2023年04月26日
「……それなら、止めよ
「……それなら、止めようが無いですね」
そのように穏やかな会話をしていると、廊下の板が踏み抜かれ、ギシギシと音を立てた。近付いてくる気配を感じ、廊下へと続く襖を見やる。
「沖田先生、山野です。今良いですか?」
突然の山野の来訪に、
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註冊公司 沖田は桜司郎と顔を見合わせた。そして頷くのを見ると入るように促す。
「失礼しま──って、何だ。桜司郎も居たのか」
「何だって失礼な……。どうしよう、私出て行った方がいい?」
桜司郎の問い掛けに、山野はさして考えることなく首を横に振った。
「いや、別に聞かれて困るような事じゃないから良い。……沖田先生に相談があって」
「相談、ですか。力になれるかは分かりませんが、それでも宜しければ」
沖田は山野へ座るように言う。促されるがまま、山野は近くに正座をした。
「……実は、馬越っちゃ──馬越のことなのですが」
馬越と聞いて、桜司郎はドキリとする。明らかに様子がおかしいと察したあの日から一度も言葉を交わしていなかった。決して無視をしている訳ではなく、隊務に追われている上に、組が異なるためにすれ違うことすら無いのだ。
「……あれだけ、武田先生のことを嫌っていたのに……。今は無理に慕おうとしているように見えるんです。何か脅されているのでしょうか。あいつが一番組を離れる時、沖田先生に何か言いましたか?」
山野は憂うように瞳を伏せる。
確かに、馬越が武田の太鼓持ちをするようになったと噂に聞いたことがあった。武田も武田でそれは満更でもないようで、密かに念友の契りを交わしたとか交わしていないとか。
皺ひとつない綺麗な敷布を見て満足気に笑みを浮かべる桜司郎を、沖田は切なげに見やる。
「そう言えばそうでしたね……。コホッ、でもね、私は貴女にこれが るのではないかと心配なのです……」
「またそんなことを言う。私が好きでやっているのですから、心配しないで下さい」
桜司郎は沖田の前へ座った。そして照れたような表情を浮かべ、
「…………沖田先生に会えない方が気鬱になります」
と漏らした。
それを聞くなり沖田は目を丸くすると、愛しげに目を細める。 その問い掛けに、沖田は眉を顰めては僅かに瞳を揺らした。
「……馬越君なりの考えがあっての事でしょう。申し訳ないですが、その件については私から言えることはありません」
何を知っていようと、部下から言われたことを他の者に漏らすことは出来ない。それが沖田の矜恃だった。心配ではあるが、男が一度決めたことをとやかく言うことはしたくないと思ったのだ。
「そうですか……。すみませんでした、沖田先生の立場も考えずに変なこと聞いてしまって」
「いえ……。お力になれず、御免なさいね。懲りずにまた遊びに来てください」
「はいッ。今度は手土産に団子でも買ってきますよ。沖田先生の好きなヤツ。楽しみにしていて下さいね」
山野は丁寧に頭を下げると、いつもの笑みを浮かべて部屋を出て行く。
ひらひらと手を振ってその背を見送ると、沖田は小さく溜め息を吐いた。
「沖田先生……」
心配そうに顔を覗き込んでくる桜司郎を見やると、その頭へ手を伸ばす。艶のある髪を数回撫でれば、嬉しそうに頬を染めた。
──あれだけ仲が良かった馬越君のことだ、この子も気にならない訳では無かろうに。私に気を遣って問うて来ないのだろうな。
「そろそろ休みます。貴女も忙しいのだから、このようなところで油を売る訳にはいかないでしょう。行ってらっしゃい」
「……はい。では、また来ますね」
桜司郎も部屋を出て行くのを見送ると、沖田は小さな窓から外を見やった。その脳裏には馬越とのやり取りが浮かんでいる──
それは初めての風花が降り始めた頃だった。馬越に折り入って話があると壬生寺へ呼ばれた。
そのように穏やかな会話をしていると、廊下の板が踏み抜かれ、ギシギシと音を立てた。近付いてくる気配を感じ、廊下へと続く襖を見やる。
「沖田先生、山野です。今良いですか?」
突然の山野の来訪に、
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註冊公司 沖田は桜司郎と顔を見合わせた。そして頷くのを見ると入るように促す。
「失礼しま──って、何だ。桜司郎も居たのか」
「何だって失礼な……。どうしよう、私出て行った方がいい?」
桜司郎の問い掛けに、山野はさして考えることなく首を横に振った。
「いや、別に聞かれて困るような事じゃないから良い。……沖田先生に相談があって」
「相談、ですか。力になれるかは分かりませんが、それでも宜しければ」
沖田は山野へ座るように言う。促されるがまま、山野は近くに正座をした。
「……実は、馬越っちゃ──馬越のことなのですが」
馬越と聞いて、桜司郎はドキリとする。明らかに様子がおかしいと察したあの日から一度も言葉を交わしていなかった。決して無視をしている訳ではなく、隊務に追われている上に、組が異なるためにすれ違うことすら無いのだ。
「……あれだけ、武田先生のことを嫌っていたのに……。今は無理に慕おうとしているように見えるんです。何か脅されているのでしょうか。あいつが一番組を離れる時、沖田先生に何か言いましたか?」
山野は憂うように瞳を伏せる。
確かに、馬越が武田の太鼓持ちをするようになったと噂に聞いたことがあった。武田も武田でそれは満更でもないようで、密かに念友の契りを交わしたとか交わしていないとか。
皺ひとつない綺麗な敷布を見て満足気に笑みを浮かべる桜司郎を、沖田は切なげに見やる。
「そう言えばそうでしたね……。コホッ、でもね、私は貴女にこれが るのではないかと心配なのです……」
「またそんなことを言う。私が好きでやっているのですから、心配しないで下さい」
桜司郎は沖田の前へ座った。そして照れたような表情を浮かべ、
「…………沖田先生に会えない方が気鬱になります」
と漏らした。
それを聞くなり沖田は目を丸くすると、愛しげに目を細める。 その問い掛けに、沖田は眉を顰めては僅かに瞳を揺らした。
「……馬越君なりの考えがあっての事でしょう。申し訳ないですが、その件については私から言えることはありません」
何を知っていようと、部下から言われたことを他の者に漏らすことは出来ない。それが沖田の矜恃だった。心配ではあるが、男が一度決めたことをとやかく言うことはしたくないと思ったのだ。
「そうですか……。すみませんでした、沖田先生の立場も考えずに変なこと聞いてしまって」
「いえ……。お力になれず、御免なさいね。懲りずにまた遊びに来てください」
「はいッ。今度は手土産に団子でも買ってきますよ。沖田先生の好きなヤツ。楽しみにしていて下さいね」
山野は丁寧に頭を下げると、いつもの笑みを浮かべて部屋を出て行く。
ひらひらと手を振ってその背を見送ると、沖田は小さく溜め息を吐いた。
「沖田先生……」
心配そうに顔を覗き込んでくる桜司郎を見やると、その頭へ手を伸ばす。艶のある髪を数回撫でれば、嬉しそうに頬を染めた。
──あれだけ仲が良かった馬越君のことだ、この子も気にならない訳では無かろうに。私に気を遣って問うて来ないのだろうな。
「そろそろ休みます。貴女も忙しいのだから、このようなところで油を売る訳にはいかないでしょう。行ってらっしゃい」
「……はい。では、また来ますね」
桜司郎も部屋を出て行くのを見送ると、沖田は小さな窓から外を見やった。その脳裏には馬越とのやり取りが浮かんでいる──
それは初めての風花が降り始めた頃だった。馬越に折り入って話があると壬生寺へ呼ばれた。
Posted by energyelaine at 23:40│Comments(0)