2025年01月23日
お互い憎まれ口をたたきながら
お互い憎まれ口をたたきながら、近藤の部屋に足を踏み入れた。
八畳ぐらいの部屋には近藤や土方、そして井上の姿があった。
なに…この雰囲気…
近藤と対面して座る二人だが、途端に部屋の障子が開いた。
「すみません…遅くなりました」
山南さん…
井上の隣に眼鏡をかけた人物、山南は軽く頭を下げながら腰を下ろした。
山南の後にはぞろぞろと、原田や永倉、藤堂といった言わば、お馴染みの顔が部屋の中に足を踏み入れた。
近藤は咳払いを一つ、つくと唇を動かした。
「集まってもらったのは、他でもない「たのもう!!」……誰……
近藤の声を遮り、野太い声が響き渡り、門の方向を一斉に目を向ければ再び声が響き渡る。
「誰もおらぬか!!」
先程とは違う男の声が響き、道場主である近藤が腰を上げた。
「なんだなんだ!?喧嘩でも売ったか土方さん」
「なんで俺になんだよ」
「土方さんしかいねえだろ!?問題児は……。どうせ奉公先の女でもひっかけてその関わりあるもんが来たんじゃねえのか!?」
「んなことするかよ」
……原田さんの言ったこと、当たってる https://freewebads.biz/389/posts/1/1/2335274.html https://share.evernote.com/note/30ac369d-d554-26ae-a032-d08f99e5f941 http://addirectory.org/details.php?id=428803
呆れ顔を浮かべる土方をつついて遊ぶ原田。
少しばかり先程まであった緊張感はほぐれ、麗も苦笑いを浮かべていたが再びその表情が引き締まることになる。
帰ってきた、近藤の言葉によって……。
「道場やぶりだ」道場やぶり??なんで試衛館に……お金なんてないのに……
「近藤さん、どーすんだ。うけんのか」
「何を目的としてんだ。此処は金なんてねえぞ」
麗が心配そうに近藤に目を向ける間にも、原田や永倉に続き口々に疑問視する言葉が飛び交う。
当たり前だ。
金、名誉のためなら一流の道場に頼みを申し込むのが道場やぶり。
だが此処は試衛館。金もなければ、巷では有名な三流道場とまで呼ばれる貧乏道場だ。
男達の企みが分からず、皆、警戒心を露にしていた。
「私が「私がいきますよ、近藤さん」
そんな中、麗の言葉を遮り……声を上げたのは、沖田だった。
「私が「麗は少し黙って下さい」
「なんで「麗は師範代ではないでしょう」
……出る幕じゃないって、しゃしゃるなってこと……
沖田の鋭い流し目に、麗は思わず唇を噛み締めたが沖田はそのまま近藤に向き直った。
「相手の企みもわからないのに、みすみす道場主である近藤さんが出る幕ではないと思うんです。かといって、このたのみを断り逆恨みで変な噂を巷で立てられても困りますから、これ以上に」いつになく真剣な沖田の言動に一瞬だが静寂が訪れ、徐々に歓心の声が上がる。
「近藤さんが絡んだら、正論が言えるんですよね。沖田君は」
「どう言う意味ですか、山南さん」
「いやいや。悪い意味ではありませんよ??」
口許を上品に隠して笑う山南、本名……山南敬助の姿に沖田はふくれっ面を見せていたが沖田の言葉は正論だった。
相手のたのみと、その一方にこちらも、条件が出せるのだ。
早速、我先に!!
そうと言わんばかりりバタバタと原田や永倉、藤堂達が道場にかけていく中、麗は暫くその場に座っていた……。
「行かねえのか、おめえは」
声をかけたのは、土方だった。
「いえ「おめえも昔から変わらねえな、真面目すぎんだよ。悔しいんだろ、総司の言葉が」
八畳ぐらいの部屋には近藤や土方、そして井上の姿があった。
なに…この雰囲気…
近藤と対面して座る二人だが、途端に部屋の障子が開いた。
「すみません…遅くなりました」
山南さん…
井上の隣に眼鏡をかけた人物、山南は軽く頭を下げながら腰を下ろした。
山南の後にはぞろぞろと、原田や永倉、藤堂といった言わば、お馴染みの顔が部屋の中に足を踏み入れた。
近藤は咳払いを一つ、つくと唇を動かした。
「集まってもらったのは、他でもない「たのもう!!」……誰……
近藤の声を遮り、野太い声が響き渡り、門の方向を一斉に目を向ければ再び声が響き渡る。
「誰もおらぬか!!」
先程とは違う男の声が響き、道場主である近藤が腰を上げた。
「なんだなんだ!?喧嘩でも売ったか土方さん」
「なんで俺になんだよ」
「土方さんしかいねえだろ!?問題児は……。どうせ奉公先の女でもひっかけてその関わりあるもんが来たんじゃねえのか!?」
「んなことするかよ」
……原田さんの言ったこと、当たってる https://freewebads.biz/389/posts/1/1/2335274.html https://share.evernote.com/note/30ac369d-d554-26ae-a032-d08f99e5f941 http://addirectory.org/details.php?id=428803
呆れ顔を浮かべる土方をつついて遊ぶ原田。
少しばかり先程まであった緊張感はほぐれ、麗も苦笑いを浮かべていたが再びその表情が引き締まることになる。
帰ってきた、近藤の言葉によって……。
「道場やぶりだ」道場やぶり??なんで試衛館に……お金なんてないのに……
「近藤さん、どーすんだ。うけんのか」
「何を目的としてんだ。此処は金なんてねえぞ」
麗が心配そうに近藤に目を向ける間にも、原田や永倉に続き口々に疑問視する言葉が飛び交う。
当たり前だ。
金、名誉のためなら一流の道場に頼みを申し込むのが道場やぶり。
だが此処は試衛館。金もなければ、巷では有名な三流道場とまで呼ばれる貧乏道場だ。
男達の企みが分からず、皆、警戒心を露にしていた。
「私が「私がいきますよ、近藤さん」
そんな中、麗の言葉を遮り……声を上げたのは、沖田だった。
「私が「麗は少し黙って下さい」
「なんで「麗は師範代ではないでしょう」
……出る幕じゃないって、しゃしゃるなってこと……
沖田の鋭い流し目に、麗は思わず唇を噛み締めたが沖田はそのまま近藤に向き直った。
「相手の企みもわからないのに、みすみす道場主である近藤さんが出る幕ではないと思うんです。かといって、このたのみを断り逆恨みで変な噂を巷で立てられても困りますから、これ以上に」いつになく真剣な沖田の言動に一瞬だが静寂が訪れ、徐々に歓心の声が上がる。
「近藤さんが絡んだら、正論が言えるんですよね。沖田君は」
「どう言う意味ですか、山南さん」
「いやいや。悪い意味ではありませんよ??」
口許を上品に隠して笑う山南、本名……山南敬助の姿に沖田はふくれっ面を見せていたが沖田の言葉は正論だった。
相手のたのみと、その一方にこちらも、条件が出せるのだ。
早速、我先に!!
そうと言わんばかりりバタバタと原田や永倉、藤堂達が道場にかけていく中、麗は暫くその場に座っていた……。
「行かねえのか、おめえは」
声をかけたのは、土方だった。
「いえ「おめえも昔から変わらねえな、真面目すぎんだよ。悔しいんだろ、総司の言葉が」
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21:54
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2025年01月08日
1月8日の記事
見る人全てが敵に見える。
「自分は蕎麦が食べたいっす!!」
「蕎麦ぁぁあ!?」
土方は気が抜けたような声で叫んだ。
市村の目線の先には蕎麦屋がある。
「ふぅ…」
美海は安堵の息を吐いた。
「てめぇら。食いながらでいいから聞け」
「うっす」
美海は茶碗から顔を上げながら答えた。
白い湯気が上がっている。
結局は沖田と美海がまだ腹が減ったというため、汁粉を買い、外で食べている。
「いいか?今から俺らは仙台に行き、そこから艦隊で蝦夷地へ行く」
美海も沖田も市村も頷いた。
「蝦夷地はまだ未開拓地だ。俺らはそこに新しい国を作る」
再び一同頷いた。
土方の説明を一通り聞いたときには汁粉はもうなくなる頃であった。
“テメーの国ぐらい最後までテメーで見送らせてくれ”
そう言い放った佐川。
“あんたは喧嘩師なんだろう?”
あの地に残った斉藤。
心配だ。
あれから何日経ったんだろう。
やっぱり移動手段は徒歩なわけだから、日にち感覚が麻痺している。
まさか藤堂、原田、永倉が合流して会津に向かっているだなんて思いもしまい。
ただ、心配だ。
その気持ちが強い。
「美海、そろそろ移動だ」
「行きましょう」
笠を深くかぶりなおして手を差しのべる沖田。
「……はい」
美海も笠をかぶると、その手を取った。
「…ゼェッ…ハッ…おいっ斉藤くん…」
荒い息が人気のない森に響く。
「佐川さん。俺は今は斉藤じゃありません山口です」
「すまねぇ。君みたいに有名になると過ごしにくいな。
山口くん。こりゃあ大分圧されてきたなぁ」
「えぇ」
斉藤は山口二郎に改名した。
会津に残ってから約1ヶ月後。https://blog.udn.com/a440edbd/181569999 https://classic-blog.udn.com/a440edbd/181573486 https://mathew.blog.shinobi.jp/Entry/8/
ついに会津は落ちた。
会津若松城に大打撃を受け、慶応4年閏9月22日、会津藩は降伏した。
それからも斉藤、佐川は遊撃隊を率いて個人で抵抗している。
会津は降伏したにも関わらず、未だに銃撃戦が続いている。
「……あいつはまだ無事だな…」
佐川は倒れている会津藩士を見つけると立ち上がって近づいた。
そして背負って草むらへ持っていく。
ガサッ…
「ごめんなぁ。また、全て終わったらちゃんと埋葬するからな…」
佐川は静かに手を合わせると戻ってきた。
斉藤は何も聞かずに佐川を見た。
佐川はただ、首を横に振った。
あの会津藩士はもう息絶えていたのだ。
佐川はそれを知っていた。
「あいつはまだ綺麗なままだった。ヒデェもんだよ」
「…惨いものですね」
斉藤はそう答えた。
他の市中に倒れている会津藩士はゴミのように詰め込まれ、捨てられている。
降伏後の会津は酷いものであった。
藩士の死体をバラバラに斬ったり、性器を切り取ったりと本当に酷かったという。
沖田はすぐに鋭い目付きを戻すと、何事もなかったかのように干菓子を食べ始める。
結局、市村は土方に紛らわしいと小突かれただけで、蕎麦にありつけた。
あんな子犬のような目で見られると仕方がない。
それに市村はちょうど成長期真っ盛りだ。
よく今まで耐えていたなと思う。
グーっと美海のお腹が鳴った。
美海は干菓子を口に運ぶと、土方を見た。
困ったようにガシガシと頭を掻いている。
少しは張っている気が緩んでくれたら良いのだが、相変わらず辺りを警戒している。
この中では土方が最年長だから、うかうかとしていられないのだろう。
「自分は蕎麦が食べたいっす!!」
「蕎麦ぁぁあ!?」
土方は気が抜けたような声で叫んだ。
市村の目線の先には蕎麦屋がある。
「ふぅ…」
美海は安堵の息を吐いた。
「てめぇら。食いながらでいいから聞け」
「うっす」
美海は茶碗から顔を上げながら答えた。
白い湯気が上がっている。
結局は沖田と美海がまだ腹が減ったというため、汁粉を買い、外で食べている。
「いいか?今から俺らは仙台に行き、そこから艦隊で蝦夷地へ行く」
美海も沖田も市村も頷いた。
「蝦夷地はまだ未開拓地だ。俺らはそこに新しい国を作る」
再び一同頷いた。
土方の説明を一通り聞いたときには汁粉はもうなくなる頃であった。
“テメーの国ぐらい最後までテメーで見送らせてくれ”
そう言い放った佐川。
“あんたは喧嘩師なんだろう?”
あの地に残った斉藤。
心配だ。
あれから何日経ったんだろう。
やっぱり移動手段は徒歩なわけだから、日にち感覚が麻痺している。
まさか藤堂、原田、永倉が合流して会津に向かっているだなんて思いもしまい。
ただ、心配だ。
その気持ちが強い。
「美海、そろそろ移動だ」
「行きましょう」
笠を深くかぶりなおして手を差しのべる沖田。
「……はい」
美海も笠をかぶると、その手を取った。
「…ゼェッ…ハッ…おいっ斉藤くん…」
荒い息が人気のない森に響く。
「佐川さん。俺は今は斉藤じゃありません山口です」
「すまねぇ。君みたいに有名になると過ごしにくいな。
山口くん。こりゃあ大分圧されてきたなぁ」
「えぇ」
斉藤は山口二郎に改名した。
会津に残ってから約1ヶ月後。https://blog.udn.com/a440edbd/181569999 https://classic-blog.udn.com/a440edbd/181573486 https://mathew.blog.shinobi.jp/Entry/8/
ついに会津は落ちた。
会津若松城に大打撃を受け、慶応4年閏9月22日、会津藩は降伏した。
それからも斉藤、佐川は遊撃隊を率いて個人で抵抗している。
会津は降伏したにも関わらず、未だに銃撃戦が続いている。
「……あいつはまだ無事だな…」
佐川は倒れている会津藩士を見つけると立ち上がって近づいた。
そして背負って草むらへ持っていく。
ガサッ…
「ごめんなぁ。また、全て終わったらちゃんと埋葬するからな…」
佐川は静かに手を合わせると戻ってきた。
斉藤は何も聞かずに佐川を見た。
佐川はただ、首を横に振った。
あの会津藩士はもう息絶えていたのだ。
佐川はそれを知っていた。
「あいつはまだ綺麗なままだった。ヒデェもんだよ」
「…惨いものですね」
斉藤はそう答えた。
他の市中に倒れている会津藩士はゴミのように詰め込まれ、捨てられている。
降伏後の会津は酷いものであった。
藩士の死体をバラバラに斬ったり、性器を切り取ったりと本当に酷かったという。
沖田はすぐに鋭い目付きを戻すと、何事もなかったかのように干菓子を食べ始める。
結局、市村は土方に紛らわしいと小突かれただけで、蕎麦にありつけた。
あんな子犬のような目で見られると仕方がない。
それに市村はちょうど成長期真っ盛りだ。
よく今まで耐えていたなと思う。
グーっと美海のお腹が鳴った。
美海は干菓子を口に運ぶと、土方を見た。
困ったようにガシガシと頭を掻いている。
少しは張っている気が緩んでくれたら良いのだが、相変わらず辺りを警戒している。
この中では土方が最年長だから、うかうかとしていられないのだろう。
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01:42
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2025年01月07日
対する新政府軍の数は旧幕府軍の二倍
対する新政府軍の数は旧幕府軍の二倍を更に上回る2000名。
明らかな戦略差で既に大鳥隊はボロボロ。
最初にいた会津藩兵は敗走し、伝習隊は大打撃を受けていた。
既に早朝の濃霧が出ている頃から戦いは始まっていたという。
「……っ…直ぐに加勢する!新撰組!俺に続けっ!」
土方はそう叫ぶと先人を切って走り出した。
それに続き、美海達も後を追う。
スラリと刀を抜いて、斬った。
「打てぇ!!」
パンパンパンパンッ!!
後ろから大鳥が援護し、射撃隊を潰していく。
「……なに!?」
射撃隊が崩れ、土方が敵地に一気に突っ込もうとするとそこから更に待ち構えていた射撃隊が姿を現した。
「土方さん!!」
沖田が叫ぶ。
「くそっ…!一旦戻れぇ!!」
新撰組の登場で勢いを着けた旧幕府軍だったが、この大きな戦力差には敵わなかった。
何故、こんなに差がうまれたか。
ここまでの白河口の戦いでもかなりの戦力を消耗したが、今回会津は攻められるのは中山峠だと判断した。
しかし実際には新政府軍は裏をかき、母成峠に戦力を集中させた。
大鳥はそれを見切っていたが、こちらが用意できた兵力はたったの700名。
少なすぎた。
「打て!打て!打てぇ!!」
戦場に大鳥の怒涛の声が響き渡る。https://annapersonal.joomla.com/2-uncategorised/2-2024-12-30-14-62-70 https://debsyking786.livedoor.blog/archives/8279902.html https://plaza.rakuten.co.jp/johnsmith786/diary/202412250000/
「土方さん!あそこを潰すのは待っていられない!仕方ないです!このまま刀で突っ込みましょう!」
沖田はそう叫んだ。
「くっ……。そうだな…」
「土方さんは私の後ろにいてください!」
「はぁ!?」
土方は顎を大きく開けた。
「今日の死番は私です」
汗を垂らしながらニィッと沖田は笑った。
以前までとは違った、強気な顔だった。
きっと、近藤が死んだ今、自分が土方を守らなければならない。そう決めた。
無駄に夜な夜な考え込んでいたわけではない。
「待って!死番なら私もですよ!」
「美海さん!!」
美海も沖田の隣に立つと、前をしっかり見据えた。
「いや、あなたは…」
「私は一番隊です。なら私も死番です。違いますか?」
「………そうですね!」
沖田は大きく頷いた。
「また昔みたいに、二人で背中合わせて戦いましょうよ!きっと、大丈夫」
美海も決意を固め、強く刀を握り直す。
「いきますよ」
「はい!!」
二人は銃弾の降り注ぐ中、一気に走った。
「皆!総司と美海に続けぇ!!」
「「「おぉぉおお!!」」」
再び仕切り直し、新撰組は敵地に突っ込んだ。
突っ込んだ。
突っ込んだは良かった。
だが、母成峠はものの1日も掛からず制圧され、新撰組や大鳥、佐川の努力は虚しく、苦しくも惨敗に終わった。
兵力はほとんど残っていない。
母成峠は焼け野原。
伝習隊は壊滅状態。
なにもかもが、不利な状況に陥っていた。
その後、凄まじい勢いで新政府軍は進軍し、あっという間に猪苗代城を制圧すると火を放ち、直ぐに会津若松城へと向かった。
道は開かれてしまった。
いよいよのんびりはしていられない。
これがもたらした影響は芳しくなく、奥羽越列藩同盟国である、仙台藩、米沢藩などが次々に降伏しだした。
「土方さん…これはまずいですね…」
「あぁ…」
一応傷まみれではあるが、死番を勤めた美海、沖田も生きている。
今は新撰組で集まり、次なる策を立てているところだ。
「どうしましょうか」
「とりあえず、今からでも会津城に向かい、参戦するべきじゃねぇか。一度突っ込んだ首だ。放っておけねぇ」
土方の言葉に一同は頷いた。
なんだか今回の戦いで、そりゃあ死の恐怖は拭えないけど、良い意味で吹っ切れた気がする。
明らかな戦略差で既に大鳥隊はボロボロ。
最初にいた会津藩兵は敗走し、伝習隊は大打撃を受けていた。
既に早朝の濃霧が出ている頃から戦いは始まっていたという。
「……っ…直ぐに加勢する!新撰組!俺に続けっ!」
土方はそう叫ぶと先人を切って走り出した。
それに続き、美海達も後を追う。
スラリと刀を抜いて、斬った。
「打てぇ!!」
パンパンパンパンッ!!
後ろから大鳥が援護し、射撃隊を潰していく。
「……なに!?」
射撃隊が崩れ、土方が敵地に一気に突っ込もうとするとそこから更に待ち構えていた射撃隊が姿を現した。
「土方さん!!」
沖田が叫ぶ。
「くそっ…!一旦戻れぇ!!」
新撰組の登場で勢いを着けた旧幕府軍だったが、この大きな戦力差には敵わなかった。
何故、こんなに差がうまれたか。
ここまでの白河口の戦いでもかなりの戦力を消耗したが、今回会津は攻められるのは中山峠だと判断した。
しかし実際には新政府軍は裏をかき、母成峠に戦力を集中させた。
大鳥はそれを見切っていたが、こちらが用意できた兵力はたったの700名。
少なすぎた。
「打て!打て!打てぇ!!」
戦場に大鳥の怒涛の声が響き渡る。https://annapersonal.joomla.com/2-uncategorised/2-2024-12-30-14-62-70 https://debsyking786.livedoor.blog/archives/8279902.html https://plaza.rakuten.co.jp/johnsmith786/diary/202412250000/
「土方さん!あそこを潰すのは待っていられない!仕方ないです!このまま刀で突っ込みましょう!」
沖田はそう叫んだ。
「くっ……。そうだな…」
「土方さんは私の後ろにいてください!」
「はぁ!?」
土方は顎を大きく開けた。
「今日の死番は私です」
汗を垂らしながらニィッと沖田は笑った。
以前までとは違った、強気な顔だった。
きっと、近藤が死んだ今、自分が土方を守らなければならない。そう決めた。
無駄に夜な夜な考え込んでいたわけではない。
「待って!死番なら私もですよ!」
「美海さん!!」
美海も沖田の隣に立つと、前をしっかり見据えた。
「いや、あなたは…」
「私は一番隊です。なら私も死番です。違いますか?」
「………そうですね!」
沖田は大きく頷いた。
「また昔みたいに、二人で背中合わせて戦いましょうよ!きっと、大丈夫」
美海も決意を固め、強く刀を握り直す。
「いきますよ」
「はい!!」
二人は銃弾の降り注ぐ中、一気に走った。
「皆!総司と美海に続けぇ!!」
「「「おぉぉおお!!」」」
再び仕切り直し、新撰組は敵地に突っ込んだ。
突っ込んだ。
突っ込んだは良かった。
だが、母成峠はものの1日も掛からず制圧され、新撰組や大鳥、佐川の努力は虚しく、苦しくも惨敗に終わった。
兵力はほとんど残っていない。
母成峠は焼け野原。
伝習隊は壊滅状態。
なにもかもが、不利な状況に陥っていた。
その後、凄まじい勢いで新政府軍は進軍し、あっという間に猪苗代城を制圧すると火を放ち、直ぐに会津若松城へと向かった。
道は開かれてしまった。
いよいよのんびりはしていられない。
これがもたらした影響は芳しくなく、奥羽越列藩同盟国である、仙台藩、米沢藩などが次々に降伏しだした。
「土方さん…これはまずいですね…」
「あぁ…」
一応傷まみれではあるが、死番を勤めた美海、沖田も生きている。
今は新撰組で集まり、次なる策を立てているところだ。
「どうしましょうか」
「とりあえず、今からでも会津城に向かい、参戦するべきじゃねぇか。一度突っ込んだ首だ。放っておけねぇ」
土方の言葉に一同は頷いた。
なんだか今回の戦いで、そりゃあ死の恐怖は拭えないけど、良い意味で吹っ切れた気がする。
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01:21
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2025年01月07日
なんとなく美海には想像がついた。
なんとなく美海には想像がついた。
だが、あれは危険すぎる。
少しは自分の身のことも大事にしてほしい。
「土方くんは怖じ気づく兵士達の先頭に立って、自分が一番に突っ込んでいったんだ」
「そういう人なんです」
沖田は頷いた。
「本当に今回はよくやってくれたと思う。流石新撰組の副長だ」
大鳥は覚悟を決めたように美海と沖田を見た。
「土方くんに伝えてくれ」
「はぁ」
美海は曖昧に答えた。
「『悪かった。君のことは認める。早く回復して、また合流してくれ』」
「それって…」
大鳥は困ったように笑った。
「彼の実力は本物だ。彼の力が必要なんだ。だから、席は開けて待っているぞ」
「そんなの自分で伝えてくださいよ」
美海はシレッと言った。
「柄じゃないんだ」
大鳥はまた困ったように笑った。
憎めない人だ。
「全く。似た者同士ですね。そりゃあ仲が悪いはずだ」 https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/6358904.html
http://carina.zohosites.com/ https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/6358932.html
沖田はなんだか嬉しそうに言った。
「わかりました。確かに伝えておきます」
「頼んだぞ。私はこれで失礼させてもらう」
「早いですね。お茶でも出しますよ?」
美海は首を傾げた。
「いや、結構。これからの話し合いがあるんだ」
「そうですか。ではまた」
「あぁ。また後程、蝦夷地で会おう」
大鳥は手を挙げて去っていった。
また、か。
美海は自然と頬を緩めた。
土方が陥落させた宇都宮城は、数日後、東山道総督府からの援軍と合流した官軍に呆気なくに取り返された。
土方が負った傷は中々に酷くて、私達は伝習隊と会津へ行く途中に、療養していくことになった。
「土方さん…大丈夫ですか?」
「あぁ……」
1日目、土方が城を落とした日は旧幕府軍は2200人。
土方は別動隊として大鳥本隊と東西から挟み撃ちする予定であった。
ちなみにその中の新撰組は30人。
来ていたのは伝習隊、歩兵第七連隊、桑名藩、回天隊など。
土方はその中で参謀を任されていたようだ。
ちなみに大鳥は総督。
邪険に扱ってしまったが、結構すごい人だったようだ。
土方は道すがら家々に放火していったらしい。
上手いタイミングなのかそれを分かっていてなのか、宇都宮には南東の風が吹いて宇都宮城下にはものすごい勢いで火がまわった。
寺町も構わず放火し、その時寺に軟禁されていた老中を救出。
その後は回天隊は今小路門へたどり着くものの隊長が銃にやられ苦戦。
同時刻に新撰組は中河原門、下河原門へ接近するも、宇都宮城守備隊により戦死者続出。
竹藪を挟んでの壮絶な攻防戦に入ったが、どういう分けかどんどん官軍は下がって行く。
一旦城に退いたが、よっぽど焦っていたのか橋は落とさなかったため旧幕府軍は簡単に侵入。
宇都宮城は土方の放火により火の海。
ちなみにこの時歩兵隊が使っていた銃は標準より射撃間が短く、射程距離も倍だったとされている。
官軍は逃げ場を失い、これに圧倒され退いたはずだった。
この夜は宇都宮城の炎は消えずに燃えつづけたという。だが、官軍が引いたのも戦略あってのこと。
ただ引いたわけではなかった。
今回の土方隊からの宇都宮奇襲を守り切ったとしても、北西から迫ってくる大鳥本隊が到着してしまえば足元をすくわれる。
だが、あれは危険すぎる。
少しは自分の身のことも大事にしてほしい。
「土方くんは怖じ気づく兵士達の先頭に立って、自分が一番に突っ込んでいったんだ」
「そういう人なんです」
沖田は頷いた。
「本当に今回はよくやってくれたと思う。流石新撰組の副長だ」
大鳥は覚悟を決めたように美海と沖田を見た。
「土方くんに伝えてくれ」
「はぁ」
美海は曖昧に答えた。
「『悪かった。君のことは認める。早く回復して、また合流してくれ』」
「それって…」
大鳥は困ったように笑った。
「彼の実力は本物だ。彼の力が必要なんだ。だから、席は開けて待っているぞ」
「そんなの自分で伝えてくださいよ」
美海はシレッと言った。
「柄じゃないんだ」
大鳥はまた困ったように笑った。
憎めない人だ。
「全く。似た者同士ですね。そりゃあ仲が悪いはずだ」 https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/6358904.html
http://carina.zohosites.com/ https://carinacyril786.livedoor.blog/archives/6358932.html
沖田はなんだか嬉しそうに言った。
「わかりました。確かに伝えておきます」
「頼んだぞ。私はこれで失礼させてもらう」
「早いですね。お茶でも出しますよ?」
美海は首を傾げた。
「いや、結構。これからの話し合いがあるんだ」
「そうですか。ではまた」
「あぁ。また後程、蝦夷地で会おう」
大鳥は手を挙げて去っていった。
また、か。
美海は自然と頬を緩めた。
土方が陥落させた宇都宮城は、数日後、東山道総督府からの援軍と合流した官軍に呆気なくに取り返された。
土方が負った傷は中々に酷くて、私達は伝習隊と会津へ行く途中に、療養していくことになった。
「土方さん…大丈夫ですか?」
「あぁ……」
1日目、土方が城を落とした日は旧幕府軍は2200人。
土方は別動隊として大鳥本隊と東西から挟み撃ちする予定であった。
ちなみにその中の新撰組は30人。
来ていたのは伝習隊、歩兵第七連隊、桑名藩、回天隊など。
土方はその中で参謀を任されていたようだ。
ちなみに大鳥は総督。
邪険に扱ってしまったが、結構すごい人だったようだ。
土方は道すがら家々に放火していったらしい。
上手いタイミングなのかそれを分かっていてなのか、宇都宮には南東の風が吹いて宇都宮城下にはものすごい勢いで火がまわった。
寺町も構わず放火し、その時寺に軟禁されていた老中を救出。
その後は回天隊は今小路門へたどり着くものの隊長が銃にやられ苦戦。
同時刻に新撰組は中河原門、下河原門へ接近するも、宇都宮城守備隊により戦死者続出。
竹藪を挟んでの壮絶な攻防戦に入ったが、どういう分けかどんどん官軍は下がって行く。
一旦城に退いたが、よっぽど焦っていたのか橋は落とさなかったため旧幕府軍は簡単に侵入。
宇都宮城は土方の放火により火の海。
ちなみにこの時歩兵隊が使っていた銃は標準より射撃間が短く、射程距離も倍だったとされている。
官軍は逃げ場を失い、これに圧倒され退いたはずだった。
この夜は宇都宮城の炎は消えずに燃えつづけたという。だが、官軍が引いたのも戦略あってのこと。
ただ引いたわけではなかった。
今回の土方隊からの宇都宮奇襲を守り切ったとしても、北西から迫ってくる大鳥本隊が到着してしまえば足元をすくわれる。
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00:30
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2025年01月01日
しばらく東に下った。
しばらく東に下った。
段々と人気が増えてくる。
土方が急に止まって振り返った。
「?」
美海は首を傾げる。
「どうしたんですか土方さん」
沖田も土方につられ、後ろを振り返った。
「お前ら」
美海は自分に指を差す。
土方は頷いた。
「お前もだ総司。というかお前だ」
「へ?」
沖田は土方の方を向いた。
「お前らとはここで別れる」
「「はい!?」」
二人は声を裏返した。
「え、ちょっと待ってくださいよ。よくわかりません」
ポカンとしている沖田の変わりに美海が口を開く。
「そのままだ。お前達はここから先は連れていけない。この先にある民家に泊まるんだ」
土方はポーカーフェイスなままで淡々と言った。https://blog.aujourdhui.com/jennifer9922/2711246/12300---12371---12371---12425---12408---12435---12363---12425---12289---23665---23822---12373.html https://avisterry.futbolowo.pl/news/article/news-38 https://www.beclass.com/rid=294db4f6773e9dce58c5
「………れは…」
沖田が下を向いたまま何か呟いた。
「あ?」
「…それは私が病気だからですか?」
少し声が震えている。
「私が病気だからまた一緒に行けないんですか?また……。さっき一緒に行くってついて行くって言ったじゃないですか!」
沖田は土方を睨み付けた。
「そうだよ。お前が病気だからだよ」
土方もそれに怯まずに答える。
後ろで少ない隊士が待っていた。
沖田は顔を歪めた。
そのとおりだけど……。
もうちょっと優しく言えないのか。
また…置いていかれる。
私の身体はいつになったら治るのだろう。
「お前は本当に迷惑なんだよ」
沖田は目を見開いた。
………迷惑…。
流石の沖田も傷つく。
「土方さん!」
美海は土方に怒鳴った。
「本当のことじゃねぇか!お前らには一刻でも早く戦闘に戻ってきてほしいんだよ!しょうもない募兵なんかに言って治りが遅れたら迷惑なんだよ!」
「え」
沖田は目を点にした。
「何を勘違いしてるか知らねぇがなぁすぐ甲州行きが決まったら迎えに来るぞ?それまでにしっかり休んどけ。
今までの分しっかり働いてもらうからな。場合に寄っちゃ総司。お前戦闘に出すからな」
「え!?」
沖田は段々と目の輝きを取り戻す。
「歳。先行っていいか?」
近藤が呆れた顔で立っていた。
「おう」
「よし。進むぞ~!」
再び隊は動き出した。
ポンッ
「総司。勘違いもほどほどにな」
後ろから頭を軽く叩かれる。
原田がニヤニヤしながら去っていった。
「美海。よろしくな」
永倉も側で苦笑いすると去っていった。
段々と沖田の顔が赤くなっていく。
「そういうことだから早く治せ。ほら行くぞ」
どうやら土方は民家まで連れていってくれるらしい。
呆然と立つ沖田を余所に美海は後を追いかけた。
「置いていって大丈夫なんですか?」
美海と土方は小道を黙々と歩いていた。
太陽が真上にある。正午だ。
「大丈夫だ。すぐ来るだろう」
どっちかというと沖田さんをメインで連れていかなければならないと思う。
あ、でも故郷が江戸なら分かるのかな?
現在は江戸の町外れにいる。田んぼがかなり多く、なんだか空気が良い。
「もうちょっと言い方考えましょうよ。本当にびっくりしました」
「でも間違いではないだろ?」
「まぁそうですけどぉ…」
腑に落ちない。
「それより美海」
「はい?」
土方は真剣な顔で美海を見ている。
「お前と二人になるのを待っていた」
え?え?え?
これは昔読んだ少女漫画的展開!?
美海は無駄に学習能力がある。
駄目だ!土方さんには悪いけど私には沖田さんがいる…!
今から気合いをいれて頑張ろうってとこで悪いけどここは断るしかない!
美海は目をカッと開いた。
「美海」
「はい!」
「お前隙を見て逃げろ」
「はい!……は…?え?」
美海は固まった。
「それは、さっきと同じ意味ですか?」
「聞こえなかったか?隙を見て逃げろと言ったんだ」
土方は冗談を言っている風ではない。
段々と人気が増えてくる。
土方が急に止まって振り返った。
「?」
美海は首を傾げる。
「どうしたんですか土方さん」
沖田も土方につられ、後ろを振り返った。
「お前ら」
美海は自分に指を差す。
土方は頷いた。
「お前もだ総司。というかお前だ」
「へ?」
沖田は土方の方を向いた。
「お前らとはここで別れる」
「「はい!?」」
二人は声を裏返した。
「え、ちょっと待ってくださいよ。よくわかりません」
ポカンとしている沖田の変わりに美海が口を開く。
「そのままだ。お前達はここから先は連れていけない。この先にある民家に泊まるんだ」
土方はポーカーフェイスなままで淡々と言った。https://blog.aujourdhui.com/jennifer9922/2711246/12300---12371---12371---12425---12408---12435---12363---12425---12289---23665---23822---12373.html https://avisterry.futbolowo.pl/news/article/news-38 https://www.beclass.com/rid=294db4f6773e9dce58c5
「………れは…」
沖田が下を向いたまま何か呟いた。
「あ?」
「…それは私が病気だからですか?」
少し声が震えている。
「私が病気だからまた一緒に行けないんですか?また……。さっき一緒に行くってついて行くって言ったじゃないですか!」
沖田は土方を睨み付けた。
「そうだよ。お前が病気だからだよ」
土方もそれに怯まずに答える。
後ろで少ない隊士が待っていた。
沖田は顔を歪めた。
そのとおりだけど……。
もうちょっと優しく言えないのか。
また…置いていかれる。
私の身体はいつになったら治るのだろう。
「お前は本当に迷惑なんだよ」
沖田は目を見開いた。
………迷惑…。
流石の沖田も傷つく。
「土方さん!」
美海は土方に怒鳴った。
「本当のことじゃねぇか!お前らには一刻でも早く戦闘に戻ってきてほしいんだよ!しょうもない募兵なんかに言って治りが遅れたら迷惑なんだよ!」
「え」
沖田は目を点にした。
「何を勘違いしてるか知らねぇがなぁすぐ甲州行きが決まったら迎えに来るぞ?それまでにしっかり休んどけ。
今までの分しっかり働いてもらうからな。場合に寄っちゃ総司。お前戦闘に出すからな」
「え!?」
沖田は段々と目の輝きを取り戻す。
「歳。先行っていいか?」
近藤が呆れた顔で立っていた。
「おう」
「よし。進むぞ~!」
再び隊は動き出した。
ポンッ
「総司。勘違いもほどほどにな」
後ろから頭を軽く叩かれる。
原田がニヤニヤしながら去っていった。
「美海。よろしくな」
永倉も側で苦笑いすると去っていった。
段々と沖田の顔が赤くなっていく。
「そういうことだから早く治せ。ほら行くぞ」
どうやら土方は民家まで連れていってくれるらしい。
呆然と立つ沖田を余所に美海は後を追いかけた。
「置いていって大丈夫なんですか?」
美海と土方は小道を黙々と歩いていた。
太陽が真上にある。正午だ。
「大丈夫だ。すぐ来るだろう」
どっちかというと沖田さんをメインで連れていかなければならないと思う。
あ、でも故郷が江戸なら分かるのかな?
現在は江戸の町外れにいる。田んぼがかなり多く、なんだか空気が良い。
「もうちょっと言い方考えましょうよ。本当にびっくりしました」
「でも間違いではないだろ?」
「まぁそうですけどぉ…」
腑に落ちない。
「それより美海」
「はい?」
土方は真剣な顔で美海を見ている。
「お前と二人になるのを待っていた」
え?え?え?
これは昔読んだ少女漫画的展開!?
美海は無駄に学習能力がある。
駄目だ!土方さんには悪いけど私には沖田さんがいる…!
今から気合いをいれて頑張ろうってとこで悪いけどここは断るしかない!
美海は目をカッと開いた。
「美海」
「はい!」
「お前隙を見て逃げろ」
「はい!……は…?え?」
美海は固まった。
「それは、さっきと同じ意味ですか?」
「聞こえなかったか?隙を見て逃げろと言ったんだ」
土方は冗談を言っている風ではない。
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01:47
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2024年11月28日
夜、美海が普通に巡回に行っても京の人々の
夜、美海が普通に巡回に行っても京の人々の目は一段と冷酷さ、軽蔑を帯びていた。
本当は美海達も部屋に籠ってしまいたいぐらいだ。
京の人々のために巡回しても、
「幕府の犬!」
「信じられへん!狂人や!」
「消えろ!京から去れ」
などと罵声を浴びる。
大虐殺が起こってからますますそれが酷くなった。
嫌でも幕府が起こした事の重大さは身に染みた。
バシャッ!
「っ!」
挙げ句の果て、生卵まで投げつけられた。美海は袖でそれを拭く。
「立花さん!」
他の隊士が心配する。
「大丈夫ですか!?美海さんに卵を投げるなんて許せない…」
沖田が刀の柄に手をかけたのを美海が制した。
「大丈夫です」
「でもっ!」
「今刀を抜いてみなさい。ますます状況が酷くなります。
本当に誰でも見境なく斬るのかと思われてしまいますよ。今は我慢です。ね?」
穏やかな目で微笑んでいる美海を見て、沖田はその手を下げた。https://mathewanderson.3rin.net/Entry/9/ https://mathewanderson.animech.net/Entry/8/ https://mathewanderson.anime-cosplay.com/Entry/4/
今の状況はどうしようもなくて。悔しくて悔しくて。
沖田は唇をきつく噛んだ。
ふと目をやると胸元から手拭いを出し、今にもこちらに駈けてこようとする綺麗な女の人を見つけた。
明里さん…。
見覚えのあるその顔は明里だった。
おそらく、仲が良い隊士が生卵を投げつけられたのだ。手拭いでも貸してやりたいのだろう。
だが美海は小さく首を振った。
「?」
明里は立ち止まる。
来 ちゃ だ め
口パクで美海はそう言った。
明里さんとは口パクが多いな。
美海は苦笑いした。
何故“来ちゃ駄目”か。
その意味は明里も十分理解できた。
今明らかに悪者の新撰組を庇うと世間からの目も変わる。とばっちりも受けるかもしれない。
更に明里は島原の遊女だ。評判もガクンと落ち、店にも負担が掛かる。そこが一番大きい。
明里は悲しそうな顔をした。
どうしようもできない。自分が情けない。
だ い じょ う ぶ だ か ら
美海はそう口パクで言うと、その茶色い髪と浅葱色の羽織を風になびかせながら堂々とその場を後にした。
なんて強いんだろう。
自然に涙が溢れてきて、明里はその場にしゃがみこんだ。
新撰組に当たる風はこれから更にきつくなりそうだ。それでも彼らはその風に向かっていくのだろう。
「ねぇちゃんどっか具合悪いんか?」
それに気づいた人が明里に声を駆けた。
明里は下を向いたまま黙って首を横に振るばかりであった。
いい人達なのに。
なんで分かりあえへんのやろ…。
地面には沢山の涙の跡が残った。
やっぱり罵声を浴びながらもなんとか屯所に帰る。
ガラッ
「ん?おっかえり…ってどうしたの!?」
玄関付近で団子の串を加えながら歩いていた藤堂は目を見開いた。
巡回から帰ってきた隊士皆がボロボロなのである。
美海なんかは頭に生卵を被っている。
「あ゛ぁ゛!もう!」
カランカランッ
さっきまで冷静だった美海は糸がほどけたように乱暴に下駄を脱ぎ捨てた。
ビクッ!
美海はズカズカと奥へ進む。
「あ…あの…。美海さん。どこへ?」
沖田はその変貌ぶりにおどおどしている。
グルンッ
ギロッ
「風呂」
美海は思いっきり振り向くとものすごい目付きで一言吐き捨てた。
またスタスタと廊下を行く。
「何があったの?つかそれどうしたの!?」
藤堂は沖田が担いでる隊士を指差す。
「美海さんにね…」
沖田は遠い目をした。
人々の酷い仕打ちに耐えられなくなり、暴れだした隊士を美海が気絶させたのだ。
それから沖田は先刻の話をすると藤堂はなるほどと頷いた。
美海さん…風呂…?
まずいっ!
「これお願いします!」
「あ…う…うん!?」
沖田は藤堂に隊士を預けると走り出した。
本当は美海達も部屋に籠ってしまいたいぐらいだ。
京の人々のために巡回しても、
「幕府の犬!」
「信じられへん!狂人や!」
「消えろ!京から去れ」
などと罵声を浴びる。
大虐殺が起こってからますますそれが酷くなった。
嫌でも幕府が起こした事の重大さは身に染みた。
バシャッ!
「っ!」
挙げ句の果て、生卵まで投げつけられた。美海は袖でそれを拭く。
「立花さん!」
他の隊士が心配する。
「大丈夫ですか!?美海さんに卵を投げるなんて許せない…」
沖田が刀の柄に手をかけたのを美海が制した。
「大丈夫です」
「でもっ!」
「今刀を抜いてみなさい。ますます状況が酷くなります。
本当に誰でも見境なく斬るのかと思われてしまいますよ。今は我慢です。ね?」
穏やかな目で微笑んでいる美海を見て、沖田はその手を下げた。https://mathewanderson.3rin.net/Entry/9/ https://mathewanderson.animech.net/Entry/8/ https://mathewanderson.anime-cosplay.com/Entry/4/
今の状況はどうしようもなくて。悔しくて悔しくて。
沖田は唇をきつく噛んだ。
ふと目をやると胸元から手拭いを出し、今にもこちらに駈けてこようとする綺麗な女の人を見つけた。
明里さん…。
見覚えのあるその顔は明里だった。
おそらく、仲が良い隊士が生卵を投げつけられたのだ。手拭いでも貸してやりたいのだろう。
だが美海は小さく首を振った。
「?」
明里は立ち止まる。
来 ちゃ だ め
口パクで美海はそう言った。
明里さんとは口パクが多いな。
美海は苦笑いした。
何故“来ちゃ駄目”か。
その意味は明里も十分理解できた。
今明らかに悪者の新撰組を庇うと世間からの目も変わる。とばっちりも受けるかもしれない。
更に明里は島原の遊女だ。評判もガクンと落ち、店にも負担が掛かる。そこが一番大きい。
明里は悲しそうな顔をした。
どうしようもできない。自分が情けない。
だ い じょ う ぶ だ か ら
美海はそう口パクで言うと、その茶色い髪と浅葱色の羽織を風になびかせながら堂々とその場を後にした。
なんて強いんだろう。
自然に涙が溢れてきて、明里はその場にしゃがみこんだ。
新撰組に当たる風はこれから更にきつくなりそうだ。それでも彼らはその風に向かっていくのだろう。
「ねぇちゃんどっか具合悪いんか?」
それに気づいた人が明里に声を駆けた。
明里は下を向いたまま黙って首を横に振るばかりであった。
いい人達なのに。
なんで分かりあえへんのやろ…。
地面には沢山の涙の跡が残った。
やっぱり罵声を浴びながらもなんとか屯所に帰る。
ガラッ
「ん?おっかえり…ってどうしたの!?」
玄関付近で団子の串を加えながら歩いていた藤堂は目を見開いた。
巡回から帰ってきた隊士皆がボロボロなのである。
美海なんかは頭に生卵を被っている。
「あ゛ぁ゛!もう!」
カランカランッ
さっきまで冷静だった美海は糸がほどけたように乱暴に下駄を脱ぎ捨てた。
ビクッ!
美海はズカズカと奥へ進む。
「あ…あの…。美海さん。どこへ?」
沖田はその変貌ぶりにおどおどしている。
グルンッ
ギロッ
「風呂」
美海は思いっきり振り向くとものすごい目付きで一言吐き捨てた。
またスタスタと廊下を行く。
「何があったの?つかそれどうしたの!?」
藤堂は沖田が担いでる隊士を指差す。
「美海さんにね…」
沖田は遠い目をした。
人々の酷い仕打ちに耐えられなくなり、暴れだした隊士を美海が気絶させたのだ。
それから沖田は先刻の話をすると藤堂はなるほどと頷いた。
美海さん…風呂…?
まずいっ!
「これお願いします!」
「あ…う…うん!?」
沖田は藤堂に隊士を預けると走り出した。
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17:16
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2024年11月28日
それから将来の理想やら他愛のな
それから将来の理想やら他愛のない話をしていた。すっかり夜だ。
「今日は泊まっていこうかな」
「久しぶりやね!仕事は大丈夫なん?」
「…あぁ。大丈夫だよ」
仕事といってもほとんど何もない。情けないことに部屋で布団にくるまるか、本を読むしかもうない。
「よかった!」
明里も嬉しそうだ。
「なんとなく。まだ帰りたくないんだ」
山南はそっと呟いた。
いよいよ空からは沢山の涙が落ちてきた。
明日には…止むかなぁ。
二人は直ぐに眠りについた。
翌朝。昨日の天気は嘘だったようにカラッと晴れ渡った。
明里に会って、山南も少しは心が晴れたことだろう。昨日よりは顔色が良い。
「じゃあ、また来るから」
山南は手を上げて島原を出た。島原の門前まで明里は送り出してくれた。
そんな心が晴れた山南にショックな出来事があった。https://carina.asukablog.net/Entry/10/ https://johnn.3rin.net/Entry/10/ https://paul.animech.net/Entry/9/
時代はどこまで彼をいじめるつもりなのだろう。立ち直りかけた山南には酷な話が町では飛び交っていた。
『幕府、血迷ったか』
結構有名な言葉なのではないだろうか。
幕府が血迷っているのは前からだ。そう思いながら山南は屯所へ向かった。
「あ…山南さん…お帰りなさい」
山南が門をくぐると一人の隊士が頭を下げた。
なんとなく暗い。
「あぁ。元気がないね?」
山南は顔を覗き込んだ。
「山南さん…ご存知ないですか?幕府が大虐殺を…多くが水戸藩の者です。私の父も…」
隊士は下に伏いた。もともと水戸藩士なのである。
「幕府が大虐殺…?大虐殺とは何人ぐらいだい?」
山南は怪訝な顔をした。大虐殺なんて言葉を聞くとは思っていなかったのだろう。
「3000超えです…」
「3000…そんな…!」
「攘夷を唱えていた浪士を丸裸にして断首したそうです…。幕府を潰すとか言う狂人じゃないんです。ただの水戸徳川臣です」
「ひどすぎる…。狂ってる。私はそんな奴らから飯をもらいたくない」
「私もです」
しばらくして、その隊士とは別れた。
幕府、血迷ったか…。そういう事か…。
山南はひどく落ち込んだ。なんせ、彼が通っていた道場にくるほとんどは水戸藩士だったからである。
これをきっかけに世の中の攘夷論者は一気に倒幕派に変わった。
意味がわからない。なんで攘夷派を幕府は虐殺するんだ。全く意味がわからない。
山南は混乱する一方だ。
廊下を歩いてもたまに混乱した隊士を目にした。
「もうわからない」
それから数日間。病気のように山南は部屋に籠っていた。
「山南さんどこか具合悪いんでしょうか?」
「さぁ…」
美海と沖田は心配そうに部屋の前に行く。
「でもしばらく一人にしてくれっていってたし…」
そのため美海達は部屋をノックすることも躊躇っている。
「またすぐ出てきますよ。ね?」
沖田にポンポンと優しく頭を叩かれる。
ドキンッ
あー――…なんでこんな時に心臓おかしくなるかなぁ?
美海は山南に出された宿題などすっかり忘れている。
「あ。土方さん」
沖田が廊下の角を指差した。
土方がバッと隠れる。
あれ?なんで俺隠れてんだ?
そう思い、土方は姿を現した。
「よう。別に俺は山南さんの様子を見に来たわけじゃねぇ。ただこの奥の倉庫に用があるだけだ」
土方は目を反らしながら言う。
「ぷっ!」
誰も何も聞いてないのにな。土方さんは素直じゃない。
沖田は知っている。ここのところ食事にも顔を出さない山南を心配して、何度も何度もこそこそと土方は様子を窺いに来ている。
「な!なんだ!本当だからな!」
土方はそう言うとズカズカと倉庫へ向かった。
用も無いくせに。
また沖田はニヤッと笑った。
「土方さん山南さんが心配なんですねぇ」
美海もニヤニヤしている。
こくこくと沖田は頷いた。
「今日は泊まっていこうかな」
「久しぶりやね!仕事は大丈夫なん?」
「…あぁ。大丈夫だよ」
仕事といってもほとんど何もない。情けないことに部屋で布団にくるまるか、本を読むしかもうない。
「よかった!」
明里も嬉しそうだ。
「なんとなく。まだ帰りたくないんだ」
山南はそっと呟いた。
いよいよ空からは沢山の涙が落ちてきた。
明日には…止むかなぁ。
二人は直ぐに眠りについた。
翌朝。昨日の天気は嘘だったようにカラッと晴れ渡った。
明里に会って、山南も少しは心が晴れたことだろう。昨日よりは顔色が良い。
「じゃあ、また来るから」
山南は手を上げて島原を出た。島原の門前まで明里は送り出してくれた。
そんな心が晴れた山南にショックな出来事があった。https://carina.asukablog.net/Entry/10/ https://johnn.3rin.net/Entry/10/ https://paul.animech.net/Entry/9/
時代はどこまで彼をいじめるつもりなのだろう。立ち直りかけた山南には酷な話が町では飛び交っていた。
『幕府、血迷ったか』
結構有名な言葉なのではないだろうか。
幕府が血迷っているのは前からだ。そう思いながら山南は屯所へ向かった。
「あ…山南さん…お帰りなさい」
山南が門をくぐると一人の隊士が頭を下げた。
なんとなく暗い。
「あぁ。元気がないね?」
山南は顔を覗き込んだ。
「山南さん…ご存知ないですか?幕府が大虐殺を…多くが水戸藩の者です。私の父も…」
隊士は下に伏いた。もともと水戸藩士なのである。
「幕府が大虐殺…?大虐殺とは何人ぐらいだい?」
山南は怪訝な顔をした。大虐殺なんて言葉を聞くとは思っていなかったのだろう。
「3000超えです…」
「3000…そんな…!」
「攘夷を唱えていた浪士を丸裸にして断首したそうです…。幕府を潰すとか言う狂人じゃないんです。ただの水戸徳川臣です」
「ひどすぎる…。狂ってる。私はそんな奴らから飯をもらいたくない」
「私もです」
しばらくして、その隊士とは別れた。
幕府、血迷ったか…。そういう事か…。
山南はひどく落ち込んだ。なんせ、彼が通っていた道場にくるほとんどは水戸藩士だったからである。
これをきっかけに世の中の攘夷論者は一気に倒幕派に変わった。
意味がわからない。なんで攘夷派を幕府は虐殺するんだ。全く意味がわからない。
山南は混乱する一方だ。
廊下を歩いてもたまに混乱した隊士を目にした。
「もうわからない」
それから数日間。病気のように山南は部屋に籠っていた。
「山南さんどこか具合悪いんでしょうか?」
「さぁ…」
美海と沖田は心配そうに部屋の前に行く。
「でもしばらく一人にしてくれっていってたし…」
そのため美海達は部屋をノックすることも躊躇っている。
「またすぐ出てきますよ。ね?」
沖田にポンポンと優しく頭を叩かれる。
ドキンッ
あー――…なんでこんな時に心臓おかしくなるかなぁ?
美海は山南に出された宿題などすっかり忘れている。
「あ。土方さん」
沖田が廊下の角を指差した。
土方がバッと隠れる。
あれ?なんで俺隠れてんだ?
そう思い、土方は姿を現した。
「よう。別に俺は山南さんの様子を見に来たわけじゃねぇ。ただこの奥の倉庫に用があるだけだ」
土方は目を反らしながら言う。
「ぷっ!」
誰も何も聞いてないのにな。土方さんは素直じゃない。
沖田は知っている。ここのところ食事にも顔を出さない山南を心配して、何度も何度もこそこそと土方は様子を窺いに来ている。
「な!なんだ!本当だからな!」
土方はそう言うとズカズカと倉庫へ向かった。
用も無いくせに。
また沖田はニヤッと笑った。
「土方さん山南さんが心配なんですねぇ」
美海もニヤニヤしている。
こくこくと沖田は頷いた。
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17:14
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2024年11月24日
「お!美海!明里さん見れたか?
「お!美海!明里さん見れたか?綺麗だったろ」
永倉はまだそこまで酔っていないようだが、原田は暴れている。
「あ。話させていただきました。綺麗な方ですねぇ」
藤堂は酒を飲みながら芸姑の舞を見ている。
「きゃー!立花さんやんなぁ!?噂よりもかっこいいなぁ!」
「本間やぁ!」
「は…はぁ…」
沢山の芸姑が美海の元へ寄る。
「かっこいいっていいねぇ!」
永倉はわははと笑っている。
嫌だなぁ…。女が女にベタベタされるって…。
「永倉さん。用を思い出したので先に帰りますね!」
「え~!帰るん~?」
「おう?お代は払っとくしいいぜ」 https://johnsmith123.pixnet.net/blog/post/167811238
https://johnsmith.e-monsite.com/blog/--9.html https://share.evernote.com/note/aa310945-0935-c4ba-fe85-e2578869103e
「ありがとうございます。じゃあ!」
ガラッ
美海は芸姑達は無視して島原を出た。
「ありがとうございました~。またのお越しを!」
後ろで元気の良い勘定の女の人の声が聞こえた。
悪いとこじゃ…ないんだけどなぁ…。
「待って!立花さん!」
クルリと美海は振り返る。
「明里さん!?」
「ハァ…はぁ。立花さん…山南さんの好きなものって知ってる!?」
「へ?私?なんで私に?」
それだけの事で走ってきたの?
明里は息を整えている。
「そう!山南さんが最近よく立花さんの話してたから立花さんが仲良いんかなって思って!」
私の話…するんだぁ。
「どんな話ですか?」
「えっと…沖田君と美海君に土方くんがいじめられてるよ。沖田君は毎日楽しそうだ。とか?」
「とか?」
「とか………」
明里は黙り込む。
土方さんイジリの話しかないじゃん!
「えっと…剣がとても強い子が入ったんだ。とか?」
「それ一番最初じゃないですか」
「うーん…。忘れたんやけど、いっつも誉めてはるよ!イイコやって」
「そうなんですか?」
美海は怪訝な顔をする。
「そうやで!」
「あ。そうそう。山南さんの好きなものですね。あんまわかんないなぁ…」
明里はジッと美海を見て答えを待っている。
「そろばんとか?」
「そろばん?」
「はい。よくそろばん持ち歩いてますよ」
「そっかぁ!立花さんありがとう!これで山南さんに贈り物できるわ!」
「ところでなんで山南さんに贈り物を?」
「んー―…。あの人も疲れてるくせにいっつもうちのこと気にしてくれはるから日頃の感謝?」
ニカッと明里は笑う。
「そうですか!」
思わず美海も微笑んだ。
「本間にありがとう!立花さんまた来てな!まけるで!」
「でわ」
美海は頭をペコリと下げた。
でも山南さんがあそこの売れっ子とデキてるなんてねぇ。明里さんは他の芸姑さんとは違う雰囲気だったなぁ。
なんか。本当に山南さんが好きな感じ。
帰り道、美海はさっきとは少し違う気分で歩いた。
なんだか頬が緩んでいた。
「宗次郎!もっと早く捕まえてよ!」
「キャハハハ!」
「宗次郎こっち!」
子供達かぁ。元気だなぁ。
寺の外の道にまでそのかわいらしい声は聞こえる。
今の屯所は寺と近いため、子供達がよく遊んでいるのを目にする。
「待ってくださいよぉ!ずっと私が鬼じゃないですかぁ!」
沖田さんの声…?
美海は走って道を曲がり、寺の境内に入った。
ジャリジャリ!
「きゃはははは!宗次郎がきたぁ!」
「いゃああぁ!あははは!」
「逃げろ逃げろ!」
「ゼェゼェ…皆さん…待ってくださいよ…。ずるいですよ…」
その場に不似合いな大きな、髪の長い青年が膝に手を着き肩で息をしている。
「沖田さん!?何してんですか!?」
「美海さん!?」
膝に手を着いているのは紛れもなく沖田だ。
「いやぁ。子供達と鬼ゴッコを」
「鬼ゴッコ?」
美海はそんな言葉を聞いたのは久しぶりだ。
「宗次郎~!何やってんのぉ?」
子供が大きな声で呼んでいる。
美海が子供達の方を向く。女の子と男の子。半分ずつ居て全部で六人だ。
7・8歳ぐらいかな?
「君達?この人はそーじろうじゃなくて沖田そーもがっ!?」
膝に手を着いていた沖田は即座に立ち上がり美海の口を塞いだ。
「んー――!ん!?」
なんですか!?と言わんばかりに美海は見ている。
「なぁ!そいつ…もしかして立花美海じゃねぇの…?髪が茶色いぞ…?」
「ぅわぁ!殺される!」
「気づかない内に一気に殺されるって母上が言ってた!」
キャーキャーと突如子供達は騒ぎだす。
永倉はまだそこまで酔っていないようだが、原田は暴れている。
「あ。話させていただきました。綺麗な方ですねぇ」
藤堂は酒を飲みながら芸姑の舞を見ている。
「きゃー!立花さんやんなぁ!?噂よりもかっこいいなぁ!」
「本間やぁ!」
「は…はぁ…」
沢山の芸姑が美海の元へ寄る。
「かっこいいっていいねぇ!」
永倉はわははと笑っている。
嫌だなぁ…。女が女にベタベタされるって…。
「永倉さん。用を思い出したので先に帰りますね!」
「え~!帰るん~?」
「おう?お代は払っとくしいいぜ」 https://johnsmith123.pixnet.net/blog/post/167811238
https://johnsmith.e-monsite.com/blog/--9.html https://share.evernote.com/note/aa310945-0935-c4ba-fe85-e2578869103e
「ありがとうございます。じゃあ!」
ガラッ
美海は芸姑達は無視して島原を出た。
「ありがとうございました~。またのお越しを!」
後ろで元気の良い勘定の女の人の声が聞こえた。
悪いとこじゃ…ないんだけどなぁ…。
「待って!立花さん!」
クルリと美海は振り返る。
「明里さん!?」
「ハァ…はぁ。立花さん…山南さんの好きなものって知ってる!?」
「へ?私?なんで私に?」
それだけの事で走ってきたの?
明里は息を整えている。
「そう!山南さんが最近よく立花さんの話してたから立花さんが仲良いんかなって思って!」
私の話…するんだぁ。
「どんな話ですか?」
「えっと…沖田君と美海君に土方くんがいじめられてるよ。沖田君は毎日楽しそうだ。とか?」
「とか?」
「とか………」
明里は黙り込む。
土方さんイジリの話しかないじゃん!
「えっと…剣がとても強い子が入ったんだ。とか?」
「それ一番最初じゃないですか」
「うーん…。忘れたんやけど、いっつも誉めてはるよ!イイコやって」
「そうなんですか?」
美海は怪訝な顔をする。
「そうやで!」
「あ。そうそう。山南さんの好きなものですね。あんまわかんないなぁ…」
明里はジッと美海を見て答えを待っている。
「そろばんとか?」
「そろばん?」
「はい。よくそろばん持ち歩いてますよ」
「そっかぁ!立花さんありがとう!これで山南さんに贈り物できるわ!」
「ところでなんで山南さんに贈り物を?」
「んー―…。あの人も疲れてるくせにいっつもうちのこと気にしてくれはるから日頃の感謝?」
ニカッと明里は笑う。
「そうですか!」
思わず美海も微笑んだ。
「本間にありがとう!立花さんまた来てな!まけるで!」
「でわ」
美海は頭をペコリと下げた。
でも山南さんがあそこの売れっ子とデキてるなんてねぇ。明里さんは他の芸姑さんとは違う雰囲気だったなぁ。
なんか。本当に山南さんが好きな感じ。
帰り道、美海はさっきとは少し違う気分で歩いた。
なんだか頬が緩んでいた。
「宗次郎!もっと早く捕まえてよ!」
「キャハハハ!」
「宗次郎こっち!」
子供達かぁ。元気だなぁ。
寺の外の道にまでそのかわいらしい声は聞こえる。
今の屯所は寺と近いため、子供達がよく遊んでいるのを目にする。
「待ってくださいよぉ!ずっと私が鬼じゃないですかぁ!」
沖田さんの声…?
美海は走って道を曲がり、寺の境内に入った。
ジャリジャリ!
「きゃはははは!宗次郎がきたぁ!」
「いゃああぁ!あははは!」
「逃げろ逃げろ!」
「ゼェゼェ…皆さん…待ってくださいよ…。ずるいですよ…」
その場に不似合いな大きな、髪の長い青年が膝に手を着き肩で息をしている。
「沖田さん!?何してんですか!?」
「美海さん!?」
膝に手を着いているのは紛れもなく沖田だ。
「いやぁ。子供達と鬼ゴッコを」
「鬼ゴッコ?」
美海はそんな言葉を聞いたのは久しぶりだ。
「宗次郎~!何やってんのぉ?」
子供が大きな声で呼んでいる。
美海が子供達の方を向く。女の子と男の子。半分ずつ居て全部で六人だ。
7・8歳ぐらいかな?
「君達?この人はそーじろうじゃなくて沖田そーもがっ!?」
膝に手を着いていた沖田は即座に立ち上がり美海の口を塞いだ。
「んー――!ん!?」
なんですか!?と言わんばかりに美海は見ている。
「なぁ!そいつ…もしかして立花美海じゃねぇの…?髪が茶色いぞ…?」
「ぅわぁ!殺される!」
「気づかない内に一気に殺されるって母上が言ってた!」
キャーキャーと突如子供達は騒ぎだす。
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01:18
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2024年11月22日
男の手から太刀がこぼれ落ちた。
男の手から太刀がこぼれ落ちた。
「後の憂いはいらぬ。おまえの子は、いずれ郎党として取り立ててやる」
国親は男を足で前に蹴倒し、太刀を引き抜くと同時にイダテンめがけて振り下ろした。
血糊と紅い髪の毛が宙を舞った。
「人を挟むとなかなか急所はつけぬのう。さすがに事前に試してみるわけにもいかなんだが」
いや、狙いは正確だった。
母の形見の鏡がなければ、今頃は骸をさらしていただろう。
この男も壊れているのだ。
配下の命を奪っておきながら、おのれの策に陶酔している。
長引かせるほど不利になる。
空を見ると、厚い雲が月を隠そうとしていた。
足元には、腹を貫かれた男の太刀が転がっていた。
闇が国親の背後から忍び寄る、その瞬間を待って手斧を捨てた。
太刀に手を伸ばし片腕だけで薙いだ。捨て身の前傾で。
それは両手で振るうより遥かに先まで届いた。
肉を裂く感触が伝わってきた。
抑えられてはいるものの獣のようなうめき声が聞こえてきた。
風が雲を押し流した。
欠けた月が姿を現し、片手をついて、うずくまっている国親の姿を照らし出した。
袴が血に濡れていた。
その顔は怒りに歪んでいた。
――何を怒っている。
罪もなく、お前に殺された者たちの恨みや怒りに比べれば何ほどのことがあろう。
止めを刺そうと足を踏み出したとき、後方で物音がした。
続いて、かすかなうめき声が耳に届いた。
振り返ると、姫が背負子ごと横に倒れていた。http://blog.aujourdhui.com/jennifer9922/2710329/25163---12395---12375---12383---22826---20992---12434---25237---12370---12388---12369---12424---12358---12392---25569.html http://jeffrey948.eklablog.com/-a216456201 https://avisterry.futbolowo.pl/news/article/news-37
あわてて駆け寄った。
腰に矢が突き刺さっていた。
袿が血で濡れている。
おのれの迂闊さに腹が立った。
この荒れ地に入ってから射られたのではない。
前の道を横切ったときに射られたのだ。
幾重にも衣を重ね、さらに毛皮を羽織っていたためか、深くは刺さっていないように見える。
いや、腰の骨に当たって止まったのであれば骨が砕けているかも知れない。
姫の手から、小さな白い花がこぼれ落ちた。
血の気がひき、汗が浮かんだ額に、乱れた髪が貼りついていた。
呼吸も乱れている。
一刻も早く隆家の邸に届けて、薬師の治療を受けさせねばならない。
だが、矢が刺さったままでは、獣道どころか山道を走ることさえできない。
枝などに当たれば傷を深くしてしまうからだ。
かといって、抜いてしまうと、より血が流れる。
丸薬を一粒、姫の喉の奥にねじ込んだ。
痛みがやわらぐまでにはしばらくかかる。
落ちていた矢の軸を重ね、端布を巻き、口に咥えさせ、尻で腰を押さえつけ、危険を承知で刺さった矢の軸を短く折った。
喰いしばった歯から声が漏れる。血の気の引いた顔に涙と汗がにじんだ。
矢を折った後、その穴から毛皮を抜き、開いた穴に縄を通してたくし上げた。
矢の刺さった個所の衣を十文字に裂いた。
見た目より遥かに重い守袋を姫の首から外し、背負子に結びつけた。
蹄の音が耳に届く。
国親がうずくまっていた場所に目をやるが、すでにその姿はない。
洞窟か祠の陰にでも隠していた馬で逃れたのだろう。
自らの肩の傷は、倒した郎党の衣を裂き、幾重にも巻きつけ、押さえつけてごまかした。
隆家の邸まで持てばよい。
が、足は限界に近く、肩は空の背負子を担ぐのさえ辛い――姫を背負って、馬木までたどり着けるとは思えなかった。
もはや選択の余地はない。
最後の丸薬を口に放り込んだ。
水の流れる音がする。
崖の上から峡谷に注いでいる滝が見えた。
龍門と呼ばれている滝だ。
張りだした崖の内側は大きくえぐれていた。
流れ落ちる水の下を潜るように道が続いている。
まっすぐに進めば、目指している馬木へと続く。
道をそれ、動かぬ体を叱咤し、脂汗を流し、痛みをこらえ、崖を登り、沢をさかのぼる。
足元の岩盤は長い年月をかけて削られ、曲がりくねった水路となっている。
その沢を枝葉が覆い、月の光をさえぎっていた。
しばらく登っていくと空が開けた。そこには何事も無かったかのように星が輝いていた。
「後の憂いはいらぬ。おまえの子は、いずれ郎党として取り立ててやる」
国親は男を足で前に蹴倒し、太刀を引き抜くと同時にイダテンめがけて振り下ろした。
血糊と紅い髪の毛が宙を舞った。
「人を挟むとなかなか急所はつけぬのう。さすがに事前に試してみるわけにもいかなんだが」
いや、狙いは正確だった。
母の形見の鏡がなければ、今頃は骸をさらしていただろう。
この男も壊れているのだ。
配下の命を奪っておきながら、おのれの策に陶酔している。
長引かせるほど不利になる。
空を見ると、厚い雲が月を隠そうとしていた。
足元には、腹を貫かれた男の太刀が転がっていた。
闇が国親の背後から忍び寄る、その瞬間を待って手斧を捨てた。
太刀に手を伸ばし片腕だけで薙いだ。捨て身の前傾で。
それは両手で振るうより遥かに先まで届いた。
肉を裂く感触が伝わってきた。
抑えられてはいるものの獣のようなうめき声が聞こえてきた。
風が雲を押し流した。
欠けた月が姿を現し、片手をついて、うずくまっている国親の姿を照らし出した。
袴が血に濡れていた。
その顔は怒りに歪んでいた。
――何を怒っている。
罪もなく、お前に殺された者たちの恨みや怒りに比べれば何ほどのことがあろう。
止めを刺そうと足を踏み出したとき、後方で物音がした。
続いて、かすかなうめき声が耳に届いた。
振り返ると、姫が背負子ごと横に倒れていた。http://blog.aujourdhui.com/jennifer9922/2710329/25163---12395---12375---12383---22826---20992---12434---25237---12370---12388---12369---12424---12358---12392---25569.html http://jeffrey948.eklablog.com/-a216456201 https://avisterry.futbolowo.pl/news/article/news-37
あわてて駆け寄った。
腰に矢が突き刺さっていた。
袿が血で濡れている。
おのれの迂闊さに腹が立った。
この荒れ地に入ってから射られたのではない。
前の道を横切ったときに射られたのだ。
幾重にも衣を重ね、さらに毛皮を羽織っていたためか、深くは刺さっていないように見える。
いや、腰の骨に当たって止まったのであれば骨が砕けているかも知れない。
姫の手から、小さな白い花がこぼれ落ちた。
血の気がひき、汗が浮かんだ額に、乱れた髪が貼りついていた。
呼吸も乱れている。
一刻も早く隆家の邸に届けて、薬師の治療を受けさせねばならない。
だが、矢が刺さったままでは、獣道どころか山道を走ることさえできない。
枝などに当たれば傷を深くしてしまうからだ。
かといって、抜いてしまうと、より血が流れる。
丸薬を一粒、姫の喉の奥にねじ込んだ。
痛みがやわらぐまでにはしばらくかかる。
落ちていた矢の軸を重ね、端布を巻き、口に咥えさせ、尻で腰を押さえつけ、危険を承知で刺さった矢の軸を短く折った。
喰いしばった歯から声が漏れる。血の気の引いた顔に涙と汗がにじんだ。
矢を折った後、その穴から毛皮を抜き、開いた穴に縄を通してたくし上げた。
矢の刺さった個所の衣を十文字に裂いた。
見た目より遥かに重い守袋を姫の首から外し、背負子に結びつけた。
蹄の音が耳に届く。
国親がうずくまっていた場所に目をやるが、すでにその姿はない。
洞窟か祠の陰にでも隠していた馬で逃れたのだろう。
自らの肩の傷は、倒した郎党の衣を裂き、幾重にも巻きつけ、押さえつけてごまかした。
隆家の邸まで持てばよい。
が、足は限界に近く、肩は空の背負子を担ぐのさえ辛い――姫を背負って、馬木までたどり着けるとは思えなかった。
もはや選択の余地はない。
最後の丸薬を口に放り込んだ。
水の流れる音がする。
崖の上から峡谷に注いでいる滝が見えた。
龍門と呼ばれている滝だ。
張りだした崖の内側は大きくえぐれていた。
流れ落ちる水の下を潜るように道が続いている。
まっすぐに進めば、目指している馬木へと続く。
道をそれ、動かぬ体を叱咤し、脂汗を流し、痛みをこらえ、崖を登り、沢をさかのぼる。
足元の岩盤は長い年月をかけて削られ、曲がりくねった水路となっている。
その沢を枝葉が覆い、月の光をさえぎっていた。
しばらく登っていくと空が開けた。そこには何事も無かったかのように星が輝いていた。
Posted by energyelaine at
22:54
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2024年11月20日
「義久」 と、呼ぶ声に、われに返る。
「義久」
と、呼ぶ声に、われに返る。
姫が松明を抱えて立っていた。
火はついていないが、姫が持つと、いかにも重たげである。
門番が近くに用意していたのだろう。
「篝火が消えると砦の者が不審に思いましょう。薪を足そうとしたのですが熱くて近づけません。これなら届きそうですが……たくさんありますか?」
松明か。
しかし、松明を掲げて突入したところで効果はあるまい。
むしろ、目立って的になるだけだ。
「松明ならば、裏の納屋にありましょう。薪ならわたしが……」
姫から松明を受け取ろうとして、頭の隅に何かが引っかかった。
姫は、それを待っていたかのように、
「まさか、あの時のようなことを考えているのではないでしょうね」
と、続けた。
「ああ、山犬の尾に……あれは傑作でありましたなあ」
「思い出しましたか?」
姫は何かをうながすように義久を見つめてきた。https://blog.udn.com/79ce0388/181348143 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/88/ https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-115.html
「あの時でしたかなあ。薪小屋に閉じ込められたのは」
「……杉の木に縛りつけられたのですよ」
ため息をつかせてしまった。
姫の期待した答えではなかったようだ。
義久は、腕を組み、天を仰いだ。
「ああ、そうでしたかな? 姫様の記憶のほうが確かでしょう」
「まあ、本当に忘れているのですか――まさか、わたしを山中に置き去りにしたことも?」
幼い童のように唇を、つんと尖らせて詰め寄る姫に、義久は腰を引いた。
「……いや、あれは」
忘れてなどいるものか。
二年と八月前、卯月の二十日のことだ。
あれが家を出るきっかけとなったのだ。
義久は元服前の十四歳。姫は八歳だった。
それまでも、母が姫の乳母であり、祖父の忠信が姫の警護役を兼ねていたことで、時折、遊び相手をしていた。
身分を考えればありえないことだった。田舎のことで、貴族の姫君はおろか、地下役人の姫君でさえ数えるほどしかいなかったということもある。
いたところで齢も離れていた。
訪れるのであれば何日も前に先触れを出し、約束をとりつけるのが貴族としての礼儀だ。
体が弱く、頻繁に熱を出す姫は、約束を守れぬのを嫌って他家の姫君と会わなくなった。
代わりに、義久ら近くにいる者が遊び相手になった。
忠信が、小太郎と呼ばれていた義久を中心に据えたのだ。
むろん、当初は、地下役人の姫君を女房としてそばに置こうとした。
だが、何かと理由をつけて断ってきた――流罪となった元内大臣と日の出の勢いの左大臣。
どちらの機嫌を損ねないほうがよいかは誰の目にも明らかだった。
おじじから脅し半分で、引き受けさせられた遊び相手だったが、すぐに姫に会うのが楽しみになった。
義久とて大人とは言えぬ年で、恋と呼ぶには早すぎたかもしれぬ。
まだまだ幼いとは言え、この姫のためならと思う愛らしさと、朝になれば消えてしまう露のような儚さを備えていた。
その姫に雛遊びに誘われたのだ。
幾度かは適当なことを言ってごまかしたが、さすがに断り続けることはできなかった。
主従の関係だからではない。
好いたおなごの頼みだからだ。
しかも、雛遊びである。
仮とはいえ夫婦役なのだ。ほかの男に、その役が振られることになったら一生後悔するだろう。
どうして断り続けることができようか。
が、やっては見たものの、むずがゆくてできるものではない。
「温品郷で川の漁業権をめぐって揉めておる。わししか収められぬ」
「すぐに帰る」
と、いって逃げ出した。
むろん、雛遊びのなかのことである。
後悔したが帰れるはずもない。
そして、あとでなじられたのだ。
あれは二度目のことだった。
「わが妻のために山桃を採ってこよう」
と、席をはずそうとしたのだ。
姫はついて行くと言ってきかなかった。
さすがに察したのだろう。
潤んだ瞳で、すがるように見つめられ、白く細い指で袂を掴まれた。
振り切ることなどできようはずもない。
やむなく、女房の目を盗み、壁に梯子をかけて姫を連れ出した。
そして、山に入って虫取りに夢中になって姫を置き去りにした。
――間違ってはいない。
間違ってはいないが、言い分はある。
雑木林に入った途端、見たこともない美しく大きい蝶が、まるで、誘うように目の前を横切ったのだ。
心が震えた。
あれを見せたら、どれほど姫が喜んでくれるかと。
だが、蝶は義久をあざ笑うかのように舞い踊り、山の奥へ奥へと入っていた。
結局、見失った。
蜘蛛の巣を枝に絡め、網を作る暇さえなかった。
と、呼ぶ声に、われに返る。
姫が松明を抱えて立っていた。
火はついていないが、姫が持つと、いかにも重たげである。
門番が近くに用意していたのだろう。
「篝火が消えると砦の者が不審に思いましょう。薪を足そうとしたのですが熱くて近づけません。これなら届きそうですが……たくさんありますか?」
松明か。
しかし、松明を掲げて突入したところで効果はあるまい。
むしろ、目立って的になるだけだ。
「松明ならば、裏の納屋にありましょう。薪ならわたしが……」
姫から松明を受け取ろうとして、頭の隅に何かが引っかかった。
姫は、それを待っていたかのように、
「まさか、あの時のようなことを考えているのではないでしょうね」
と、続けた。
「ああ、山犬の尾に……あれは傑作でありましたなあ」
「思い出しましたか?」
姫は何かをうながすように義久を見つめてきた。https://blog.udn.com/79ce0388/181348143 https://freelancer.anime-voice.com/Entry/88/ https://ypxo2dzizobm.blog.fc2.com/blog-entry-115.html
「あの時でしたかなあ。薪小屋に閉じ込められたのは」
「……杉の木に縛りつけられたのですよ」
ため息をつかせてしまった。
姫の期待した答えではなかったようだ。
義久は、腕を組み、天を仰いだ。
「ああ、そうでしたかな? 姫様の記憶のほうが確かでしょう」
「まあ、本当に忘れているのですか――まさか、わたしを山中に置き去りにしたことも?」
幼い童のように唇を、つんと尖らせて詰め寄る姫に、義久は腰を引いた。
「……いや、あれは」
忘れてなどいるものか。
二年と八月前、卯月の二十日のことだ。
あれが家を出るきっかけとなったのだ。
義久は元服前の十四歳。姫は八歳だった。
それまでも、母が姫の乳母であり、祖父の忠信が姫の警護役を兼ねていたことで、時折、遊び相手をしていた。
身分を考えればありえないことだった。田舎のことで、貴族の姫君はおろか、地下役人の姫君でさえ数えるほどしかいなかったということもある。
いたところで齢も離れていた。
訪れるのであれば何日も前に先触れを出し、約束をとりつけるのが貴族としての礼儀だ。
体が弱く、頻繁に熱を出す姫は、約束を守れぬのを嫌って他家の姫君と会わなくなった。
代わりに、義久ら近くにいる者が遊び相手になった。
忠信が、小太郎と呼ばれていた義久を中心に据えたのだ。
むろん、当初は、地下役人の姫君を女房としてそばに置こうとした。
だが、何かと理由をつけて断ってきた――流罪となった元内大臣と日の出の勢いの左大臣。
どちらの機嫌を損ねないほうがよいかは誰の目にも明らかだった。
おじじから脅し半分で、引き受けさせられた遊び相手だったが、すぐに姫に会うのが楽しみになった。
義久とて大人とは言えぬ年で、恋と呼ぶには早すぎたかもしれぬ。
まだまだ幼いとは言え、この姫のためならと思う愛らしさと、朝になれば消えてしまう露のような儚さを備えていた。
その姫に雛遊びに誘われたのだ。
幾度かは適当なことを言ってごまかしたが、さすがに断り続けることはできなかった。
主従の関係だからではない。
好いたおなごの頼みだからだ。
しかも、雛遊びである。
仮とはいえ夫婦役なのだ。ほかの男に、その役が振られることになったら一生後悔するだろう。
どうして断り続けることができようか。
が、やっては見たものの、むずがゆくてできるものではない。
「温品郷で川の漁業権をめぐって揉めておる。わししか収められぬ」
「すぐに帰る」
と、いって逃げ出した。
むろん、雛遊びのなかのことである。
後悔したが帰れるはずもない。
そして、あとでなじられたのだ。
あれは二度目のことだった。
「わが妻のために山桃を採ってこよう」
と、席をはずそうとしたのだ。
姫はついて行くと言ってきかなかった。
さすがに察したのだろう。
潤んだ瞳で、すがるように見つめられ、白く細い指で袂を掴まれた。
振り切ることなどできようはずもない。
やむなく、女房の目を盗み、壁に梯子をかけて姫を連れ出した。
そして、山に入って虫取りに夢中になって姫を置き去りにした。
――間違ってはいない。
間違ってはいないが、言い分はある。
雑木林に入った途端、見たこともない美しく大きい蝶が、まるで、誘うように目の前を横切ったのだ。
心が震えた。
あれを見せたら、どれほど姫が喜んでくれるかと。
だが、蝶は義久をあざ笑うかのように舞い踊り、山の奥へ奥へと入っていた。
結局、見失った。
蜘蛛の巣を枝に絡め、網を作る暇さえなかった。
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