
お付きの侍女方は、呆れた事に、お方様をご説得するどころか、お慰めするばかりで何とも不甲斐ない」
千代山の冷やかな視線が、チラと三保野の渋面に据えられる。https://mathewanderson.3rin.net/Entry/7/ https://mathewanderson.animech.net/Entry/6/ https://anderson.cosplay-navi.com/Entry/9/
「それ故に、無礼千万と思いながらも、奥の年長者である私があえて申し上げているのでございます」
「…それが、此度そなたがここへ赴いた本当の理由だったのですね」
濃姫が力なく訊くと、千代山は静かに一礼した。
「───しかしながら、いくら千代山様がそう仰せになられても、黙って殿の御意に従えなど、さすがに無理な話にございます!」
三保野は更に食ってかかる。
「類様の事にしても若君様の事にしても、どれも姫様にとっては傷心の種。納得出来る事など、ないも同然なのですから」
「ならば、お方様が納得の出来るようにご対処なさればよろしいのです」
千代山は重々しい口調で述べると
「若君様はともかくとしても、類様は身分も低く、未だ公の存在ではございませぬ。
もしもお方様が、類様をお目障りとお思い召すのならば……いっそ始末してしまえばよろしいのです」
怖めず臆せず、そう言い放った。
突然のことに濃姫も三保野も唖然となり、権高な表情を浮かべる千代山を戸惑いの眼で眺めた。
「類様は幸いにもこの清洲城内ではなく、外に、生駒の邸におられるのです。折を見て刺客を放つなり、
手の者を送り込んで類様の食膳に毒を盛らせるなり、始末する方法ならば幾らでもございまする」
「……千代山殿」
「武家においても公家においても、高貴な家柄に産まれた御子の中には、ご生母が産後に突然ご他界あそばされたり、
お家の事情によって、どこの誰だか身元を伏せられた生母不明の御子も少なくはないのでございます。
類様がここでお亡くなりになられても、その内のお一人となられるだけ──。上手く事を進めれば、後世に名を残す事のない存在と出来るやも知れませぬ」
「……な、なれど、私はそのような事…」
類を始末しようなどと、そんな大それた事は間違っても望んでいない。
それが本心であるものの、この時の濃姫には千代山の言葉をはっきりと否定する事が出来なかった
この先どう対処し、どう心の整理をつければ良いのか。
まるで答えの出せぬ今の姫には、それも選択肢の一つであると唆(そそのか)す、魔物の囁きのように聞こえたのである。
濃姫が狼狽えがちに目を泳がせていると
「無論、お方様のお気持ちは分かっておりまする」
千代山は、まるで今まで言った事を打ち消すような、明るい、穏やかな微笑をその面差しに湛えた。
「お方様は烈婦(れっぷ)ではございませぬ。ご夫君の側女にお手にかけるような、恥知らずな真似をなされるお方ではないと、よう心得ておりまする」
落ち着きなく動いていた濃姫の目が、ふと千代山を認める。
Posted by energyelaine at 17:25│Comments(0)